2 / 306
第一章 再誕者の産声
再誕者の産声
しおりを挟むプラズマ製の白いヴェールが晴れる。
その瞬間が一番恐ろしかった。
物理学は、次元の狭間に、虚無の海があることを予測している。
まだ人類はこの領域を観測してはいない。
だが、そこが良い場所じゃないことくらいはわかる。
人類が侵してはいけない規制線の向こう側だ。
虚無の海にはなにもない。
それは文字列のならぶ紙面上の余白と同じだ。何かが存在する余地がまるでない。
ひたすらの虚空。光も音も反射してかえってくることはない。だから、なにも見えない。なにも聞こえない。刺激ゼロのひたすらの無。
星のない宇宙と形容するロマンチストもいる。俺がそのロマンチストだ。
プラズマの残照が完全に失われた。
案の定、あたりは真っ暗だった。
──失敗確定演出ですね、ノー転移でフィニッシュです
これが虚無の海か。
ほんとうになにもないんだな。
果てしない絶望に息を呑むことすらできやしない。
人類初虚無の海にやってきたというのに、全然嬉しくない。
やっぱり2%の壁に挑戦するのは無謀すぎた。
98%失敗率あるのにトレーニングさせるトレーナーくらい無謀だった。
俺は孤独に死ぬ。
すべてがここで終わる──
ん?
「────」
「──っ、────!」
すべてが零に帰着するはずだった。
なのに、何かが俺へ刺激をもたらした。
ありえない。ここは虚無の海のはずだ!
光も音も観測することはできない究極の無のはずなのに!
なのにどうして?
予想を超えた異常が起きているのか?
俺は感覚を研ぎ澄ませる。
……これは音? あるいは光? はたまた触感だろうか?
五感のどれが反応しているのか判別できない。
だが、間違いなく、外側から刺激が加わっている。
曖昧だった。
すべての輪郭が溶けて湯に流れ出したかのようだ。
「───!」
「─────────、───!!」
「──。──、────」
溶けた輪郭がふたたび一つになっていく。
失われた機能が再び息をふきかえすかのように、魂が脈を打ちはじめる。
得体のしれない刺激が強くなってきた。
決定的瞬間がそこまで迫っているような──そんな確信があった。
そして、直後、俺の体に電流がはしった。
超能力に覚醒したとき以来の、巨大な衝撃だった。
真っ暗だった視界に、光が波打つ。
霧ががかった聴覚に、音が踊りだす。
詰まった臭覚が動きだし、呼吸器系が惰眠から目覚め、世界を循環させはじめる。
全身にドッと重力を感じる。
不完全だった輪郭が完全にカタチを取り戻したのだ。
「そん、な、そんな……うわあああん……っ!」
「どうしてこんな事になったんだ……」
「これ以上の処置は無駄でしょう……息をしてません。残念ですが、あなたがたのお子さんはもう……」
「なんとか、なんとか、できないの!? こんなのってあんまりよ……! ようやく産まれてきてくれると思ったのに……っ」
「どうして俺たちの子なんだ……この子がなにをしたって言う……」
しょぼくれた視界の中には、大人が3人、なにかを言いあっている。
みんな沈鬱な表情だ。外国語を喋っているので俺には会話がわからない。
ふと、黒い髪の男と目があった。
メガネをした薄紅色の瞳の男だ。カラコンだろうか。イケメンだな。性の悦び知ってるような顔だ。死ねばいいのに。
俺はいつもの卑屈な癖で、とりあえすペコリと頭をさげる。男がイケメンだったので、本能的に負けを認めてしまっているらしい。いつも通り、ちゃんと情けない。
「…………………え?」
「ぐすん、どうしたのアディ……アーカムを見て……」
「いや……あれ…………、アーカムが、こっち見てる……」
男は俺を指さす。信じられないような顔で。
視線を真上にむければ、今度は思わず目を見開いてしまう美女がいた。
銀色の髪、水色の瞳。絶世の美女じゃ。美女が俺を見ている!?
「っ!!!!???」
銀色の美女の目元は真っ赤に腫れていた。
が、俺と目があった瞬間に、幻想的な瞳がカッと開かれる。
「生き、かえ、った……」
「生きかえった……、生きかえったわっ!!!」
「奇跡だ……っ! この子は神に愛されてる!」
「もうだめかと思ったわ、うわわあああん……っ!」
「そうだね、エヴァ。でも、俺たちのアーカムは強い子だった!」
黒髪の男と、銀髪の美女は涙を流しながら、俺にほおずりしてくる。
特に男のほうは、軽々と俺をもちあげると「アーカム、奇跡の子だ!」と、俺のわからない言葉で感涙こぼしながら何度も叫んだ。
1mmも理解が追い付いていなかった。
男は俺もちあげるくらい腕力やべえし、美女は美女だし……。
虚無の海に落ちたのに、なにを間違えればこうなる。
「アーカム! 産まれてきてくれてありがとう!」
「本当によかったわ……死んで産まれてくるなんて、きっと将来は大物になるに違いないわ!」
騒々しい外国人たちに囲まれながら俺は結論をだした。
すべての疑問に説明をつける方法はだたひとつしかない。
やはり俺は死んだようだ。まる。
14
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる