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どこまでも

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定刻通り無事羽田に到着。
上司と別れ帰路につく。
時間もあるのでどこかでゆっくりするか…… でもやっぱりやめた。
おしぼり騒動で無駄に疲れたので帰宅することに。
あーあ疲れた。もうこりごり。出張も上司のお守も飛行機トラブルも。

電車に乗り最寄り駅までは一時間以上。
最後の乗り換えで奇跡の再会を果たす。
何と隣の席にあの女が。また会ってしまった。
会いたい人には会えずこの失礼な女に遭遇するなどやってられない。
今日は本当についてない。遭遇確率はどれほど?
もし奇跡の遭遇確率ならこんなことで使いたくないしこんな人に会いたくない。
出来るなら有名人がいい。世界的スターは無理だとしても芸能人ぐらいなら。
例えばあの…… 

しかしなぜあの女がここにいる? まさか俺の後を追って…… それはないか。
だったら同じ方向なのかもしれないな。
どこに住んでるか聞いとけばよかった。社交辞令ではなく自分の身を守る為に。
まだ気づかれてないはず。ここは下を向きやり過ごせば…… 無理だろうなきっと。

「ちょっと…… あなたストーカー? 」
辺りを見回す。どうやら俺に言ってるようだ。
まったく冗談じゃない。何がストーカーだよ。
失礼にもほどがある。クタクタだと言うのに訳の分からない話をしやがって。
「やっぱりストーカー? 」
とんでもない濡れ衣を着せる。それ以上言えば訴えるぞ。
ああもうイライラするな。解消するには至福の一本だが今はさすがに無理。
誰がお前なんか…… と言いたいがぐっと堪える。
ただ笑みを浮かべる。これが大人の余裕って奴だ。

「本当に気持ち悪い。一目惚れしたんじゃないの? 」
「安心してください。一ミリもそんな感情はありませんから」
「失礼ね。ストーカーの癖に」
ただ隣になっただけでなぜここまで言われるのか?
俺が男だから?  我慢だ我慢。
席を移動してもいいが生憎混んでる車内。
もう一歩も動きたくない。それは恐らく彼女もそうだろう。

偶然一緒の飛行機で運悪くお隣になっただけ。
しかも騒いだものだからその縁を自ら手放す愚行に走る。
俺だってもう二度とこの人には会いたくなかった。
たとえ同じ電車だろうが関係ない。視界にも入れたくない。

こうして沖縄のバカンス気分はどこへやら。日常に戻る。

疲れたので今日は新居には行かずに実家に一泊。
彼女と付き合う前はよく往復していた。
ほら俺って料理出来ないしゴミの分別も苦手だから。
最近はその頻度も週一ぐらいまで減っている。
今日は沖縄土産を届けるので仕方なく顔を見せる。
彼女が寂しがるだろうがもう遅いしな。
これ以上迷惑はかけられない。

結局タクシーまで争ってしまった。本当に苦労するよ。
俺がまるで後をつけたみたいじゃないか。
俺が後ろから襲うはずがない。非常識な女め。
もう二度と会わないから堪えられるがそれでも怒りは隠せない。
俺の荷物にまでケチをつけやがった。
何が気持ち悪い。捨てちまえだ。
あーあ。やっぱり便利なアプリをダウンロードすればよかったな。
そうしたらトラブルは回避出来ただろう。

「ただいま」
「あんたまたそんなもの! 邪魔でしょう! 」
せっかくのお土産にまでケチをつける。
今日はついてない。本当についてない。
「分かってるって。今日だけじゃないか! 」
いつもは文句言わずに頷くだけだがさすがに疲れて虫の居所が悪ければ反論もする。
「はあ何か言ったかい? 」
危ない危ない。余計な一言は耳に届かなかったらしい。
「いやもう寝るわ」

こうして俺たちの未来に暗雲が立ち込めることになる。
最悪の未来はすぐそこ。

事情があるとは言え通いも楽じゃない。
なぜか俺の評判も良くないし。
特に味方だと思っていたあの裏の世話焼き爺さんが冷たい。
俺が何をしたのだろう?
やってることと言えば彼女とイチャついてるぐらいで他に思い当たる節はない。
おかしいな。俺たちが新婚さんなのはよく知ってるはずなのに。
それを拒絶するとなるとこの家を紹介した理由が分からなくなる。
俺たちを気に入ってくれたんじゃないのか?
それともあまりにイチャつき過ぎてあの世代には悪い印象を与えるのかな。
だったら正直に言ってくれればいいのに。
あの年で嫉妬はみっともないよ爺さん。

                 続く
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