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五時間目
感覚
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今日は時間が過ぎていく感覚がかなりぶれている。あっという間にお昼になって、日が暮れるまでの時間もそこからそれほど立っていないように思えた。
「辰矢、今日一日はどうだったよ。懐かしい友と一緒にいて」
明日薫といたからなのだろうか。それとも少しだけ無理をして、自分の思ったように体を動かしたからか。自分でも分からなくなった。それでも確実に言えることがあった。
「すっげぇ楽しいよ。いつもと違って周りが自然でリラックスできるしな」
明日薫同様、俺の過去を知る優真は俺の様子がいつもと違って見えたのだろう。
「だろうな。良い意味で落ち着いてる」
いつもは、自分の行動について考えながら生活するため、ちょっとした緊張を保ちつつ、冷静で伊藤としていた。
「だな、スカッとしてる」
「だからなのか?」
急に何を言い出すかと思って、ちょっとヒヤリとした。
「俺が何を言っても何もしてこなかったのに、あいつと久しぶりに会ってすぐに秘密を少し明かしやがって」
彼はどこか怒っているようにも見えた。それに、俺は驚きのあまりに声が漏れた。確かにあの場所に優真はいなかった。プレー中もそのことを意識していたから、これだけは確かだ。なのに、どうして優真がこのことを知ってるのか、意味が分からなかった。
「これ。俺のクラスじゃお昼からこの話題で持ちきりだ」
親友は携帯を取り出して、俺に動画を見せた直後、自分のクラス内トークの枠にも同じ動画が投稿された。
「これでお前も陽キャに囲まれるな。・・・・・・ん?」
俺は優真の話の途中で、携帯を片手に足が止まっていた。
「え、どうしよ。変に目立ってるやん。病気がバレて、最悪退学とか・・・・・・」
「ならねぇよ。そんな時は俺と明日薫で守ってやるから安心しろよ」
俺の冗談に軽くツッコミを入れた後の優真のセリフに、少しばかり感動した。これからの学生生活に安堵する。
時計の針が進むにつれてクラス内トークは熱気を増していた。そんな事は知りもせず電話がなる。
「誰?」
「未山さん・・・・・・もしもし?」
隣は一先ず置いといて、電話に出ると向こう側から女子の楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。
『もしもし、急にごめんね』
「大丈夫だよ。そっちは楽しそうだね」
「辰矢、先行ってるからな」
そう言ってきた優真に左手を挙げ、別れを告げる。その声は反対側のマイクも拾っていた。
『あ、ごめん。誰かといたの?邪魔しちゃったよね』
彼女はどこか不安そうな声だった。何を考えているのか俺には分かりかなないが。
「いや気にしなくて大丈夫だよ。話も一段落したから」
悠凛は不安が少し取れ、トーンが高くなる。
『そっか。ねぇ、良かったら今から会って話せる?』
「いいよ。それじゃ、食堂の前に来れる?」
先生方が何に対して配慮したのか分からないが、食堂と女子が泊まる部屋は近く、男子の泊まる部屋からは遠い。
「私はいいけど、辰矢くんは大丈夫?」
俺は優真と夜空の下、散歩して集合場所の近くにいることを伝えると、彼女はすぐに電話を切った。
「何か嫌な予感がする・・・」
正直、自分の予感はそれほど当たらない。当たる確率は大体六割程度。何とも言えないから、面倒になる。
「辰矢。体調大丈夫か?」
後ろからペアの明日薫が急な肩組みをしてきたから、俺は少し前かがみ姿勢になる。
「っぷね。なんだよ、びっくりするなぁ」
「えへへ、悪い悪い」
周りから高い評価を得ている明日薫も、学年内で流行っている動画を見せてきた。
「やばいな。早くも最強の味方が有名になってるぞ」
今の明日薫は、飲酒済みのようにテンションが高く、絡み方が面倒くさい。俺は肩の重みを外し、前髪の重みをかき上げる。
「分かってる。ってか、意外にも俺たちの持ってるポイント、結構上にいるのは驚きだったよな」
同じクラスの人に持っているポイントを聞くと、意外にみんな持っていないことを知れた。平均は大体百二十程度。それに対して俺たちが持ってるポイントは百八十。これは、知ってる限り三番目に高いポイントだった。
「あぁ、確かに。聞いた感じもサッカーと登山がかなり高得点だったみたいだし」
俺は少しだけ後悔をしていた。自分の選択が仇となったからだ。
「まさか、目立たないと思っていた登山が一番高いとはな」
「ほんと、逃げたつもりなんだけどな・・・。それに、あの場に同じクラスの女子がいたのがな・・・」
得点は夕食の時間終了後、配布された。その際、競技の得点配分が添付されており、仲間内での作戦会議がメールでも始まっていた。
それより、クラスの女子が見ていた俺の姿は、体育の時間のものとは比較にならなかった。それがバレたのが自分の最大の失敗だった
「それな。あの動画取ったのもその子みたいだし・・・」
「まじ?」
「あぁ、俺のクラスグループに動画上げた子に聞いたぞ」
なら、どうして俺のクラスで流れるよりも他のクラスに流れるのが早いのか、理解できない。
「話題の人がそのグループにいたら、投稿しないだろ。幸に聞いたらお昼のメッセージの後は、その話題でひっきりなしだったらしいぞ」
明日薫の話を聞いていると、不思議だが響空の顔が浮かんできた。それと同時にいつもの発作が始まる。
「おい、今、薬飲んでなかったか?」
明日薫の目の前で薬を口にした。その姿は、不治の病としてはあまりにもあっけなさ過ぎたのだろう。何度か瞬きを繰り返していた。
「あぁ、痛みに慣れたわけじゃないけど、表情にしないようにはなったかな」
彼は笑って肩を落とした。
「なんだよ。ってことは、ある程度はリラックスしていいんだな」
どうやら、俺の発作はかなり強力で自分でも耐えられないと考えられていたらしい。
「まあな。いとどだけ限界まで頑張ってみたけど、大体十分くらいだったから・・・それくらいまでに間に合えば大丈夫じゃない」
「了解。それが分かると結構楽だな」
そう言いながら時計を見ると、明日薫は約束があると言って俺の目的地とは別の道を走り去っていった。俺は一通のメールを送り、少しだけ歩くペースを上げた。
目的地について五分、俺を呼び出していた悠凜が小走りで着いた。
「お疲れ、大丈夫?息上がってるけど」
彼女が上がった息を直す間に、俺たちは近くのベンチへと移動する。正直、彼女が緊張していたのは暗闇に包まれているベンチでも分かった。姿が見えなくても分かる緊張は、きっと彼女の顔も固くしている。
「あの・・・その・・・」
恐怖すら感じる彼女の声は、検査前の自分のように思えた。これから起こることに不安を持ち、自分に自信が無いから、いつもなら出る勇気が出ない。そんな時、看護師や俺の母は同じ行動をしていた。俺も緊張をほぐせるように同じ行動をとる。
「・・・っえ?」
「・・・大丈夫、悠凜はすごい人だよ。今回も活躍したって聞いたよ」
これを言われた俺は、毎回どうしてか勇気が出ていた。だから、何かに震え緊張している彼女にも有効だと思ったんだけど・・・。触れた手は震える代わりに熱を持ち始めた。
「あっ、ごめん・・・」
「いや、大丈夫。・・・・・・あのさ、いろいろと怖いところあるから単刀直入に話すね?」
上がった息が戻ったと思ったら、一度深く深呼吸をする悠凜は、何かを決意した目をしていた。
「・・・・・・私は、あなたの事が好きです。私と付き合ってもらえませんか?」
自分でも驚いた。これが世に言う『モテ期』と言うものだろうか。少し前に木下先輩に告白され、今も告白の返事を待っている女子がいる。うかれながらも、悠凜と話した今までを思い出す。
「・・・あの、返事はいつでも大丈夫」
「いや・・・」
俺の考えは正直決まっていた。でも、先輩の時とは違って、メッセージのやり取りや電話をしていたから、うまく断れる自信が無かった。誰かが好きだといえるわけでもないし、高校生活が忙しすぎるわけでもない。恋愛経験の無い俺には、彼女に与えるダメージが少ない返事を生み出せない。
「ごめん、俺は悠凜をそういう感じで見たこと無くて・・・」
これが今の俺の最高の思いやりを持った答えだった。これよりさきを言えば彼女が今まで俺にしてきたであろう、アプローチをすべて否定することになるのはなんとなく察した。
「そうだよね、木下先輩との噂が嘘だとしても、響空がいるもんね」
そう言われて、もしかしたら俺はあいつのことが好きなのかと、初めて真面目になる。
「それは・・・俺もわかんないんだよね。木下先輩のことは本当に違うけど、響空に関しては俺も自分で理解できてないんだよね」
「そっか・・・、ならまだ私にもまだチャンスはあるってこと?」
彼女の前のめりの反応に俺は、一歩後ろ足が出る。7
「あのぉ、悪いんだけど。俺は今、誰とも付き合うつもり無いんだよね」
彼女の顔がまた下を向く。
「それじゃあ、響空のこと、どう思ってるか聞いてもいい?」
「どうって言うと?」
「そのままだよ」
俺の頭の中にハテナマークが三つ現れる。謎をそのまま返された。
「向こうが頑張ってると応援したくなるとか、誰かと一緒にいるとモヤモヤするとか」
無言で考えて、今までの思いを振り返る。
「・・・何も無いの?」
「・・・多分、興味深い存在なんだと思う。俺は、俺の知らない初めてであった感覚の彼女が面白いって思ってるのかも」
「・・・・・・」
無言で返された俺は、どうしようか頭を抱える。暗闇の中で慣れた視界が見せたのは、ボンヤリトした彼女だった。
「・・・分かった!」
彼女はもう一度俺との距離を縮めて、顔をのぞいてくる。
「私は、辰矢くんのことが好きなのは変わらないから。辰矢くんに好かれるように私、頑張る!」
悠凜という女子は信念が強いらしい。
「そんなに俺のこと思ってくれてるんだ」
俺は彼女に感謝をして、別の挨拶を告げる。
林間学校の夜空は、数多の輝きに満ちていた。澄んだ空気の中、蝉の鳴く時期らしくない気温に包まれている。この感覚が今の俺には新鮮で気持ちがいい。
星空の下、悠凜からの告白を思い出す。二度目の告白に、うなずけば『リア充』になれたのかもしれない。しかし、中途半端な気持ちで答えれば、それはそれで失礼にあたるしな。
夜風が当たり、森の音が大きいほうに目線が行く。
「悪いな。こんなギリギリに呼び出して」
「本当だよ。こういうのは、彼女さんに悪いよ。辰矢」
俺自身、この気持ちの正体が分かっているわけではないが曖昧な形だとしても、響空には伝えておきたかった。
「辰矢、今日一日はどうだったよ。懐かしい友と一緒にいて」
明日薫といたからなのだろうか。それとも少しだけ無理をして、自分の思ったように体を動かしたからか。自分でも分からなくなった。それでも確実に言えることがあった。
「すっげぇ楽しいよ。いつもと違って周りが自然でリラックスできるしな」
明日薫同様、俺の過去を知る優真は俺の様子がいつもと違って見えたのだろう。
「だろうな。良い意味で落ち着いてる」
いつもは、自分の行動について考えながら生活するため、ちょっとした緊張を保ちつつ、冷静で伊藤としていた。
「だな、スカッとしてる」
「だからなのか?」
急に何を言い出すかと思って、ちょっとヒヤリとした。
「俺が何を言っても何もしてこなかったのに、あいつと久しぶりに会ってすぐに秘密を少し明かしやがって」
彼はどこか怒っているようにも見えた。それに、俺は驚きのあまりに声が漏れた。確かにあの場所に優真はいなかった。プレー中もそのことを意識していたから、これだけは確かだ。なのに、どうして優真がこのことを知ってるのか、意味が分からなかった。
「これ。俺のクラスじゃお昼からこの話題で持ちきりだ」
親友は携帯を取り出して、俺に動画を見せた直後、自分のクラス内トークの枠にも同じ動画が投稿された。
「これでお前も陽キャに囲まれるな。・・・・・・ん?」
俺は優真の話の途中で、携帯を片手に足が止まっていた。
「え、どうしよ。変に目立ってるやん。病気がバレて、最悪退学とか・・・・・・」
「ならねぇよ。そんな時は俺と明日薫で守ってやるから安心しろよ」
俺の冗談に軽くツッコミを入れた後の優真のセリフに、少しばかり感動した。これからの学生生活に安堵する。
時計の針が進むにつれてクラス内トークは熱気を増していた。そんな事は知りもせず電話がなる。
「誰?」
「未山さん・・・・・・もしもし?」
隣は一先ず置いといて、電話に出ると向こう側から女子の楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。
『もしもし、急にごめんね』
「大丈夫だよ。そっちは楽しそうだね」
「辰矢、先行ってるからな」
そう言ってきた優真に左手を挙げ、別れを告げる。その声は反対側のマイクも拾っていた。
『あ、ごめん。誰かといたの?邪魔しちゃったよね』
彼女はどこか不安そうな声だった。何を考えているのか俺には分かりかなないが。
「いや気にしなくて大丈夫だよ。話も一段落したから」
悠凛は不安が少し取れ、トーンが高くなる。
『そっか。ねぇ、良かったら今から会って話せる?』
「いいよ。それじゃ、食堂の前に来れる?」
先生方が何に対して配慮したのか分からないが、食堂と女子が泊まる部屋は近く、男子の泊まる部屋からは遠い。
「私はいいけど、辰矢くんは大丈夫?」
俺は優真と夜空の下、散歩して集合場所の近くにいることを伝えると、彼女はすぐに電話を切った。
「何か嫌な予感がする・・・」
正直、自分の予感はそれほど当たらない。当たる確率は大体六割程度。何とも言えないから、面倒になる。
「辰矢。体調大丈夫か?」
後ろからペアの明日薫が急な肩組みをしてきたから、俺は少し前かがみ姿勢になる。
「っぷね。なんだよ、びっくりするなぁ」
「えへへ、悪い悪い」
周りから高い評価を得ている明日薫も、学年内で流行っている動画を見せてきた。
「やばいな。早くも最強の味方が有名になってるぞ」
今の明日薫は、飲酒済みのようにテンションが高く、絡み方が面倒くさい。俺は肩の重みを外し、前髪の重みをかき上げる。
「分かってる。ってか、意外にも俺たちの持ってるポイント、結構上にいるのは驚きだったよな」
同じクラスの人に持っているポイントを聞くと、意外にみんな持っていないことを知れた。平均は大体百二十程度。それに対して俺たちが持ってるポイントは百八十。これは、知ってる限り三番目に高いポイントだった。
「あぁ、確かに。聞いた感じもサッカーと登山がかなり高得点だったみたいだし」
俺は少しだけ後悔をしていた。自分の選択が仇となったからだ。
「まさか、目立たないと思っていた登山が一番高いとはな」
「ほんと、逃げたつもりなんだけどな・・・。それに、あの場に同じクラスの女子がいたのがな・・・」
得点は夕食の時間終了後、配布された。その際、競技の得点配分が添付されており、仲間内での作戦会議がメールでも始まっていた。
それより、クラスの女子が見ていた俺の姿は、体育の時間のものとは比較にならなかった。それがバレたのが自分の最大の失敗だった
「それな。あの動画取ったのもその子みたいだし・・・」
「まじ?」
「あぁ、俺のクラスグループに動画上げた子に聞いたぞ」
なら、どうして俺のクラスで流れるよりも他のクラスに流れるのが早いのか、理解できない。
「話題の人がそのグループにいたら、投稿しないだろ。幸に聞いたらお昼のメッセージの後は、その話題でひっきりなしだったらしいぞ」
明日薫の話を聞いていると、不思議だが響空の顔が浮かんできた。それと同時にいつもの発作が始まる。
「おい、今、薬飲んでなかったか?」
明日薫の目の前で薬を口にした。その姿は、不治の病としてはあまりにもあっけなさ過ぎたのだろう。何度か瞬きを繰り返していた。
「あぁ、痛みに慣れたわけじゃないけど、表情にしないようにはなったかな」
彼は笑って肩を落とした。
「なんだよ。ってことは、ある程度はリラックスしていいんだな」
どうやら、俺の発作はかなり強力で自分でも耐えられないと考えられていたらしい。
「まあな。いとどだけ限界まで頑張ってみたけど、大体十分くらいだったから・・・それくらいまでに間に合えば大丈夫じゃない」
「了解。それが分かると結構楽だな」
そう言いながら時計を見ると、明日薫は約束があると言って俺の目的地とは別の道を走り去っていった。俺は一通のメールを送り、少しだけ歩くペースを上げた。
目的地について五分、俺を呼び出していた悠凜が小走りで着いた。
「お疲れ、大丈夫?息上がってるけど」
彼女が上がった息を直す間に、俺たちは近くのベンチへと移動する。正直、彼女が緊張していたのは暗闇に包まれているベンチでも分かった。姿が見えなくても分かる緊張は、きっと彼女の顔も固くしている。
「あの・・・その・・・」
恐怖すら感じる彼女の声は、検査前の自分のように思えた。これから起こることに不安を持ち、自分に自信が無いから、いつもなら出る勇気が出ない。そんな時、看護師や俺の母は同じ行動をしていた。俺も緊張をほぐせるように同じ行動をとる。
「・・・っえ?」
「・・・大丈夫、悠凜はすごい人だよ。今回も活躍したって聞いたよ」
これを言われた俺は、毎回どうしてか勇気が出ていた。だから、何かに震え緊張している彼女にも有効だと思ったんだけど・・・。触れた手は震える代わりに熱を持ち始めた。
「あっ、ごめん・・・」
「いや、大丈夫。・・・・・・あのさ、いろいろと怖いところあるから単刀直入に話すね?」
上がった息が戻ったと思ったら、一度深く深呼吸をする悠凜は、何かを決意した目をしていた。
「・・・・・・私は、あなたの事が好きです。私と付き合ってもらえませんか?」
自分でも驚いた。これが世に言う『モテ期』と言うものだろうか。少し前に木下先輩に告白され、今も告白の返事を待っている女子がいる。うかれながらも、悠凜と話した今までを思い出す。
「・・・あの、返事はいつでも大丈夫」
「いや・・・」
俺の考えは正直決まっていた。でも、先輩の時とは違って、メッセージのやり取りや電話をしていたから、うまく断れる自信が無かった。誰かが好きだといえるわけでもないし、高校生活が忙しすぎるわけでもない。恋愛経験の無い俺には、彼女に与えるダメージが少ない返事を生み出せない。
「ごめん、俺は悠凜をそういう感じで見たこと無くて・・・」
これが今の俺の最高の思いやりを持った答えだった。これよりさきを言えば彼女が今まで俺にしてきたであろう、アプローチをすべて否定することになるのはなんとなく察した。
「そうだよね、木下先輩との噂が嘘だとしても、響空がいるもんね」
そう言われて、もしかしたら俺はあいつのことが好きなのかと、初めて真面目になる。
「それは・・・俺もわかんないんだよね。木下先輩のことは本当に違うけど、響空に関しては俺も自分で理解できてないんだよね」
「そっか・・・、ならまだ私にもまだチャンスはあるってこと?」
彼女の前のめりの反応に俺は、一歩後ろ足が出る。7
「あのぉ、悪いんだけど。俺は今、誰とも付き合うつもり無いんだよね」
彼女の顔がまた下を向く。
「それじゃあ、響空のこと、どう思ってるか聞いてもいい?」
「どうって言うと?」
「そのままだよ」
俺の頭の中にハテナマークが三つ現れる。謎をそのまま返された。
「向こうが頑張ってると応援したくなるとか、誰かと一緒にいるとモヤモヤするとか」
無言で考えて、今までの思いを振り返る。
「・・・何も無いの?」
「・・・多分、興味深い存在なんだと思う。俺は、俺の知らない初めてであった感覚の彼女が面白いって思ってるのかも」
「・・・・・・」
無言で返された俺は、どうしようか頭を抱える。暗闇の中で慣れた視界が見せたのは、ボンヤリトした彼女だった。
「・・・分かった!」
彼女はもう一度俺との距離を縮めて、顔をのぞいてくる。
「私は、辰矢くんのことが好きなのは変わらないから。辰矢くんに好かれるように私、頑張る!」
悠凜という女子は信念が強いらしい。
「そんなに俺のこと思ってくれてるんだ」
俺は彼女に感謝をして、別の挨拶を告げる。
林間学校の夜空は、数多の輝きに満ちていた。澄んだ空気の中、蝉の鳴く時期らしくない気温に包まれている。この感覚が今の俺には新鮮で気持ちがいい。
星空の下、悠凜からの告白を思い出す。二度目の告白に、うなずけば『リア充』になれたのかもしれない。しかし、中途半端な気持ちで答えれば、それはそれで失礼にあたるしな。
夜風が当たり、森の音が大きいほうに目線が行く。
「悪いな。こんなギリギリに呼び出して」
「本当だよ。こういうのは、彼女さんに悪いよ。辰矢」
俺自身、この気持ちの正体が分かっているわけではないが曖昧な形だとしても、響空には伝えておきたかった。
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