転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第3章 逆襲編

第3章ー㉒

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 「勇者…さんっ」

 破壊光線による火煙が結界内に充満していき、中の様子が見えずにいる。そのせいで自分は激しく不安に駆られていた。今の一撃、避けられるような速度と威力ではない。仮に避けれたとしても無事では済まない。まさか十死怪の一人を倒した勇者ですら奴に勝てないのか。そんなことが脳裏に過った。

 「あっっっぶねぇ」

 「ッ!? ほぉ?」

 しかし、煙が消えるとボロボロのマントを前に翳《かざ》す勇者の姿があった。見た感じ血は流れていない様子。無事なのか? ひょっとしてあのボロボロのマント一つで防いだというのか?

 「なるほど。そのオンボロマント、魔道具の類か」

 「まあな。だいぶ使いまわして耐久力もいよいよってところだったが、今の一撃でトドメ刺しちまったみたいだ」

 マントでなんとか奴の攻撃を防いだようだが、元々ボロボロだったマントは下から半分以上が焼き切れてしまったようで、勇者はマントを後ろに投げ捨てる。見るからにだいぶ使用していたようだが、とうとう限界を迎えてしまったようだ。

 「はっ、それはつまり、二度目は防げねぇってことだよなぁぁ?!」

 「俺に同じ技が通用すればの話だがな」

 「はーはっはっはっ、いいやがる」

 おそらく唯一の防御手段であっただろうマントを失ってしまった勇者だが、顔にはまだ余裕を感じる。狭い結界の中であの一撃をもう一度撃たれたらたまったものではないはずだが、他に対抗手段でもあるのだろうか。

 「ならもういっぺん…」

 「撃てる余裕があればいいけどな」

 「ぐっ!?」

 ダークボルトがもう一度さっきの魔法を撃とうとするが、すかさず勇者は距離を詰めてそれを阻止。流石に撃って来るとわかっていて止めないわけはないか。

 「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」

 「あ゛あ゛っん?!」

 幾度目かの接近戦を繰り広げるなか、勇者も負けじと詠唱を唱えていた。あの魔法は…

 「【火球《フレール》】!」

 「なにっ!?」

 勇者は詠唱を唱え終えると、左手を構え火球を放とうとしていた。それを右手の剣で相手の攻撃を捌きながらこなしているのだ。普通の人が到底出来る芸当ではない。しかも、炎を極限まで凝縮したかのように綺麗な手のひらサイズの球体にまで抑えられていてとても美しい火球である。

 「はぁっ!」

 「くっ!?」

 そんな火球をゼロ距離で放つ勇者。慌てて後ろに下がるダークボルト。辛うじて回避するものの、ほんの僅かに腹を掠めていた。

 「ッ!?」

 勇者の放った火球は結界の端にまで到達すると火球が爆ぜてしまったのだが、その威力があまりにも凄まじく、思わず自分はビクッと驚いてしまった。あんな小さなサイズで自分の7,8割ぐらいの威力を出していることに驚きを禁じ得ない。

 「どうした? お前のさっきの魔法に比べれば大したことねーだろ?」

 「…んにゃろう!」

 お互い魔法を撃ちあったことで、勇者とダークボルトの目に火花が散っているのが見えた。
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