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第20話 重大発表
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モエと聖獣が契約を交わした日の夜の事、子爵は使用人を広間に集める。
それというのも、ジニアスの居るうちにすべてを発表しておいた方がいいだろうと考えたからだ。
いきなり集められた使用人たちは、子爵を前にしてざわついている。なにせ、子爵の隣には白い法衣に身を包んだお年寄り、そして、前にはモエと見慣れない獣が居たのだから。
「諸君、静粛にしてくれ」
子爵が咳払いから一言喋る。
この言葉に、使用人たちは一斉に黙ってしまう。さすが当主の言葉は重いのだ。
「今回集まってもらったのは、実は我が領にとってものすごく重要な事が発覚したからだ。心して聞いてくれ」
子爵の発言によって、使用人たちはごくりと息を飲んでいる。
「まず、紹介したい人物が居る。こちらの方は王都の聖教会所属の司祭であるジニアス殿だ」
ジニアスが紹介されると、使用人たちからどよめきが起こる。王都のお偉いさんがガーティス子爵領に居る事自体が珍しいからだ。
だが、そのどよめきも、子爵の咳払いひとつで静まり返る。
「ジニアス殿に来て頂いたのには訳がある。モエ、帽子を取りなさい」
「えっ?!」
子爵からの命令に、モエは目を白黒とさせている。ちょっと何を言っているのか分からないといった顔だ。
この日まで10数日間ずっと隠し通してきたというのに、こんな多くの人間たちが集まる場で正体をさらすなど、怖くてたまらないのだ。なにせ、エリィから自分たちマイコニドの事が、人間たちの間でどういう風に思われているのか教えられていたのだから。どうしても恐怖が先んじてしまうというものである。
不安そうに子爵たちを見るモエだが、みんなして大丈夫だというような顔をしている。
みんなの顔を見たモエは、ぐっと手に力を籠める。そして、かぶっている帽子に手を掛けると、ゆっくり丁寧に頭から外した。
モエの頭を見た使用人たちは、その姿に衝撃を受ける。
「えっ? 頭のそれ何なの?!」
「まさか、マイコニド?!」
使用人たちは思わず声を上げてしまう。近くに居るだけで様々な状態異常を引き起こすマイコニド。モエがそれだったのだから、驚かない方がおかしいのだ。
ところが、一部の使用人から徐々に落ち着き始める。近くに居るというのに、まったく何の異常も起きないからだ。この現象には、みんなして首を傾げる始末だった。
「モエの胞子には害はない。ジニアス殿の鑑定によれば、今まで聞いた事のあるマイコニドと違って、モエのものは癒し系の胞子なのだそうだ」
「ええっ!?」
子爵がジニアスの鑑定結果を伝えると、当然ながら使用人たちからは驚きの声が上がった。なにせ癒し系の胞子など、今の今まで一度たりとも聞いた事のないものなのだから。
「黙っていてごめんなさい。私を助けてくれたイジス様たちが隠しておいた方がいいと仰るので、今の今まで話せなかったんです。申し訳ありませんでした」
モエは頭を下げて謝罪する。
だけども、事情を聞いた使用人たちは、戸惑ったように顔を見合わせている。領主一家から言われていたのだから、怒る事などできるわけがないのだ。
「すまないが、これで終わりではないぞ」
戸惑う使用人たちに向けて、話の続きを始める子爵。ただでさえモエの事だけでも衝撃的だというのに、これ以上まだ何かあるのかと、使用人たちの間に緊張が走る。
「実は、モエの抱いている犬なのだが、聖獣なのだそうだ」
ただでさえマイコニドが屋敷の中に居ただけでも驚きなのに、そこに聖獣というパワーワードが飛び出したのだ。更なる爆弾発言を放り込まれて、使用人たちの動揺はさらに強まっていく。
「諸君の動揺する気持ちはよく分かる。だが、この事は外部には漏らさないでもらいたい。あくまでも、我が屋敷の中だけの話で済ませてもらいたいのだ。理由は、分かるだろう?」
子爵に問われると、使用人たちは互いの顔を見合った後、静かにこくりと頷いた。自分たちがさっき取った行動が、領都内全域で発生する事になるのだ。それは、領内の安定した情勢を一気に崩しかねない。だからこそ、段階を踏んで周知していく事にしたのだ。
現段階で屋敷の中だけでとどめたのは、領都内を含めた屋敷の外では人外の闇取引が行われているからだ。疑いではなく、確信である。どこに連中が潜んでいるか分からないので、まずは屋敷の中だけで明かして様子を見ようというわけだ。子爵たちは慎重なのである。
実のところ、理由は他にもある。言わずもがな、その理由はイジスだ。ひと目惚れをしているからなのか、さっきからずっとモエに視線を送っているのである。
貴族であり親でもある子爵からしたら、命令ひとつで二人の状況を変える事は可能だ。しかし、モエはあのイジスが初めて興味を示した女性だ。事を荒立てるのは避けたいのである。
ひとまずは、司祭ジニアスの同席の下で、モエとルスの正体を屋敷内に伝えた子爵。驚かれはしたものの、今のところは全員が無事に事実を受け入れられたようだった。
はてさて、ここにきて一気に問題の増えた領都や屋敷の問題を、これからどうやって制御していくのか。子爵の苦労はしばらくの間絶える事がないようだった。
それというのも、ジニアスの居るうちにすべてを発表しておいた方がいいだろうと考えたからだ。
いきなり集められた使用人たちは、子爵を前にしてざわついている。なにせ、子爵の隣には白い法衣に身を包んだお年寄り、そして、前にはモエと見慣れない獣が居たのだから。
「諸君、静粛にしてくれ」
子爵が咳払いから一言喋る。
この言葉に、使用人たちは一斉に黙ってしまう。さすが当主の言葉は重いのだ。
「今回集まってもらったのは、実は我が領にとってものすごく重要な事が発覚したからだ。心して聞いてくれ」
子爵の発言によって、使用人たちはごくりと息を飲んでいる。
「まず、紹介したい人物が居る。こちらの方は王都の聖教会所属の司祭であるジニアス殿だ」
ジニアスが紹介されると、使用人たちからどよめきが起こる。王都のお偉いさんがガーティス子爵領に居る事自体が珍しいからだ。
だが、そのどよめきも、子爵の咳払いひとつで静まり返る。
「ジニアス殿に来て頂いたのには訳がある。モエ、帽子を取りなさい」
「えっ?!」
子爵からの命令に、モエは目を白黒とさせている。ちょっと何を言っているのか分からないといった顔だ。
この日まで10数日間ずっと隠し通してきたというのに、こんな多くの人間たちが集まる場で正体をさらすなど、怖くてたまらないのだ。なにせ、エリィから自分たちマイコニドの事が、人間たちの間でどういう風に思われているのか教えられていたのだから。どうしても恐怖が先んじてしまうというものである。
不安そうに子爵たちを見るモエだが、みんなして大丈夫だというような顔をしている。
みんなの顔を見たモエは、ぐっと手に力を籠める。そして、かぶっている帽子に手を掛けると、ゆっくり丁寧に頭から外した。
モエの頭を見た使用人たちは、その姿に衝撃を受ける。
「えっ? 頭のそれ何なの?!」
「まさか、マイコニド?!」
使用人たちは思わず声を上げてしまう。近くに居るだけで様々な状態異常を引き起こすマイコニド。モエがそれだったのだから、驚かない方がおかしいのだ。
ところが、一部の使用人から徐々に落ち着き始める。近くに居るというのに、まったく何の異常も起きないからだ。この現象には、みんなして首を傾げる始末だった。
「モエの胞子には害はない。ジニアス殿の鑑定によれば、今まで聞いた事のあるマイコニドと違って、モエのものは癒し系の胞子なのだそうだ」
「ええっ!?」
子爵がジニアスの鑑定結果を伝えると、当然ながら使用人たちからは驚きの声が上がった。なにせ癒し系の胞子など、今の今まで一度たりとも聞いた事のないものなのだから。
「黙っていてごめんなさい。私を助けてくれたイジス様たちが隠しておいた方がいいと仰るので、今の今まで話せなかったんです。申し訳ありませんでした」
モエは頭を下げて謝罪する。
だけども、事情を聞いた使用人たちは、戸惑ったように顔を見合わせている。領主一家から言われていたのだから、怒る事などできるわけがないのだ。
「すまないが、これで終わりではないぞ」
戸惑う使用人たちに向けて、話の続きを始める子爵。ただでさえモエの事だけでも衝撃的だというのに、これ以上まだ何かあるのかと、使用人たちの間に緊張が走る。
「実は、モエの抱いている犬なのだが、聖獣なのだそうだ」
ただでさえマイコニドが屋敷の中に居ただけでも驚きなのに、そこに聖獣というパワーワードが飛び出したのだ。更なる爆弾発言を放り込まれて、使用人たちの動揺はさらに強まっていく。
「諸君の動揺する気持ちはよく分かる。だが、この事は外部には漏らさないでもらいたい。あくまでも、我が屋敷の中だけの話で済ませてもらいたいのだ。理由は、分かるだろう?」
子爵に問われると、使用人たちは互いの顔を見合った後、静かにこくりと頷いた。自分たちがさっき取った行動が、領都内全域で発生する事になるのだ。それは、領内の安定した情勢を一気に崩しかねない。だからこそ、段階を踏んで周知していく事にしたのだ。
現段階で屋敷の中だけでとどめたのは、領都内を含めた屋敷の外では人外の闇取引が行われているからだ。疑いではなく、確信である。どこに連中が潜んでいるか分からないので、まずは屋敷の中だけで明かして様子を見ようというわけだ。子爵たちは慎重なのである。
実のところ、理由は他にもある。言わずもがな、その理由はイジスだ。ひと目惚れをしているからなのか、さっきからずっとモエに視線を送っているのである。
貴族であり親でもある子爵からしたら、命令ひとつで二人の状況を変える事は可能だ。しかし、モエはあのイジスが初めて興味を示した女性だ。事を荒立てるのは避けたいのである。
ひとまずは、司祭ジニアスの同席の下で、モエとルスの正体を屋敷内に伝えた子爵。驚かれはしたものの、今のところは全員が無事に事実を受け入れられたようだった。
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