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九限目
鈍感
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「あんた、悠凛ちゃんと付き合ったの?」
「何で?」
俺と未来、弥生の三人の関係性は学年が上がっても続いていた。
「いや、もう未練ないのかな?って思ったから」
「未練も何も、復縁してからの響空見てて、俺が手を出せる状況じゃないだろ」
「まあ、人のを盗ろうなんて思うものじゃないしね」
こういう話をするのは悪くないが、中休みに食堂に呼び出して、二人きりで会うのはやめてもらいたいものだ。
「にしても、何で二人であそこに行ったの?」
「互いに行ったことなくて、行きたいなぁって思ってたから」
「でもさ、1年の時告白されたでしょ?」
俺も覚えてはいる。けど彼女自身が俺に対して、今現在も同じ感覚が続いてるとは思えないんだよな。
「なかったの?好きですアピールみたいな」
「俺は別に感じなかったけど・・・・・・」
俺の記憶を呼び戻して考え直してたら、弥生ちゃんが未来の横に座った。
「辰矢くん基本鈍感だからね」
「そう?」
「確かに、鈍感だなぁって思うことよくあるわ」
「そんなにか?」
「「うん」」
一年以上付き合っている二人の息はピッタリだった。同性の場合、悩みとかも共有しやすいからこそ、長続きしやすいのだろうか。
「そういえば、買ったんよ。長田 八樹の新作!」
弥生ちゃんは、俺が思っていた以上の文学少女だった。身近の人に俺の作品を愛読してもらえると、書く意欲もそれなりに上がっていく。
「読んだの?」
「いや、昨日買ったばかりだからね。まだだよ」
「私苦手なんだよね、あの人の小説」
弥生ちゃんと未来は、意外と趣味に関しては正反対と言っても過言ではないのかと思っていた。
「辰矢は?」
「俺も読んでるよ。新作も買ったし」
「面白いよね!」
「まぁ、俺は結構好きかな」
「なんであんなのがいいのよ」
「分かんないの?」
「逆に何がいいの?」
最近は、俺の前でも堂々と喧嘩するようになったな。心を許したとも言えるだろうが、宥める役になるのはさすがに疲れてきた。
「何で未来は分からないかな。あの現実でありそうでないこと。少女漫画と変わんないよ」
「だったら、少女漫画でいいじゃん」
「少女漫画でもいいけど・・・・・・」
俺の作品でそこまで悩まれるのは、結構辛いところはあると思ってしまう。
「でも!四季をちゃんと見てみな?ハマるよ?」
内心、結構嬉しかった。俺自身、四作目はかなり力を入れた。三作目が自分でも駄作だと思えるからこそ、四季はかなり入念に試行錯誤していた。
「辰矢は見たの?」
「うん、見たよ。キャラクターも現実的だし、構成もしっかりしてるって感じだった」
「言ってることすら分からん」
「未来はもっと本を読んで、語彙力を上げたほうがいいよ」
食べ終えた昼食を横にして机に身を預ける未来に、彼女は真正面からぶつかってきた。
「だってそんなに語彙力なくても、弥生も辰矢も私のこと理解してくれるでしょ?」
確かに、ここ最近は未来の考えがなんとなく分かるようになってきた。会話の意図や感情を全部理解できるわけではないが、彼女が好むメニューや頼みそうなものは大抵分かる。
「あのねぇ、私たちとしか過ごさないわけじゃないでしょ?」
今はいいのとでも言いそうな未来の顔に、俺も弥生も呆れていた。
「ここいい?」
未来に続いて俺も食べ終えたころ、俺の隣に悠凛が昼食を持ってきた。今から親子丼を食べるのだろう。でも、俺も未来も食べ終え、もうすぐこの場も解散の頃かと思っていたから、俺は何とも言えない雰囲気をしていた。だが、俺と悠凛のペアを見て、向こう側の二人は何か企み始めたオーラをまとった。
「どうぞどうぞ」
「この前のデート、どうだった?」
未来が言った言葉は、俺が以前未来にかけた鎌をオマージュしたように感じた。いや、未来の自信満々な顔がそのことを確信に変えさせた。頬杖をついて楽しそうな顔の横には、どこか申し訳ないような弥生がいた。
「デート・・・・・・ね。私は楽しかったよ」
三人はそろって驚いた顔を隠せなかった。
「否定しないんだ」
「私はまだ好きだけど、辰矢くんは違うでしょ」
「「へぇ」」
俺だけ一人この雰囲気に取り残された。一人は自分の言葉に赤面し行儀悪く銜えた箸を抜けずにいて、残りの二人は俺のことを面白くニタニタと笑みを隠さずにいた。
「それ、しんどくないの?」
俺は、悠凛ほど強くなかった、強くありたいと思っても俺の心が襲ってきた重圧に耐えることが出来なかった。響空に自分の思いを伝えて一年近くたっても、彼女が俺と話すときの距離感が怖かった。彼氏が出来ているからこそ、俺との距離は以前よりも開いていた。その距離間が怖かった。もっと言えば、近かったりすると降られたときのことを考えて、自分がみじめに見えてしまう。
「多少は?」
彼女は青空の下にいた。
「それ以上に、辰矢くんといる時間が楽しいから」
「「うおぉ」」
これ見よがしに満足気な未来に、これ以上耐えられないと崩れる顔を必死で支えていた。最後の一口を食べ終えたところで、俺たち全員は解散した。
「稲垣!」
帰りのホーム、俺は一人でワボで世間話を見ていると俺の名を呼ぶ命の恩人がいた。
「朝倉じゃん、それに結城さん」
「久しぶり」
正直、結城さんは俺の中で不思議なキャラクターだった。周りの評価は明るくフレンドリーでよく笑ういい子だと好印象だけど、俺の前ではあまり話さず少し嫌われていると思える子だから難しい。
「稲垣さ、最近大人しいよね」
一年の終わり辺りから華巳先輩は、俺に着いてくる機会が減ってきて最初の頃のように噂になることが無くなっていた。
「まあ、最近は何も無いからね」
「本当に?」
「逆に何か心当たりでもあるの?」
今日話していたこともあるからこそ、率直に言えば自分でも分かっていた。でも、自分からそこに話を持って行くことは俺には出来なかった。
「だってこの前、悠凛ちゃんと遊んでたでしょ?」
にしても、今日はこの話題多い気がする。
「遊んだけど」
「だって、私のところにも来たもん。稲垣の趣味とか教えてって」
その話は聞きたくないと思った。俺が好むのは、自然と俺の趣味と同じような人がいい。でももし、この前の彼女が俺に何かを寄せようとしたのなら、罪悪感が感じた。
「そういうのやめた方がいいと思うよ」
久しぶりに聞いた彼女の言葉は、意外にも辛らつだった。
「え?」
「私はそんなに関わりないけど、好きだって思いを踏みにじられているようにも感じるよ」
確かに、悠凛も辛いっていってたな。俺は何をどう言えばいいのか分からず、朝倉に目線で助けを求めた。
「咲楽、どうしたの?珍しいね」
ずっと一緒にいる朝倉も今の結城を知らないのに驚いた。本当に俺のことを嫌いなのだろうか。まさか・・・、いや小学生の男子でもあるまいしそれはないか。
「別に」
「まぁ、ともかく。どうしてあの店だったの?ブームにしては少し遅くない?」
「ブームとかあったんだ。いや、ワボ見ててみんな行ってるなぁって思って。悠凛と一緒になったから」
「え、でも」
「うん、悠凛ちゃん部活の子と行ってたよね」
俺が怖がっていたことが起きた。そこも嘘だったとなると、俺は彼女の何を信じたらいいのだろう。そんなことに嘘をついているとはさすがに思わないし、俺の好みに完全に合わせに来ていると思うほかない。
「だってあの子、結構なインフルエンサーだよ」
インフルエンサーとは、世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物のことをいう。ワボにおいても存在は言わずもながら絶大で、学生だけでなく社会人にも信頼を得ると企業からのスポンサーも付く。
でも、彼女がそのインフルエンサーの一人なんてことは聞いたこともなかった。
「確か、あのカフェもあの子が宣伝して人気で始めたよね」
俺とのデートの時は、そういう話もなかった。むしろ、大した会話をした覚えがない。
俺の目の前に差し出されたのは、悠凛の裏垢と呼ばれるものだった。ネットに疎い俺は何を言っているのか分からなかったが、そのアカウントのフォロワー数は未知の60K、フォーしている人は投稿を見るに過去行ったことのあるお店や、愛用していると思われるブランドの公式アカウントばかり。まさしくインフルエンサーのアカウントなのだろう。一般人と呼ぶべき人をフォローしていなかった。
「でも、なんでこれが悠凛だって思ったの?」
「だって、このアカウント名『yrn.MM.01』でしょ」
「それが?」
「『yrn.MM.01』ってことでしょ」
顔出しをしないインフルエンサーがそんな分かりやすいアカウント名にするだろうか。
「何で?」
俺と未来、弥生の三人の関係性は学年が上がっても続いていた。
「いや、もう未練ないのかな?って思ったから」
「未練も何も、復縁してからの響空見てて、俺が手を出せる状況じゃないだろ」
「まあ、人のを盗ろうなんて思うものじゃないしね」
こういう話をするのは悪くないが、中休みに食堂に呼び出して、二人きりで会うのはやめてもらいたいものだ。
「にしても、何で二人であそこに行ったの?」
「互いに行ったことなくて、行きたいなぁって思ってたから」
「でもさ、1年の時告白されたでしょ?」
俺も覚えてはいる。けど彼女自身が俺に対して、今現在も同じ感覚が続いてるとは思えないんだよな。
「なかったの?好きですアピールみたいな」
「俺は別に感じなかったけど・・・・・・」
俺の記憶を呼び戻して考え直してたら、弥生ちゃんが未来の横に座った。
「辰矢くん基本鈍感だからね」
「そう?」
「確かに、鈍感だなぁって思うことよくあるわ」
「そんなにか?」
「「うん」」
一年以上付き合っている二人の息はピッタリだった。同性の場合、悩みとかも共有しやすいからこそ、長続きしやすいのだろうか。
「そういえば、買ったんよ。長田 八樹の新作!」
弥生ちゃんは、俺が思っていた以上の文学少女だった。身近の人に俺の作品を愛読してもらえると、書く意欲もそれなりに上がっていく。
「読んだの?」
「いや、昨日買ったばかりだからね。まだだよ」
「私苦手なんだよね、あの人の小説」
弥生ちゃんと未来は、意外と趣味に関しては正反対と言っても過言ではないのかと思っていた。
「辰矢は?」
「俺も読んでるよ。新作も買ったし」
「面白いよね!」
「まぁ、俺は結構好きかな」
「なんであんなのがいいのよ」
「分かんないの?」
「逆に何がいいの?」
最近は、俺の前でも堂々と喧嘩するようになったな。心を許したとも言えるだろうが、宥める役になるのはさすがに疲れてきた。
「何で未来は分からないかな。あの現実でありそうでないこと。少女漫画と変わんないよ」
「だったら、少女漫画でいいじゃん」
「少女漫画でもいいけど・・・・・・」
俺の作品でそこまで悩まれるのは、結構辛いところはあると思ってしまう。
「でも!四季をちゃんと見てみな?ハマるよ?」
内心、結構嬉しかった。俺自身、四作目はかなり力を入れた。三作目が自分でも駄作だと思えるからこそ、四季はかなり入念に試行錯誤していた。
「辰矢は見たの?」
「うん、見たよ。キャラクターも現実的だし、構成もしっかりしてるって感じだった」
「言ってることすら分からん」
「未来はもっと本を読んで、語彙力を上げたほうがいいよ」
食べ終えた昼食を横にして机に身を預ける未来に、彼女は真正面からぶつかってきた。
「だってそんなに語彙力なくても、弥生も辰矢も私のこと理解してくれるでしょ?」
確かに、ここ最近は未来の考えがなんとなく分かるようになってきた。会話の意図や感情を全部理解できるわけではないが、彼女が好むメニューや頼みそうなものは大抵分かる。
「あのねぇ、私たちとしか過ごさないわけじゃないでしょ?」
今はいいのとでも言いそうな未来の顔に、俺も弥生も呆れていた。
「ここいい?」
未来に続いて俺も食べ終えたころ、俺の隣に悠凛が昼食を持ってきた。今から親子丼を食べるのだろう。でも、俺も未来も食べ終え、もうすぐこの場も解散の頃かと思っていたから、俺は何とも言えない雰囲気をしていた。だが、俺と悠凛のペアを見て、向こう側の二人は何か企み始めたオーラをまとった。
「どうぞどうぞ」
「この前のデート、どうだった?」
未来が言った言葉は、俺が以前未来にかけた鎌をオマージュしたように感じた。いや、未来の自信満々な顔がそのことを確信に変えさせた。頬杖をついて楽しそうな顔の横には、どこか申し訳ないような弥生がいた。
「デート・・・・・・ね。私は楽しかったよ」
三人はそろって驚いた顔を隠せなかった。
「否定しないんだ」
「私はまだ好きだけど、辰矢くんは違うでしょ」
「「へぇ」」
俺だけ一人この雰囲気に取り残された。一人は自分の言葉に赤面し行儀悪く銜えた箸を抜けずにいて、残りの二人は俺のことを面白くニタニタと笑みを隠さずにいた。
「それ、しんどくないの?」
俺は、悠凛ほど強くなかった、強くありたいと思っても俺の心が襲ってきた重圧に耐えることが出来なかった。響空に自分の思いを伝えて一年近くたっても、彼女が俺と話すときの距離感が怖かった。彼氏が出来ているからこそ、俺との距離は以前よりも開いていた。その距離間が怖かった。もっと言えば、近かったりすると降られたときのことを考えて、自分がみじめに見えてしまう。
「多少は?」
彼女は青空の下にいた。
「それ以上に、辰矢くんといる時間が楽しいから」
「「うおぉ」」
これ見よがしに満足気な未来に、これ以上耐えられないと崩れる顔を必死で支えていた。最後の一口を食べ終えたところで、俺たち全員は解散した。
「稲垣!」
帰りのホーム、俺は一人でワボで世間話を見ていると俺の名を呼ぶ命の恩人がいた。
「朝倉じゃん、それに結城さん」
「久しぶり」
正直、結城さんは俺の中で不思議なキャラクターだった。周りの評価は明るくフレンドリーでよく笑ういい子だと好印象だけど、俺の前ではあまり話さず少し嫌われていると思える子だから難しい。
「稲垣さ、最近大人しいよね」
一年の終わり辺りから華巳先輩は、俺に着いてくる機会が減ってきて最初の頃のように噂になることが無くなっていた。
「まあ、最近は何も無いからね」
「本当に?」
「逆に何か心当たりでもあるの?」
今日話していたこともあるからこそ、率直に言えば自分でも分かっていた。でも、自分からそこに話を持って行くことは俺には出来なかった。
「だってこの前、悠凛ちゃんと遊んでたでしょ?」
にしても、今日はこの話題多い気がする。
「遊んだけど」
「だって、私のところにも来たもん。稲垣の趣味とか教えてって」
その話は聞きたくないと思った。俺が好むのは、自然と俺の趣味と同じような人がいい。でももし、この前の彼女が俺に何かを寄せようとしたのなら、罪悪感が感じた。
「そういうのやめた方がいいと思うよ」
久しぶりに聞いた彼女の言葉は、意外にも辛らつだった。
「え?」
「私はそんなに関わりないけど、好きだって思いを踏みにじられているようにも感じるよ」
確かに、悠凛も辛いっていってたな。俺は何をどう言えばいいのか分からず、朝倉に目線で助けを求めた。
「咲楽、どうしたの?珍しいね」
ずっと一緒にいる朝倉も今の結城を知らないのに驚いた。本当に俺のことを嫌いなのだろうか。まさか・・・、いや小学生の男子でもあるまいしそれはないか。
「別に」
「まぁ、ともかく。どうしてあの店だったの?ブームにしては少し遅くない?」
「ブームとかあったんだ。いや、ワボ見ててみんな行ってるなぁって思って。悠凛と一緒になったから」
「え、でも」
「うん、悠凛ちゃん部活の子と行ってたよね」
俺が怖がっていたことが起きた。そこも嘘だったとなると、俺は彼女の何を信じたらいいのだろう。そんなことに嘘をついているとはさすがに思わないし、俺の好みに完全に合わせに来ていると思うほかない。
「だってあの子、結構なインフルエンサーだよ」
インフルエンサーとは、世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物のことをいう。ワボにおいても存在は言わずもながら絶大で、学生だけでなく社会人にも信頼を得ると企業からのスポンサーも付く。
でも、彼女がそのインフルエンサーの一人なんてことは聞いたこともなかった。
「確か、あのカフェもあの子が宣伝して人気で始めたよね」
俺とのデートの時は、そういう話もなかった。むしろ、大した会話をした覚えがない。
俺の目の前に差し出されたのは、悠凛の裏垢と呼ばれるものだった。ネットに疎い俺は何を言っているのか分からなかったが、そのアカウントのフォロワー数は未知の60K、フォーしている人は投稿を見るに過去行ったことのあるお店や、愛用していると思われるブランドの公式アカウントばかり。まさしくインフルエンサーのアカウントなのだろう。一般人と呼ぶべき人をフォローしていなかった。
「でも、なんでこれが悠凛だって思ったの?」
「だって、このアカウント名『yrn.MM.01』でしょ」
「それが?」
「『yrn.MM.01』ってことでしょ」
顔出しをしないインフルエンサーがそんな分かりやすいアカウント名にするだろうか。
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