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不審者扱い

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おしぼり騒動はどうにか片付いた。
上司が投げたおしぼりが運悪く彼女の席に。
決して当てたのではないが勘違いしたままご立腹。
上司の代わりに謝罪しておしぼりを回収する。

ただ使用済みのおしぼりを上司に戻すのも憚れる。
ゴミ箱を探すにしても一度彼女に立ってもらわなければならない。
それくらい当然協力するだろう。だがいくら視線を送っても反応しない。
俺を居ないものとして扱うつもりらしい。仕方がないから前の袋にでも。
これで無事解決。

「沖縄には旅行で? 」
彼女の手荷物から沖縄名物のちんすこうやパインアメのパッケージが見え隠れする。
定番のお土産を買い込むならば行きではなく帰りかな。
俺と同じで疲れてるんだろうなきっと。
「はい…… 」
いきなり話し掛けたから驚かせてしまったようだ。
別に大して興味はないがこれも社交辞令。
ちょっと話したら眠るつもりだったが相手にされない。

彼女はパソコンを取り出すと話しかけにも応じず黙々とキーボードを打つ。
急ぎの用かな。どれどれ。
「ちょっと何見てるのよ! 」
まるで痴漢か何かの様な扱いに頭に血が上る。
「ふざけるな! 俺が何をしたんだよ? 」
「おいうるさいぞ! 静かにしろって! もう眠れないだろ…… 」
上司は寝ぼけて注意するだけして夢の世界に戻って行った。
原因はすべてこの人にあるんだけどな。
確かに連れが問題を起こせば代わりに謝るのも仕方ないけれど。
彼女ときたら最初から俺を疑ってちっとも話を聞かないんだものな。

「あなた覗いたでしょう? 」
くそ。隣だから見えただけなのにまるで犯罪者扱い。
確かに覗こうとはしたけど見えまでしなかった。
誤解だ。誤解なんだ。でもここで下手に粘れば拗れるだけ。
すべての始まりは隣の上司が非常識にも投げ捨てたことによるもの。
それをいくら寝てるとは言え指摘できない。
パソコンの画面が見えたのだって不可抗力。
だって隣なんだから。そちらから見えるなら俺からだって当然見える。
俺は何も悪くない。ちっとも悪くない。ただ運が悪かっただけ。
ちょっと上司とお隣に恵まれなかっただけ。

「済みません…… 」
これ以上のトラブルは避けようと頭を下げる。
トラブル発生とキャビンアテンダントが近づいて来る。
穏便に。穏便に。
「もう、分かればいいわ。もう絶対覗かないでよね。
それからその汚らわしいおしぼりもどうにかしなさい! 」
ここぞとばかりに強い態度でねじ伏せる。
仕方がない。フライトの短い間だけだし。我慢我慢。
問題ない。言い返すのも大人げないと言うもの。
それに上司はきっと誤解しとんでもないことをしてくれたなとなじるに違いない。
もちろんおしぼりを捨てた張本人だが忘れたと主張されたらお終い。

「もういいわ。不愉快だから顔も見せないでね」
散々な言われよう。俺が何をした? ちょっと覗いたくらいじゃないか。
自意識過剰なんだよ。嫌になるぜ。

パチパチ
パチパチ
まるで将棋を指してるような不快な音。本人は自覚なし。
上司を起こそうにもイビキを掻いて気持ちよさそうに寝ている。
どうしてこんな目に遭わなくてはいけないんだろう。
やはり無理してでも窓側に座っておくんだったな。
いくら上司だとしても俺が先に座っていたら諦めていただろう。
そこだけが悔やまれるところ。

パチパチ
パチパチ
うごおお
うごおお
耳を塞ぎたくなるほどのイビキとパソコンの音。
今すぐにでも逃げ出したいよ。
寝ることも出来ずトイレにさえ立てない。
結局フライト中はほとんどパソコンとにらめっこのトナラ―。
俺のことを何とも思ってない。
無関心で自意識過剰のトナラ―によって楽しい沖縄旅行が台無しになる。
その前に上司がボロボロにしていたのであまり大した違いはないが。

定刻通り無事羽田へ。
「うーん。よく寝たな。さあ降りる準備をしろ! 」
「はあ…… お疲れ様です」
「ははは…… お前随分と疲れてるな。寝不足は体に良くないぞ」
隣で行われていた言い争いに気づいてか気づかない振りか能天気に笑う。
後で土産話にでもするつもりだろう。自分のせいなのに。

ここで上司とは別れ帰路につく。
ふふふ…… だがトナラ―とはまだ決着がついてない。

                 続く
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