婚約者が好きな女性がいると言って惚気話を始めました〜閣下。それ私のことです〜

白雲八鈴

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第3話 オルトロス侯爵家の三女だ

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「閣下には関係ないです」
「ミラは俺の書記官だが?」
「書記官ですが、プライベートは関係ありません」

 というか。化粧をしていたとは言え、ミレーヌ・オルトロスがミラとはわからなかったのだろうか。まぁ、髪の色も目の色もミラは変えているので、わからないか。 

 私は自分の席に着くために、横にズレると、閣下も横に移動した。いったいなんだ?

 私の邪魔をするなという視線を、目の前の隻眼で睨みつけている閣下に向ける。

「ミ……ミラは今日の就業時間後は暇か?」
「暇ではありません」

 いきなり話が変わったな。今日の仕事が終わったら、即行に総統閣下の執務室に突撃する予定だ。クソジジイが帰る前に、今日こそは辞表を受け取ってもらわなければならない。

「では昼休憩は?」
「何ですか? 閣下? はっきり言ってもらわないとイライラします」

 もうすぐ始業時間になる。あと少し書類をさばいておきたかったが、はっきりとしない閣下と弟の所為で進まなかったことに、イライラしてくる。

「一緒に食事をしないか?」
「ん? 何か? 幹部方と会合か何かですか?」

 時々お偉い軍部幹部との話し合いには食事をとりながら、密談が設けられることがある。その席では私は閣下の背後に控えることが多いが、今回もその部類だろう。

「いや違う」
「違うのですか? 先日あった保存食の試食会の第二回とかですか?」

 遠征に行くときに携帯する保存食でも美味しいものが食べたいという要望が以前からあったために、開発チームが作られ、先日試食会が行われたのだ。まぁ、マシにはなったが、美味しいかと言われれば、不味くはないという程度だった。

「違う」
「はぁ、なんなのですか? もうすぐ始業時間なので、私は訓練場に行きます」

 おい、そこの副官。私に何故可哀想な子を見るような視線を向けてくるんだ? ったく、二人して今日はなんなんだ?

「ミラ。俺と一緒に昼食をとらないか?」
「いつも向かい側の席に座ってきますが、それは一緒に昼食をとっていると言わないのですか?」

 はっきり言って、仕事の間は閣下と共に過ごしていると言って良い。私が昼食に行くときは、閣下がいつも付いてくる。別に文句を言うことではないので、放置していた。
 そして、目つきの悪い閣下がいる所為で、私と閣下の周りには誰も近寄らず、異様な空間ができあがるのだ。そんな空間が食堂のど真ん中にあるのは邪魔だと思うので、食堂の端っこが今では定位置になってしまっていた。

「食堂ではなく、別のところだ」

 それは何かの下見か何かか? まぁ、断ることではない。

「閣下の奢りならいいですよ」

 そう言って、私は閣下の横を通り抜け、訓練場に向かっていった。


_____________
ヴァンルクス将軍 Side


「ヴァン。今日はどうしたんだ?」

 隻眼の男の副官が気安く上官である男に話しかける。

「昨日の見合いはいつも通り断られたんだろう?」
「相手が悪かった」

 ヴァンと呼ばれた隻眼の男は、機嫌よく笑みを浮かべて、振り返った。言葉と表情があっていない。

「相手? 今度は誰だったわけ?」
「オルトロス侯爵家の三女だ」
「ああ、総統閣下のお孫さんは流石に肝が据わっているっていうことか……三女? 三女って病弱で領地に引きこもっているという噂の三女を、ヴァンの相手に引っ張り出してきたのか?」

 その言葉の中に、病弱といえ軍部のトップである総統閣下の孫を王都に呼び出してまでも、この男に結婚させたいのか、という驚きが含まれている。

「いや、恐らくそれは嘘だ。ヒューズ。ミレーヌ嬢のことを探れ、きっと何かある」

 しかしヴァン自身はそれ自体に何か裏があるのではと勘ぐっているようだ。

「上官の命令だとしても嫌だね。ミラちゃんを調査した時もかなりヤバかったんだよ。総統閣下の遠縁ってことだから、閣下の身辺に入ったら、捕まっちゃったし、嫌だよ」

 上官の命令を聞かないヒューズという男に呆れるが、話の内容から以前に痛い目に遭ったので、勘弁して欲しいと言われれば、それもまた理解できる。軍部のトップの親族の調査は調査する側にも危険が伴う。それは軍に歯向かう行動と同意義に捉えられるからだ。

「だから、俺はヴァンがミラちゃんを好き過ぎて身辺調査しているって情報を渡したら、それから見合い三昧になったよね。ははははっ」

 先程からの話からすれば、ヴァンの見合い話には、軍部のトップの意見が組み込まれているようだ。
 軍の立場的にも王弟という立場でも、身分がない者より、貴族の令嬢を嫁にしろという意向が見える。

「総統閣下の孫ねぇ。そのミレーヌ嬢はどんな令嬢だった? 同じ孫のルーフェス少佐はしたたかだもんね。さっき居たアルフォンス軍曹は狂犬だと噂されているしねぇ」

 先程侵入してきたミレーヌの弟は特殊部隊に配属されているが、その特殊部隊でも狂犬と言われているのであれば、かなり手を焼いている者なのだろう。しかし、その狂犬を黙らせて片手で締め上げていたミラは、ヴァンの下についているだけあって、普通ではないということだ。

「普通だった」
「え? 普通の令嬢と変わらず、ヴァンを見て気絶したってこと? だからさぁ言っているじゃないか、右目だけじゃ見にくいんだろう? だから目つきが悪くなるんだ。高性能の魔眼をいい加減に入れろ」

 どうもヴァンは右目だけで視界を補うために、どうしても眼光が鋭くなってしまっているようだ。そんなヴァンに以前からヒューズは義眼となる魔眼を入れろと言っているらしい。

「必要ない。あれはあれで、必要のない情報まで取り込むから面倒だ。それからミレーヌ嬢が普通だったというのは、普通に会話ができたということだ」
「それは凄いじゃないか。さすが総統閣下の血筋ということか。ヴァンと会話できる貴族の令嬢は稀だな。もう、ミラちゃんを諦めてそのミレーヌ嬢でいいのでは?」

 貴族の令嬢はヴァンと話をすることもままならないとは、目つきが悪いだけが原因ではないだろう。強者が纏う雰囲気というものは、必然的に発せられるものであり、蝶よ花よというふうに育てられた貴族のご令嬢方にはいささか、圧迫感があったために、気を失ってしまったと推測できる。しかし、軍部トップの総統閣下の血筋となれば、多くの軍人を輩出する家系でもあり、強者の覇気というものには慣れている。ならば、選択肢は一つしかないのでは?

「何故にそうなる!」
「だってさぁ、さっきヴァンは普通に食事に行こうと誘ったのに、あれは絶対に何かの仕事だと思っているよね。上官とは見ていても異性とは見ていないのが俺でもわかる」
「うぐっ」

 そう、残念なほどにミラにはヴァンの気持ちは一切伝わっていなかった。そして、その本人の前で本人を褒めて惚気け話をしていたということには、ヴァンは気がついてはいない。

「ヒューズ。親友として頼みたい。ミレーヌ嬢を探って欲しい」
「はぁ。恐らく何も出てこないと思う。ミラちゃんの時も綺麗なぐらいに何もなかった。それが不自然な程に。だからミレーヌ嬢も何も出てこないと思う」
「それでもいい」
「はいはい」

 そう言ってヒューズもまた部屋を出ていった。不自然なほど何も出てこない。それは何かを隠している証拠でもあった。

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