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第19話 契約
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「ジニアスの名の下において、この者たちに神の祝福を与えん」
ジニアスは左手に教本を持ち、右手をモエたちに向けてかざしている。本来こういう事は聖教会で行うのだが、今回はやむなしといった感じでガーティス子爵の私室で行っている。
モエは何を行うのかという事を簡単に説明を受けたが、とりあえずよく分かっていないようである。聖獣を腕に抱えたままじっと立っている。
ジニアスが魔力を放出すると、教本が反応して床に魔法陣が浮かび上がる。
「きれーい……」
ふわふわと浮かび上がる魔法の光に、とても感動しているモエ。聖獣も釣られるようにして喜んでいるようだ。
だが、そう言っていられたのも少しの間だけだった。
「うわっ、何これ……」
モエは困惑した声を出す。それもそうだろう、今度はモエと聖獣が揃って光り出したのだ。
「ふむ、無事に準備が整いましたぞ。モエさん、あなたにはその聖獣のパートナーとして認められたようです。その子に名付けをする事で、この契約は成立する事となりますぞ」
「えっえっ、名付け? 何それ、あわわわ……」
ジニアスが落ち着いて喋っているのだが、モエは自分に起きている事がまったく理解できずに慌てている。
「名付けとは名前を付ける事です。あなたが自分をモエと名乗っているように、その子にそういう名前を付けてあげるのですよ」
「ふえっ、そ、そういう事……。だったら……」
モエは光の中で聖獣をじっと見る。
目の前に居るのはプリズムウルフ、光を操る聖獣だ。
聖獣をじっと見つめていたモエの中に、とある言葉がふわりと浮かんできた。
「決めました」
顔を上げてモエは言う。
「そうか。であれば、額を当ててその名を告げるといい。それでこの契約は完了する」
「はい」
ジニアスの言葉を受けて、モエは聖獣を抱え上げ、その額に自分の額を当てる。ただ、かぶっている帽子のせいか、聖獣はちょっとくすぐったそうにしている。
「ルス。それが君の名前だよ」
「あうぉーん!」
モエの呼び掛けに応えるように聖獣が雄たけびを上げる。すると、足元の魔法陣がさらに強い光を放ち、ぱあっとその光を散らした。キラキラと光が舞い落ちる中、モエは聖獣を抱えたまま呆然と立っている。
その光が完全に消えると、ジニアスは構えを解いて教本を服の中にしまっていた。
「うっ……」
「あっ、おじいさん、大丈夫ですか?!」
急にジニアスがその場に膝をついたものだから、モエは慌ててジニアスに駆け寄った。
「なに、ちょっと久しぶりに大規模な魔法を使って疲れただけじゃ。ちょっと休めば大丈夫じゃよ」
心配そうなモエに対して、ジニアスはにこりと微笑みながらよっこらせと体を起こしていた。
「そ、それじゃちょっと疲れによさそうなものを貰ってきます」
モエは慌てて部屋を出ていこうとするが、ルスがついてくる。
「ルス、ちょっとそのおじいさんについていてあげて。すぐに戻って来るから、ね?」
「くぅーん……」
モエがちょっと強めに言うと、ルスは寂しそうに頭を下げていた。
「大丈夫、本当に少しの間だから。いい子に待っててね」
「わう」
モエが軽く頭を撫でてあげると、ルスは嬉しそうに吠えた。
モエを見送ったルスは、言われた通りにジニアスに寄り添っている。機嫌が悪くなる様子がない事から、ジニアスはルスに気に入られたようである。
「生きている間に聖獣の契約魔法を使う事になるは思わなんだな。ふぅ、これならもういつ死んでも思い残す事はないじゃろう」
ジニアスはそう言いながら、ルスを抱え上げて近くに椅子に腰を掛ける。
「だが、その前にお前さんを酷い目に遭わせた連中を見つけねばな。神に仕える身として、この事を見逃す事などできはせぬぞ」
ルスに語り掛けるように喋るジニアス。そして、きょとんとした表情で見上げてくるルスの頭を、優しく撫でていた。
しばらくするとモエが戻ってくる。
「お待たせしました。マイコニド特製の疲労回復ドリンクですよ。いやーさすが貴族の家ですね、材料が揃っていて簡単に作る事ができました」
ものすごくにこやかな表情で入ってきた。
「おや、結構いい香りがしますな。飲んでもよろしいのですかな」
「もちろん。おじいさんのために淹れてきたんですから、ぐいっと飲んじゃって下さい」
飲み物を乗せていたお盆を胸の前に抱えながら、モエは自信満々に言い切っていた。
「ほほほ、そう言うのであれば、頂こうかのう」
ぐいっとモエが淹れてきた飲み物を飲み干すジニアス。
「ほう、これはうまいのう。念のためにこっそり鑑定させてもろうたが、確かに体にいいもののようじゃな」
ジニアスがこう感想を述べれば、モエはえっへんと胸を張っていた。
「わうっ」
そんな中、ルスはジニアスの膝の上からぴょんと飛び降りてモエにすり寄る。
「そうそう、ルスにもちゃんとあるわよ。厨房でいろいろお願いするのはちょっと怖かったけど、私頑張ったんだから」
モエはしゃがみ込むと、ルスの前に捨てるはずだった残飯を置いた。
「ごめんね、こんなのしか用意できなくて」
ルスの頭を撫でながら謝るモエだが、ルスは特に気にする様子はなくもぐもぐと元気に食べていた。もうすっかり体の調子はいいようだ。
調査団の結成を指示してきたガーティス子爵が戻ってくると、部屋の中がそんな事になっていたのでとても驚いたのは言うまでもない話である。
こうして、ガーティス子爵の屋敷に聖獣が住み着く事となったのだった。
ジニアスは左手に教本を持ち、右手をモエたちに向けてかざしている。本来こういう事は聖教会で行うのだが、今回はやむなしといった感じでガーティス子爵の私室で行っている。
モエは何を行うのかという事を簡単に説明を受けたが、とりあえずよく分かっていないようである。聖獣を腕に抱えたままじっと立っている。
ジニアスが魔力を放出すると、教本が反応して床に魔法陣が浮かび上がる。
「きれーい……」
ふわふわと浮かび上がる魔法の光に、とても感動しているモエ。聖獣も釣られるようにして喜んでいるようだ。
だが、そう言っていられたのも少しの間だけだった。
「うわっ、何これ……」
モエは困惑した声を出す。それもそうだろう、今度はモエと聖獣が揃って光り出したのだ。
「ふむ、無事に準備が整いましたぞ。モエさん、あなたにはその聖獣のパートナーとして認められたようです。その子に名付けをする事で、この契約は成立する事となりますぞ」
「えっえっ、名付け? 何それ、あわわわ……」
ジニアスが落ち着いて喋っているのだが、モエは自分に起きている事がまったく理解できずに慌てている。
「名付けとは名前を付ける事です。あなたが自分をモエと名乗っているように、その子にそういう名前を付けてあげるのですよ」
「ふえっ、そ、そういう事……。だったら……」
モエは光の中で聖獣をじっと見る。
目の前に居るのはプリズムウルフ、光を操る聖獣だ。
聖獣をじっと見つめていたモエの中に、とある言葉がふわりと浮かんできた。
「決めました」
顔を上げてモエは言う。
「そうか。であれば、額を当ててその名を告げるといい。それでこの契約は完了する」
「はい」
ジニアスの言葉を受けて、モエは聖獣を抱え上げ、その額に自分の額を当てる。ただ、かぶっている帽子のせいか、聖獣はちょっとくすぐったそうにしている。
「ルス。それが君の名前だよ」
「あうぉーん!」
モエの呼び掛けに応えるように聖獣が雄たけびを上げる。すると、足元の魔法陣がさらに強い光を放ち、ぱあっとその光を散らした。キラキラと光が舞い落ちる中、モエは聖獣を抱えたまま呆然と立っている。
その光が完全に消えると、ジニアスは構えを解いて教本を服の中にしまっていた。
「うっ……」
「あっ、おじいさん、大丈夫ですか?!」
急にジニアスがその場に膝をついたものだから、モエは慌ててジニアスに駆け寄った。
「なに、ちょっと久しぶりに大規模な魔法を使って疲れただけじゃ。ちょっと休めば大丈夫じゃよ」
心配そうなモエに対して、ジニアスはにこりと微笑みながらよっこらせと体を起こしていた。
「そ、それじゃちょっと疲れによさそうなものを貰ってきます」
モエは慌てて部屋を出ていこうとするが、ルスがついてくる。
「ルス、ちょっとそのおじいさんについていてあげて。すぐに戻って来るから、ね?」
「くぅーん……」
モエがちょっと強めに言うと、ルスは寂しそうに頭を下げていた。
「大丈夫、本当に少しの間だから。いい子に待っててね」
「わう」
モエが軽く頭を撫でてあげると、ルスは嬉しそうに吠えた。
モエを見送ったルスは、言われた通りにジニアスに寄り添っている。機嫌が悪くなる様子がない事から、ジニアスはルスに気に入られたようである。
「生きている間に聖獣の契約魔法を使う事になるは思わなんだな。ふぅ、これならもういつ死んでも思い残す事はないじゃろう」
ジニアスはそう言いながら、ルスを抱え上げて近くに椅子に腰を掛ける。
「だが、その前にお前さんを酷い目に遭わせた連中を見つけねばな。神に仕える身として、この事を見逃す事などできはせぬぞ」
ルスに語り掛けるように喋るジニアス。そして、きょとんとした表情で見上げてくるルスの頭を、優しく撫でていた。
しばらくするとモエが戻ってくる。
「お待たせしました。マイコニド特製の疲労回復ドリンクですよ。いやーさすが貴族の家ですね、材料が揃っていて簡単に作る事ができました」
ものすごくにこやかな表情で入ってきた。
「おや、結構いい香りがしますな。飲んでもよろしいのですかな」
「もちろん。おじいさんのために淹れてきたんですから、ぐいっと飲んじゃって下さい」
飲み物を乗せていたお盆を胸の前に抱えながら、モエは自信満々に言い切っていた。
「ほほほ、そう言うのであれば、頂こうかのう」
ぐいっとモエが淹れてきた飲み物を飲み干すジニアス。
「ほう、これはうまいのう。念のためにこっそり鑑定させてもろうたが、確かに体にいいもののようじゃな」
ジニアスがこう感想を述べれば、モエはえっへんと胸を張っていた。
「わうっ」
そんな中、ルスはジニアスの膝の上からぴょんと飛び降りてモエにすり寄る。
「そうそう、ルスにもちゃんとあるわよ。厨房でいろいろお願いするのはちょっと怖かったけど、私頑張ったんだから」
モエはしゃがみ込むと、ルスの前に捨てるはずだった残飯を置いた。
「ごめんね、こんなのしか用意できなくて」
ルスの頭を撫でながら謝るモエだが、ルスは特に気にする様子はなくもぐもぐと元気に食べていた。もうすっかり体の調子はいいようだ。
調査団の結成を指示してきたガーティス子爵が戻ってくると、部屋の中がそんな事になっていたのでとても驚いたのは言うまでもない話である。
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