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九限目
恋バナ
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俺と朝倉の最寄りの駅、到着して驚いたのはその駅に結城さんも降りたことだ。
「ちょっと」
駅に降りるやいなや朝倉の手に引かれ、俺はホームの光の当たらないぼんやりと見える世界に連れ込まれた。離れる代わりに得た言葉は、俺の予想を遥かに超えてきた。
「咲楽に何かしたの?」
「いや、朝倉の前以外で話したことないよ。ワボはつながってはいるけど、話したいこととかもないし」
俺のワボを知っている人は意外と多い、でもやり取りをしてるのはほんの数人程度。もちろんその中に結城さんの名前は存在しない。
「じゃあ何で温厚な咲楽があんなに怒ってんのよ」
俺に入ってきていた情報は意外と本当だったらしい。俺の前だけが他の人からの情報とは違った姿なのだろう。もしかしたら、それが彼女の素の姿なのか。
「知らねえよ」
「あんたが何かしないとああならないでしょう」
そう言われても、俺には心当たりがない。
「だから知らないって。なんなら直接聞こうか?」
俺がそう言った直後、学校の最寄りの駅で言われた言葉を思い出した。
『そういうのやめた方がいいと思う』
もしかしたら、俺に対して女遊びをする人間という印象を与えていたのかもしれない。そんな人間に普段通り周りと同じ対応をしろという方が難しいだろ。
「ねぇ、何話してんの?」
「あ、いや別に」
さすがに本人のことを話してたなんて言えないよな。仲のいい友人だと特に。
「あのさ、稲垣くんって女たらしなの?」
まじで俺の事警戒してんな。
「そんなことないと思うけど、なんでそう思ったの?」
「だって、女の子といる機会多いし。話聞く限り女友だち多そうだなぁって」
言われてみれば確かに、最近は女子と話してばっかりな気がする。響空に華巳先輩、未来に弥生、最近は悠凛といるし。それに対して男は幼なじみと優真、高校に入って仲良くなった明日薫と蒼午、聖馬くらい。後の二人はクラスが変わって話す機会も減ったしな。
「確かに、最近は女子と話す機会の方が多いかも・・・・・・」
変なことは言わずに、変わらない部分だけで話した方が彼女の俺に対する警戒も減るだろう。
「中学の頃からそうなの?」
朝倉に向いた事で、俺の方が警戒を増した。朝倉が変なことを言うだけで、俺のこれからが変わってくる。
「別に、そういうイメージは無いかな。むしろ女子と話してるの見たことないかもだし」
俺は上手く話した朝倉を改めて評価した。朝倉もちゃんと俺の事を気遣ってくれたのだろう。
「へぇ、高校デビュー?」
上手いことを言う結城に朝倉は少し笑みがこぼれた。何でこうも適切で面白い方をするのだろう。結構センスあるな。
「ちょっと上手いね」
「ってことは、たらしになろうとしてる系?」
「違うよ。中学の頃は女子が苦手でね、それを克服しようかなって思ったの」
「ある意味あってるんだ」
「ま、まあね」
微妙な笑みを浮かべること以外、俺は何も出来なかった。いや女子との経験が少ないからこそ、それ以外の選択肢を知らなかった。
「だから犬駒さんにフラれたんじゃない?」
彼女の目はかなり真っ直ぐだった。嫌味と思ってないってこういうことを言うのだろう。
「痛いとこつくね」
俺にはいくつもの仮面を持ち合わせている。ホストのようなクズな面、苦悩を乗り越えた学生とは違う面、植物が好きで家具や楽器にも詳しい面、女子を沼らせ依存させる面。普通の人間には持ち合わせることのない仮面の数。
「特定の好みとかないの?」
俺が好んでよく使っているのは、意外にも一枚目の仮面だ。
「そういう結城さんは?・・・アタ」
俺の言葉の直後、後ろから朝倉が軽く俺の頭を叩いた。頭に大した痛みはないものの、言葉は出てしまう。
「そう言うとこが女たらしだって言われるのよ」
「確かに、今ちょっとそんな雰囲気したかも」
俺は申し訳ない顔を見せながら、会釈をする。きっと結城さんは、俺の仮面をはがしたいんだと思う。俺の何をのぞき込む感じが伝わってくる。
「で?どうなの?」
「俺のタイプだっけ。一緒にいて楽な人かな」
「楽?」
彼女の首をかしげるのは初めて見た。
「それが先輩と犬駒さんとの違い?」
俺の中でそう、それが俺の二人に対する価値観の大きな違い。でも、その二人が他の人の基準になるのは正直申し訳ないと思うところはある。
「楽な人って具体的には?」
「面倒なこととかなくて、カフェとか映画とか一緒に出来る人?そんな感じ」
「意外とゆるいね」
俺の言葉は俺に対する認識度合いで変わってくる。だから、言葉と表情は違った。
「そうかな。結城さんは?」
「私は、落ち着く人、かな?」
「それずっと言ってるよね」
「だって、一緒にいて落ち着くのが一番大事じゃない?」
俺も何となく分かる気がした。楽が大事だという事、落ち着くのが大事だという事、きっと似てるんだろう。それほどの違いを感じない気がする。だとすると、俺のタイプと彼女のタイプそれほどの違いはない気がするのだが。
「なら朝倉は?」
「私は、見た目全振りだね。見た目がよくないとその人のことを異性としてちゃんと意識できる気がしないんだよね」
確かに、朝倉は面食いでかなり有名だった気がする。まあ実際、朝倉は中学ではトップクラスの可愛さを持ち、高校でも学年の中でビジュアルの良さは他の生徒より、群を抜いているとかなり噂になっていた。
「ってことは、性格が良くても顔が悪い人より、見た目が良くて性格の悪い人のほうがいいってことなんだ」
「いや、そういう訳じゃないけど、ある程度の性格は大体顔見れば分かるくない?」
多くの人と接する機会が多い彼女は、そのおかげで彼女には見た目だけである程度の人脈を量れる能力を身に着けたのだろう。
「その自信、ほんと怖いよ」
「ってか、その好みの詳しく気になるわ」
朝倉のような美人が認める人の条件が少し気になった。
「詳しくね・・・」
俺はここから、彼女の理想の高さを改めて知った。
「まずは、身長が百八十は必須かな。私がヒールを履いても全然高くないと嫌かな。あとモデル並みに好かれる顔とそれなりのファッションセンスも欲しいよね。周りに褒める以外の言葉を言われるのは、ありえないし」
朝倉から出た好みの異性は、予想以上に事細かに決められていた。
「ここまで細かいと理想の人が現れたら私たちにもありがたいね」
「と言うと?」
「私とは気を合わないけど、その人を紹介したらいいんだってすぐなるでしょ?」
「確かに」
ありがたいとはそういう時に使うのか。覚えておこう。
「そういえば、結城さんって家こっちなの?中学で見た覚えないけど」
「あぁ、今日は優里奈の家に泊まるんだぁ」
「去年はできなかったからね。今日も明日も体育ないから」
高校生って、平日でも泊まるもんなんだなぁ。俺には考えつくことも出来ないけど。
俺の話をするところで、朝倉の母親が車で二人を迎えに来た。俺は家に帰り、課題を済ませようと机に向かっていた。
『ごめん、数学の課題が分からん!手伝って』
届いたメールの送り元は、久しぶりに話すことになる響空だった。
『手伝うって、どうやって?』
俺が送ると直ぐに既読がつき、着信画面に切り替わった。
『これで行けるでしょ』
「いや、出されてる課題が違うから、電話じゃきついとこあるよ」
なら、と言って画面が響空の見ている景色の一部に切り替わった。
響空の課題も終わらせたところで、俺たちは軽い雑談に入っていた、はずだった。
「ねぇあのさ、辰矢って、まだ私の事好きなの?」
「ちょっと」
駅に降りるやいなや朝倉の手に引かれ、俺はホームの光の当たらないぼんやりと見える世界に連れ込まれた。離れる代わりに得た言葉は、俺の予想を遥かに超えてきた。
「咲楽に何かしたの?」
「いや、朝倉の前以外で話したことないよ。ワボはつながってはいるけど、話したいこととかもないし」
俺のワボを知っている人は意外と多い、でもやり取りをしてるのはほんの数人程度。もちろんその中に結城さんの名前は存在しない。
「じゃあ何で温厚な咲楽があんなに怒ってんのよ」
俺に入ってきていた情報は意外と本当だったらしい。俺の前だけが他の人からの情報とは違った姿なのだろう。もしかしたら、それが彼女の素の姿なのか。
「知らねえよ」
「あんたが何かしないとああならないでしょう」
そう言われても、俺には心当たりがない。
「だから知らないって。なんなら直接聞こうか?」
俺がそう言った直後、学校の最寄りの駅で言われた言葉を思い出した。
『そういうのやめた方がいいと思う』
もしかしたら、俺に対して女遊びをする人間という印象を与えていたのかもしれない。そんな人間に普段通り周りと同じ対応をしろという方が難しいだろ。
「ねぇ、何話してんの?」
「あ、いや別に」
さすがに本人のことを話してたなんて言えないよな。仲のいい友人だと特に。
「あのさ、稲垣くんって女たらしなの?」
まじで俺の事警戒してんな。
「そんなことないと思うけど、なんでそう思ったの?」
「だって、女の子といる機会多いし。話聞く限り女友だち多そうだなぁって」
言われてみれば確かに、最近は女子と話してばっかりな気がする。響空に華巳先輩、未来に弥生、最近は悠凛といるし。それに対して男は幼なじみと優真、高校に入って仲良くなった明日薫と蒼午、聖馬くらい。後の二人はクラスが変わって話す機会も減ったしな。
「確かに、最近は女子と話す機会の方が多いかも・・・・・・」
変なことは言わずに、変わらない部分だけで話した方が彼女の俺に対する警戒も減るだろう。
「中学の頃からそうなの?」
朝倉に向いた事で、俺の方が警戒を増した。朝倉が変なことを言うだけで、俺のこれからが変わってくる。
「別に、そういうイメージは無いかな。むしろ女子と話してるの見たことないかもだし」
俺は上手く話した朝倉を改めて評価した。朝倉もちゃんと俺の事を気遣ってくれたのだろう。
「へぇ、高校デビュー?」
上手いことを言う結城に朝倉は少し笑みがこぼれた。何でこうも適切で面白い方をするのだろう。結構センスあるな。
「ちょっと上手いね」
「ってことは、たらしになろうとしてる系?」
「違うよ。中学の頃は女子が苦手でね、それを克服しようかなって思ったの」
「ある意味あってるんだ」
「ま、まあね」
微妙な笑みを浮かべること以外、俺は何も出来なかった。いや女子との経験が少ないからこそ、それ以外の選択肢を知らなかった。
「だから犬駒さんにフラれたんじゃない?」
彼女の目はかなり真っ直ぐだった。嫌味と思ってないってこういうことを言うのだろう。
「痛いとこつくね」
俺にはいくつもの仮面を持ち合わせている。ホストのようなクズな面、苦悩を乗り越えた学生とは違う面、植物が好きで家具や楽器にも詳しい面、女子を沼らせ依存させる面。普通の人間には持ち合わせることのない仮面の数。
「特定の好みとかないの?」
俺が好んでよく使っているのは、意外にも一枚目の仮面だ。
「そういう結城さんは?・・・アタ」
俺の言葉の直後、後ろから朝倉が軽く俺の頭を叩いた。頭に大した痛みはないものの、言葉は出てしまう。
「そう言うとこが女たらしだって言われるのよ」
「確かに、今ちょっとそんな雰囲気したかも」
俺は申し訳ない顔を見せながら、会釈をする。きっと結城さんは、俺の仮面をはがしたいんだと思う。俺の何をのぞき込む感じが伝わってくる。
「で?どうなの?」
「俺のタイプだっけ。一緒にいて楽な人かな」
「楽?」
彼女の首をかしげるのは初めて見た。
「それが先輩と犬駒さんとの違い?」
俺の中でそう、それが俺の二人に対する価値観の大きな違い。でも、その二人が他の人の基準になるのは正直申し訳ないと思うところはある。
「楽な人って具体的には?」
「面倒なこととかなくて、カフェとか映画とか一緒に出来る人?そんな感じ」
「意外とゆるいね」
俺の言葉は俺に対する認識度合いで変わってくる。だから、言葉と表情は違った。
「そうかな。結城さんは?」
「私は、落ち着く人、かな?」
「それずっと言ってるよね」
「だって、一緒にいて落ち着くのが一番大事じゃない?」
俺も何となく分かる気がした。楽が大事だという事、落ち着くのが大事だという事、きっと似てるんだろう。それほどの違いを感じない気がする。だとすると、俺のタイプと彼女のタイプそれほどの違いはない気がするのだが。
「なら朝倉は?」
「私は、見た目全振りだね。見た目がよくないとその人のことを異性としてちゃんと意識できる気がしないんだよね」
確かに、朝倉は面食いでかなり有名だった気がする。まあ実際、朝倉は中学ではトップクラスの可愛さを持ち、高校でも学年の中でビジュアルの良さは他の生徒より、群を抜いているとかなり噂になっていた。
「ってことは、性格が良くても顔が悪い人より、見た目が良くて性格の悪い人のほうがいいってことなんだ」
「いや、そういう訳じゃないけど、ある程度の性格は大体顔見れば分かるくない?」
多くの人と接する機会が多い彼女は、そのおかげで彼女には見た目だけである程度の人脈を量れる能力を身に着けたのだろう。
「その自信、ほんと怖いよ」
「ってか、その好みの詳しく気になるわ」
朝倉のような美人が認める人の条件が少し気になった。
「詳しくね・・・」
俺はここから、彼女の理想の高さを改めて知った。
「まずは、身長が百八十は必須かな。私がヒールを履いても全然高くないと嫌かな。あとモデル並みに好かれる顔とそれなりのファッションセンスも欲しいよね。周りに褒める以外の言葉を言われるのは、ありえないし」
朝倉から出た好みの異性は、予想以上に事細かに決められていた。
「ここまで細かいと理想の人が現れたら私たちにもありがたいね」
「と言うと?」
「私とは気を合わないけど、その人を紹介したらいいんだってすぐなるでしょ?」
「確かに」
ありがたいとはそういう時に使うのか。覚えておこう。
「そういえば、結城さんって家こっちなの?中学で見た覚えないけど」
「あぁ、今日は優里奈の家に泊まるんだぁ」
「去年はできなかったからね。今日も明日も体育ないから」
高校生って、平日でも泊まるもんなんだなぁ。俺には考えつくことも出来ないけど。
俺の話をするところで、朝倉の母親が車で二人を迎えに来た。俺は家に帰り、課題を済ませようと机に向かっていた。
『ごめん、数学の課題が分からん!手伝って』
届いたメールの送り元は、久しぶりに話すことになる響空だった。
『手伝うって、どうやって?』
俺が送ると直ぐに既読がつき、着信画面に切り替わった。
『これで行けるでしょ』
「いや、出されてる課題が違うから、電話じゃきついとこあるよ」
なら、と言って画面が響空の見ている景色の一部に切り替わった。
響空の課題も終わらせたところで、俺たちは軽い雑談に入っていた、はずだった。
「ねぇあのさ、辰矢って、まだ私の事好きなの?」
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