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第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~
炎に魅せられた男 (★メテウス視点)
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物心がついた時から俺は、炎に魅せられていた。
その幻想的に揺らめく姿を、純粋に美しいと思った。
家族団欒。
友達とのお泊まり。
そして、ソレはいつも暖かい気持ちにさせてくれた。
そんな俺の気持ちが、神様に届いたのだろうか。俺はある日、炎を生み出せるようになった。幼い俺は、嬉しさのあまり周囲に報告して回った。
「すごいな! 」
「お前が居ると助かる」
褒めて貰えるのが嬉しかった。俺の特異な能力は瞬く間に噂になった。そうなると、やっかむ奴が生まれるのは必然だろう。
「なんで赤くないの? 」
「変な色してて怖えー」
「呪われた子だ」
悪意のあるそれらの言葉は、俺の幼心に深く突き刺さった。
それでも、影で囁かれている内は、まだよかった。聞き流すことができたから。
そして、俺の人生を一変させた──いや、そういう意味では、炎を生み出せるようになった日のことをいうのかもしれないが──その日がやってくる。
俺は同世代の子に絡まれた。感情を逆撫でされた俺は、炎を暴走させ、相手に火傷を負わせてしまった。
地獄の日々の始まりだった。
周囲は俺を腫れ物のように扱いだした。炎の使用は禁止され、隔離された小屋に閉じ込められた。
俺が住んでいたのは小さな村で、村長の命令には絶対服従だった。親も俺を切り捨て、家族を守ることを選択したんだろう。
俺の唯一の友達は、空高くを飛ぶ鳥達だけだった。
──鳥になって、何処かに飛んでいきたい。
いつしか、毎日そう願うようになっていた。
「フルォ、プロー」
死んだ様な日々を送っていた、ある日、外から弱々しい変な鳴き声が聞こえてきた。恐る恐る外に出てみると、地面に烏の若鶏──見知った大きさより大分小さかった──が蹲っていた。
勝手に同族意識をもっていた俺は、小屋に連れ帰ることにした。
一緒に寝て体温を温めたり、餌(俺の食事、ボソボソのパンを味のしないスープに浸したヤツ)をあげたりしていたら、数日で元気を取り戻した。
窓から放してやると、大空高く飛んでいき黒い星になった。
嬉しいはずなのに、羨ましくて、そして、ポッカリ穴の空いたように寂しい複雑な気持ちで、俺はそれを見送った。
「うっ、ううっ……」
夜、寂しくて泣いてしまった。
たった数日だったけれど、あいつの体温は俺に刻み込まれていた。
少し微睡んではヤツを探し、巣立ったことに絶望する。それを繰り返していた。
2、3日、そんなことを繰り返していると、心はまた平常運転に戻っていった。何も感じない屍状態に。
折角自分を取り戻せたというのに、4日目の夜、また、心を大きく揺さぶられた。
「プロォ、プロォー」
しっかりとした変な鳴き声が聞こえてきたのだ。月明かりに照らされた木の上に黒いシルエットが浮かんでいた。
窓を開けてやると、ヤツが飛び込んできた。
俺を心配して戻ってきてくれたようだ。昼間、野鳥に襲われ逃げ回っていたことは、この際、知らぬことにしよう。
「お前、戻ってきてくれたのか」
「プロォ」
「ハハッ、相変わらず変な鳴き声だな。
よしっ、今日からお前はプロォだ。そして、プロォ、俺の相棒第一号に任命するっ!! 」
嬉しくて嬉しくて、めちゃくちゃハイテンションで俺はそう叫んだ。
結局、俺達はまた一緒に寝た。そして、一緒のご飯を食べるようになった。
外へ出られない俺のために、花やお菓子を取ってきてくれたり、野ねずみを狩って自慢げに見せつけてくれたりもした。
そしていつしか、俺の炎さえもその身に纏うようになっていた。
◇◆◇
月日は流れ、俺は15歳になった。
隔離生活も、7年目を迎えようとしていた。
俺は突然解放された。
そして、豪華な馬車に乗せられ大きな宮殿へと連れていたかれた。もちろん、プロォも一緒だ。俺の中に隠れていた。
そこで、皇帝と危なそうな医者に面会した。
皇帝は俺の炎に、医者は俺の体に興味があるようだった。
家族から切り離され、存在すらも抹消されている俺は、兵器として、そして、人体実験被検体として最適というわけだ。
皇帝の命令に従い、医者の実験に付き合えば自由を保証するというその条件を、俺は呑んだ。
今までの生活に比べたら、破格といってもいい。それに、結局、俺に選ぶ権利は無かった。
医者の実験が進むにつれ、俺は破壊衝動を抑えられなくなった。どんな秘術を使ったか知らないが、ヤツは俺の体内に潜むようになり、精神を弄った。そして、カフカ等と名乗るようなった。
そもそも、俺は壮大な怨念を拗らせていたのだ。プロォの存在が、それをなんとか抑えこんでいた。そうでなければ、あの村は早々に焦土と化していただろう。
抑制の効かなくなった俺は、手始めに村を焼き尽くした。それからは、皇帝に求められる侭に、燃やしの限りを尽くした。
今回のマゼンタ襲撃も、その内の1つに過ぎなかった。
表向きでカフカが動き、裏で俺が暗躍する。何時ものパターンだ。
だから、最初は出て行くつもりはなかった。しかし、あの王と対面したとき、俺の中で積もりに積もった怨念が蠢いた。
「なんで赤くないの? 」
「変な色してて怖えー」
「呪われた子だ」
かつて、投げかけられた言葉が頭の中で反響し、心が焼く着くように痛かった。
大嫌いな赤い炎を傍で感じ、黒炎を爆発させてしまった。
「いけ好かない臭いを感じたんでな。
国王陛下はオレに殺らせろ」
気付けば表にでて、そう宣言していた。
それから、初めてと言っていい程の激しい死闘を繰り広げた。
大嫌いなはずの紅蓮の炎を相手にしているのに、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、拳を合わせるごとに、今までのモヤモヤがスッキリしていく。赤い炎と互角にヤリ逢えていることが嬉しかったのかもしれない。
「ソナタの炎は、実に綺麗な色をしている」
闘いの隙をついて、王はふざけた事を抜かしやがった。予想外の言葉に動けなくなってしまう。道具として褒められたことはあっても、炎その物について褒められたことは、これまで一度もなかった。
王が攻撃を畳み掛けてきた。
ふざけやがって。俺の動揺をさそったのだ。
臍を噬む想いで、迎撃する俺。
「先程の言葉は、本心だ」
そんな俺に対し、王は事も無げにそう告げた。
完全に掌で転がされていた。
それでも、俺は俺の全力を出し尽くした。
気づけば俺は紅蓮の炎に包まれ、両膝をついていた。全力を出して、俺は負けたんだ。
それなのに、あれだけ忌々しく思っていた赤い炎は、とても幻想的だった。揺らめく姿を、純粋に美しいと思った。
俺はやっぱり、赤い炎が、いや、炎そのものが大好きだ。
「ラキノン王とヤリ逢えて……ラキノン王にヤられてよかっ……」
俺の炎を唯一褒めてくれた、そして、怨念から解き放ってくれた王に、それだけは伝えたかった。
しかしながら、最後まで言えなかった。
カフカだ。
使えなくなったら斬る。
あの男がやりそうなことだ。
最後に、プロォに一言感謝を伝えたかったなぁ。
暖かな紅い炎に包まれながら、俺はそう想った。
その幻想的に揺らめく姿を、純粋に美しいと思った。
家族団欒。
友達とのお泊まり。
そして、ソレはいつも暖かい気持ちにさせてくれた。
そんな俺の気持ちが、神様に届いたのだろうか。俺はある日、炎を生み出せるようになった。幼い俺は、嬉しさのあまり周囲に報告して回った。
「すごいな! 」
「お前が居ると助かる」
褒めて貰えるのが嬉しかった。俺の特異な能力は瞬く間に噂になった。そうなると、やっかむ奴が生まれるのは必然だろう。
「なんで赤くないの? 」
「変な色してて怖えー」
「呪われた子だ」
悪意のあるそれらの言葉は、俺の幼心に深く突き刺さった。
それでも、影で囁かれている内は、まだよかった。聞き流すことができたから。
そして、俺の人生を一変させた──いや、そういう意味では、炎を生み出せるようになった日のことをいうのかもしれないが──その日がやってくる。
俺は同世代の子に絡まれた。感情を逆撫でされた俺は、炎を暴走させ、相手に火傷を負わせてしまった。
地獄の日々の始まりだった。
周囲は俺を腫れ物のように扱いだした。炎の使用は禁止され、隔離された小屋に閉じ込められた。
俺が住んでいたのは小さな村で、村長の命令には絶対服従だった。親も俺を切り捨て、家族を守ることを選択したんだろう。
俺の唯一の友達は、空高くを飛ぶ鳥達だけだった。
──鳥になって、何処かに飛んでいきたい。
いつしか、毎日そう願うようになっていた。
「フルォ、プロー」
死んだ様な日々を送っていた、ある日、外から弱々しい変な鳴き声が聞こえてきた。恐る恐る外に出てみると、地面に烏の若鶏──見知った大きさより大分小さかった──が蹲っていた。
勝手に同族意識をもっていた俺は、小屋に連れ帰ることにした。
一緒に寝て体温を温めたり、餌(俺の食事、ボソボソのパンを味のしないスープに浸したヤツ)をあげたりしていたら、数日で元気を取り戻した。
窓から放してやると、大空高く飛んでいき黒い星になった。
嬉しいはずなのに、羨ましくて、そして、ポッカリ穴の空いたように寂しい複雑な気持ちで、俺はそれを見送った。
「うっ、ううっ……」
夜、寂しくて泣いてしまった。
たった数日だったけれど、あいつの体温は俺に刻み込まれていた。
少し微睡んではヤツを探し、巣立ったことに絶望する。それを繰り返していた。
2、3日、そんなことを繰り返していると、心はまた平常運転に戻っていった。何も感じない屍状態に。
折角自分を取り戻せたというのに、4日目の夜、また、心を大きく揺さぶられた。
「プロォ、プロォー」
しっかりとした変な鳴き声が聞こえてきたのだ。月明かりに照らされた木の上に黒いシルエットが浮かんでいた。
窓を開けてやると、ヤツが飛び込んできた。
俺を心配して戻ってきてくれたようだ。昼間、野鳥に襲われ逃げ回っていたことは、この際、知らぬことにしよう。
「お前、戻ってきてくれたのか」
「プロォ」
「ハハッ、相変わらず変な鳴き声だな。
よしっ、今日からお前はプロォだ。そして、プロォ、俺の相棒第一号に任命するっ!! 」
嬉しくて嬉しくて、めちゃくちゃハイテンションで俺はそう叫んだ。
結局、俺達はまた一緒に寝た。そして、一緒のご飯を食べるようになった。
外へ出られない俺のために、花やお菓子を取ってきてくれたり、野ねずみを狩って自慢げに見せつけてくれたりもした。
そしていつしか、俺の炎さえもその身に纏うようになっていた。
◇◆◇
月日は流れ、俺は15歳になった。
隔離生活も、7年目を迎えようとしていた。
俺は突然解放された。
そして、豪華な馬車に乗せられ大きな宮殿へと連れていたかれた。もちろん、プロォも一緒だ。俺の中に隠れていた。
そこで、皇帝と危なそうな医者に面会した。
皇帝は俺の炎に、医者は俺の体に興味があるようだった。
家族から切り離され、存在すらも抹消されている俺は、兵器として、そして、人体実験被検体として最適というわけだ。
皇帝の命令に従い、医者の実験に付き合えば自由を保証するというその条件を、俺は呑んだ。
今までの生活に比べたら、破格といってもいい。それに、結局、俺に選ぶ権利は無かった。
医者の実験が進むにつれ、俺は破壊衝動を抑えられなくなった。どんな秘術を使ったか知らないが、ヤツは俺の体内に潜むようになり、精神を弄った。そして、カフカ等と名乗るようなった。
そもそも、俺は壮大な怨念を拗らせていたのだ。プロォの存在が、それをなんとか抑えこんでいた。そうでなければ、あの村は早々に焦土と化していただろう。
抑制の効かなくなった俺は、手始めに村を焼き尽くした。それからは、皇帝に求められる侭に、燃やしの限りを尽くした。
今回のマゼンタ襲撃も、その内の1つに過ぎなかった。
表向きでカフカが動き、裏で俺が暗躍する。何時ものパターンだ。
だから、最初は出て行くつもりはなかった。しかし、あの王と対面したとき、俺の中で積もりに積もった怨念が蠢いた。
「なんで赤くないの? 」
「変な色してて怖えー」
「呪われた子だ」
かつて、投げかけられた言葉が頭の中で反響し、心が焼く着くように痛かった。
大嫌いな赤い炎を傍で感じ、黒炎を爆発させてしまった。
「いけ好かない臭いを感じたんでな。
国王陛下はオレに殺らせろ」
気付けば表にでて、そう宣言していた。
それから、初めてと言っていい程の激しい死闘を繰り広げた。
大嫌いなはずの紅蓮の炎を相手にしているのに、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、拳を合わせるごとに、今までのモヤモヤがスッキリしていく。赤い炎と互角にヤリ逢えていることが嬉しかったのかもしれない。
「ソナタの炎は、実に綺麗な色をしている」
闘いの隙をついて、王はふざけた事を抜かしやがった。予想外の言葉に動けなくなってしまう。道具として褒められたことはあっても、炎その物について褒められたことは、これまで一度もなかった。
王が攻撃を畳み掛けてきた。
ふざけやがって。俺の動揺をさそったのだ。
臍を噬む想いで、迎撃する俺。
「先程の言葉は、本心だ」
そんな俺に対し、王は事も無げにそう告げた。
完全に掌で転がされていた。
それでも、俺は俺の全力を出し尽くした。
気づけば俺は紅蓮の炎に包まれ、両膝をついていた。全力を出して、俺は負けたんだ。
それなのに、あれだけ忌々しく思っていた赤い炎は、とても幻想的だった。揺らめく姿を、純粋に美しいと思った。
俺はやっぱり、赤い炎が、いや、炎そのものが大好きだ。
「ラキノン王とヤリ逢えて……ラキノン王にヤられてよかっ……」
俺の炎を唯一褒めてくれた、そして、怨念から解き放ってくれた王に、それだけは伝えたかった。
しかしながら、最後まで言えなかった。
カフカだ。
使えなくなったら斬る。
あの男がやりそうなことだ。
最後に、プロォに一言感謝を伝えたかったなぁ。
暖かな紅い炎に包まれながら、俺はそう想った。
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