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「辰矢!私も四季読んだよ!」
突然俺の作品のことを伝えてきたのは、意外にも未来だった。本を読まない、読めないあの未来が小説を一冊読み切るとは思ってもみなかった。
「凄いじゃん、まさか読み切るとはな」
「そうなの。一昨日貸したんだけどさ、もう読み切ったんだって」
一日で小説一冊を読み切る人は意外と多い。単行本一冊なら、難しい話じゃない。でも、未来はそういうのとはまた話が違う。
「それはすごいな」
「いや、長田八樹って人いいね。私感激したよ。ワボもアカウント出来てたからフォローしたし」
「そうなんだ」
確かに未来のアカウントから俺の小説アカウントにフォロー来てたっけ。他にも同じ学校の生徒からフォロー来てた。
「私もフォローしたよ」
俺たちが珍しく小説の話をいつものように食堂でしていると、意外な人物が未来と弥生の後ろに立った。
「お邪魔しても大丈夫ですか?」
「おぉ、理々杏か。学校では初めてだな」
一つ年下の『池田 理々杏』。俺との直接的な関わりはないが、互いの妹がとても仲が良い。それでまれにうちに来て二人に勉強を教えていた。
「そこ、お邪魔してもいいですか?」
「うん、いいよ」
そう言ったら理々杏は直ぐに俺の横に座り、テーブルに置いた昼食を食べ始めた。理々杏の食べる親子丼は、俺の頼むものより小さくて、彼女が少食になろうとすることが見て取れた。
「何か?」
「いや、学校ではあまり食べないんだなって」
「「最低」」
別に女子に対しての意見を言った訳じゃないんだけど。
俺の家に来て三人のご飯を作った時は、決まってかなりの量を作っていたから意外だった。
「なんだよ」
「先輩、彼女出来ないのはそういうところですよ」
「理々杏まで」
そこから、理々杏が自己紹介から未来と弥生に色んな話をして和気藹々としていた。
全員が食べ終えた頃くらいで朝倉と咲楽が理々杏の反対側にいた。顔を見ると咲楽は少し赤黒くなったような印象を得た。
「また女子増えてる」
「え?あ、いや、これは違う」
「はいはい。詳しい話は夜聞いてあげるから」
その言葉だけ吐いて、二人はせっせと教室に戻って行った。
「「もう付き合ったの?」」
「誰なんですか?」
色々と誤解を招かねない言葉を残したことは少しイラついた。
「友だちだよ。この前カフェに行っただけ」
「付き合ってはないんだ」
「さすがにね」
未来はやはり俺に対して何の気も持とうと思ってないのだろう。それに対して弥生は冷静に言葉を選んだ。
「多分、嫉妬だろうね」
「そうか?」
「だってあの子、辰矢のこと好きなんじゃないの?」
「確信ないだろ」
でも、少し焦りすぎたという言葉を思い出すと、その可能性もないとは言いきれない。
「そうじゃない?」
「未来まで・・・・・・」
「理々杏ちゃんはどう思う?」
何故そこで理々杏に聞くんだ。
「どうですかね。私は分からないです」
理々杏の答えを言った途端に予鈴が鳴り、それぞれの教室に戻る。未来と弥生は別の階段から上がる方が教室まで近いから、俺と理々杏だけで反対方向に進んだ。
「先輩、あの人と付き合うんですか?」
「その先輩ってのやめたら?いつも通りに呼んでいいよ」
いつも通り俺に対して君付けで呼ばれた方が、俺も気楽になれる。
「そうですよね」
「あと、その敬語もやめて」
「分かった。それで、あの人と付き合うの?」
高校生はやはり他人の色恋沙汰に興味津々なのだろう。
「知らなねぇ」
俺は階段をのぼりながら軽く笑った。
「辰矢くん、今日何時ごろ帰る?」
「さあ、PC室で適当に過ごしてから帰るから何時になるかもわからんのよね。遅くても十八時の電車には乗るかな」
「そうなんだ。・・・・・・私もPC室に行ってもいい?」
「おう、いいよ。十八時までなら待っててあげる。好きな時においで」
二階について、俺は理々杏と別れる。
「分かった。ありがと」
そう言って理々杏は颯爽と三階に上がっていった。
俺も教室に向かおうと振り向くとそこには、顔をふくらませた女の子が立っていた。
「また・・・・・・」
「咲楽?」
どうして咲楽がここに?俺のいる場所と咲楽の教室は反対側のはず。ってか何で俺、気まずいと思ってるんだろう。
「まぁいいや。それじゃ、私この上の教室だから」
なるほど、移動教室だったか。ってか、四季に似たような状態があった気がする。俺そんなに女たらしだろうか。でも一応、念には念を入れて置いた方がいいだろう。
『今日のこと、なんかあったら頼む』
『また?』
『なんか、久しぶりな気がする』
未来と弥生に連絡しといて、次の授業中にでも作戦を立てるか。
放課後、俺は一人のPC室で小説のサイトを開いて新作を考えていた。できることなら同性愛を主軸にした方がいいのかもしれない。
「お邪魔します」
俺は理々杏が来たことを確認したら、自分のパソコンの画面を隠さなきゃいけないことに気が付いた。
「隣良いですか?」
「隣以外どこ座んの?」
疑問に疑問で返すのはどうなのだろうとは思ったけど、今の俺にはそれ以外選べなかった。
「辰矢くんってどんな人が好みなんですか?」
この答えはありがたいことに決まっていた。
「楽な人、かな」
「楽ですか・・・・・・」
俺には理々杏の考えがなんとなく分かった。きっとこの子は俺のことが好きなのだろう。でも今の俺にはその思いに答えることはできない。
「いつ帰る?」
「そうだね・・・・・・」
気が付いたら、時計は十七時を過ぎていた。
「帰ろうか」
俺たちは二人でPC室を後にして、最寄りの駅に向かう。途中で、一年生の何人かとすれ違い、その時距離を置かれたことには驚いた。
「辰矢くん、相変わらず人気だね」
「違うだろ、人気なら寄ってこないか?」
憧れに対して人は承認欲求を求めるものじゃないのか。だから芸能人にはファンが飛び掛かるものなのだろう。
「憧れも度が過ぎるとひいちゃうんですよ。それが今です」
「そうか?・・・・・・でも、華巳先輩はみんな行ってたぞ?」
俺たちは改札を通ってホームに降りるころ、先輩のことを思い出した。
「木下先輩は顔面偏差値激ヤバとしか見られてないですから」
それは否定しないけど、何をどうしたらそういうマイナス印象だけで固められるんだろう。
「辰矢くんは木下先輩と違って顔だけじゃなくて、運動も勉強もできるからね」
なんとなく、これが女子の裏側の話なんだろう。俺は裏側に興味はないけど、下級生からの印象が飛躍するのは俺からしても迷惑にしかならないだろう。
「それでさ、一つお願いしたいんだけど」
「何?」
「次の定期テスト、一年生の教室に勉強を教えに来てもらうことってできますか?」
それは別に不可能じゃない。でも、最初の定期テストは大半が中学の内容だったはず、輝度高校の入試ををパスしたなら別に大した問題はないと思うんだけど。
「本当にいるか?」
「いいでしょ、みんながみんな辰矢くんみたいに中学の内容完璧なわけじゃないんだよ」
それもそうか、俺のクラスの最初の平均点、八十行かないくらいだった気がするしな。
「分かったよ。それじゃあ、試験期間入ったらたまに顔出すよ」
「ありがとう」
俺たちは着た電車に乗り、駅まで自分の携帯で適当に情報を集めていた。駅に着いても、俺たちは家も同じ方向だから家まで送る流れになった。
「ありがとう、送ってくれて」
「いや近所だし別にいいよ」
玄関の前で微笑む彼女は、何か隠しているようだった。
「こういうこと、私はうまく言えないけど。辰矢くんの彼女、私が一番都合がいいんじゃない。病気のことも知ってるけど、私なら辰矢くんの彼女にぴったりな気がする」
「そうか、考えとくよ。ありがとう」
そう言って、気まずい夜が来た。
突然俺の作品のことを伝えてきたのは、意外にも未来だった。本を読まない、読めないあの未来が小説を一冊読み切るとは思ってもみなかった。
「凄いじゃん、まさか読み切るとはな」
「そうなの。一昨日貸したんだけどさ、もう読み切ったんだって」
一日で小説一冊を読み切る人は意外と多い。単行本一冊なら、難しい話じゃない。でも、未来はそういうのとはまた話が違う。
「それはすごいな」
「いや、長田八樹って人いいね。私感激したよ。ワボもアカウント出来てたからフォローしたし」
「そうなんだ」
確かに未来のアカウントから俺の小説アカウントにフォロー来てたっけ。他にも同じ学校の生徒からフォロー来てた。
「私もフォローしたよ」
俺たちが珍しく小説の話をいつものように食堂でしていると、意外な人物が未来と弥生の後ろに立った。
「お邪魔しても大丈夫ですか?」
「おぉ、理々杏か。学校では初めてだな」
一つ年下の『池田 理々杏』。俺との直接的な関わりはないが、互いの妹がとても仲が良い。それでまれにうちに来て二人に勉強を教えていた。
「そこ、お邪魔してもいいですか?」
「うん、いいよ」
そう言ったら理々杏は直ぐに俺の横に座り、テーブルに置いた昼食を食べ始めた。理々杏の食べる親子丼は、俺の頼むものより小さくて、彼女が少食になろうとすることが見て取れた。
「何か?」
「いや、学校ではあまり食べないんだなって」
「「最低」」
別に女子に対しての意見を言った訳じゃないんだけど。
俺の家に来て三人のご飯を作った時は、決まってかなりの量を作っていたから意外だった。
「なんだよ」
「先輩、彼女出来ないのはそういうところですよ」
「理々杏まで」
そこから、理々杏が自己紹介から未来と弥生に色んな話をして和気藹々としていた。
全員が食べ終えた頃くらいで朝倉と咲楽が理々杏の反対側にいた。顔を見ると咲楽は少し赤黒くなったような印象を得た。
「また女子増えてる」
「え?あ、いや、これは違う」
「はいはい。詳しい話は夜聞いてあげるから」
その言葉だけ吐いて、二人はせっせと教室に戻って行った。
「「もう付き合ったの?」」
「誰なんですか?」
色々と誤解を招かねない言葉を残したことは少しイラついた。
「友だちだよ。この前カフェに行っただけ」
「付き合ってはないんだ」
「さすがにね」
未来はやはり俺に対して何の気も持とうと思ってないのだろう。それに対して弥生は冷静に言葉を選んだ。
「多分、嫉妬だろうね」
「そうか?」
「だってあの子、辰矢のこと好きなんじゃないの?」
「確信ないだろ」
でも、少し焦りすぎたという言葉を思い出すと、その可能性もないとは言いきれない。
「そうじゃない?」
「未来まで・・・・・・」
「理々杏ちゃんはどう思う?」
何故そこで理々杏に聞くんだ。
「どうですかね。私は分からないです」
理々杏の答えを言った途端に予鈴が鳴り、それぞれの教室に戻る。未来と弥生は別の階段から上がる方が教室まで近いから、俺と理々杏だけで反対方向に進んだ。
「先輩、あの人と付き合うんですか?」
「その先輩ってのやめたら?いつも通りに呼んでいいよ」
いつも通り俺に対して君付けで呼ばれた方が、俺も気楽になれる。
「そうですよね」
「あと、その敬語もやめて」
「分かった。それで、あの人と付き合うの?」
高校生はやはり他人の色恋沙汰に興味津々なのだろう。
「知らなねぇ」
俺は階段をのぼりながら軽く笑った。
「辰矢くん、今日何時ごろ帰る?」
「さあ、PC室で適当に過ごしてから帰るから何時になるかもわからんのよね。遅くても十八時の電車には乗るかな」
「そうなんだ。・・・・・・私もPC室に行ってもいい?」
「おう、いいよ。十八時までなら待っててあげる。好きな時においで」
二階について、俺は理々杏と別れる。
「分かった。ありがと」
そう言って理々杏は颯爽と三階に上がっていった。
俺も教室に向かおうと振り向くとそこには、顔をふくらませた女の子が立っていた。
「また・・・・・・」
「咲楽?」
どうして咲楽がここに?俺のいる場所と咲楽の教室は反対側のはず。ってか何で俺、気まずいと思ってるんだろう。
「まぁいいや。それじゃ、私この上の教室だから」
なるほど、移動教室だったか。ってか、四季に似たような状態があった気がする。俺そんなに女たらしだろうか。でも一応、念には念を入れて置いた方がいいだろう。
『今日のこと、なんかあったら頼む』
『また?』
『なんか、久しぶりな気がする』
未来と弥生に連絡しといて、次の授業中にでも作戦を立てるか。
放課後、俺は一人のPC室で小説のサイトを開いて新作を考えていた。できることなら同性愛を主軸にした方がいいのかもしれない。
「お邪魔します」
俺は理々杏が来たことを確認したら、自分のパソコンの画面を隠さなきゃいけないことに気が付いた。
「隣良いですか?」
「隣以外どこ座んの?」
疑問に疑問で返すのはどうなのだろうとは思ったけど、今の俺にはそれ以外選べなかった。
「辰矢くんってどんな人が好みなんですか?」
この答えはありがたいことに決まっていた。
「楽な人、かな」
「楽ですか・・・・・・」
俺には理々杏の考えがなんとなく分かった。きっとこの子は俺のことが好きなのだろう。でも今の俺にはその思いに答えることはできない。
「いつ帰る?」
「そうだね・・・・・・」
気が付いたら、時計は十七時を過ぎていた。
「帰ろうか」
俺たちは二人でPC室を後にして、最寄りの駅に向かう。途中で、一年生の何人かとすれ違い、その時距離を置かれたことには驚いた。
「辰矢くん、相変わらず人気だね」
「違うだろ、人気なら寄ってこないか?」
憧れに対して人は承認欲求を求めるものじゃないのか。だから芸能人にはファンが飛び掛かるものなのだろう。
「憧れも度が過ぎるとひいちゃうんですよ。それが今です」
「そうか?・・・・・・でも、華巳先輩はみんな行ってたぞ?」
俺たちは改札を通ってホームに降りるころ、先輩のことを思い出した。
「木下先輩は顔面偏差値激ヤバとしか見られてないですから」
それは否定しないけど、何をどうしたらそういうマイナス印象だけで固められるんだろう。
「辰矢くんは木下先輩と違って顔だけじゃなくて、運動も勉強もできるからね」
なんとなく、これが女子の裏側の話なんだろう。俺は裏側に興味はないけど、下級生からの印象が飛躍するのは俺からしても迷惑にしかならないだろう。
「それでさ、一つお願いしたいんだけど」
「何?」
「次の定期テスト、一年生の教室に勉強を教えに来てもらうことってできますか?」
それは別に不可能じゃない。でも、最初の定期テストは大半が中学の内容だったはず、輝度高校の入試ををパスしたなら別に大した問題はないと思うんだけど。
「本当にいるか?」
「いいでしょ、みんながみんな辰矢くんみたいに中学の内容完璧なわけじゃないんだよ」
それもそうか、俺のクラスの最初の平均点、八十行かないくらいだった気がするしな。
「分かったよ。それじゃあ、試験期間入ったらたまに顔出すよ」
「ありがとう」
俺たちは着た電車に乗り、駅まで自分の携帯で適当に情報を集めていた。駅に着いても、俺たちは家も同じ方向だから家まで送る流れになった。
「ありがとう、送ってくれて」
「いや近所だし別にいいよ」
玄関の前で微笑む彼女は、何か隠しているようだった。
「こういうこと、私はうまく言えないけど。辰矢くんの彼女、私が一番都合がいいんじゃない。病気のことも知ってるけど、私なら辰矢くんの彼女にぴったりな気がする」
「そうか、考えとくよ。ありがとう」
そう言って、気まずい夜が来た。
応援ありがとうございます!
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