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第五章 ニガレオス帝国~暗黒帝と決戦編~

炎王の怒り (★ラキノン王視点)

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「あははっ、楽しぃですねぇ」

 カフカが満面の笑みで間合いを詰め、左手刀を大きく振り上げた。
 色素ピグメントを纏わせた右腕で、ラキノン王がそれを受ける。

 隙ができた王の胴体に、カフカの右拳が叩き込まれる。曲げた左腕を斜め下にはらう様にして、王はその軌道を逸らせた。

 すかさずカフカが左手刀を、王の腹部で真横に薙ぎ払う。王は左腕を斜め下にはらい、それを制した。

 数秒睨み合う二人。

「なっ!?  」

 王の体が大きく後ろへとしなり、前に突き出された。

 ゴチッ!

 鈍い音と共に、真後ろへ吹き飛ばされるカフカ。ラキノン王が、渾身の頭突きを繰り出したのだ。

 カフカが大の字で床に激突した。
 王は追撃の手を緩めない。
 カフカに駆け寄ると、紅蓮に飛翔する左ストレートを腹部へお見舞いした。

 カフカがニヤリと微笑む。

木っ端微塵ダストエクスプロージョンっ!  」

 勝ち誇ったように叫ぶと、黒い粉塵ピグメントへと姿をかえた。

 ドッカーーーーッン!

 それは、朱雀との邂逅で粉塵爆発を引き起こしたのだった。


◇◆◇


 コツッ、コツッ、コツッ、コツッ

 赤黒く輝く床を、一人の王が進みゆく。
 その先では、縦と横にクロスした紅蓮の炎が、ちょうど十字架のように揺らめいていた。

「ぐっ、ぐっ、ぐぐぐぐぬぅぅう」

 辺りにくぐもった呻き声が響き渡る。
 炎の上に、悪魔のような男が縛り付けられていた。男は顔を苦悶に歪めながら、王を睨みつけた。

「わっ、わたしを、縛り付けるなど、ぐぬぬぅ、できるはずが……ぐぅぁあ」

「ほぅ、まだ、喋る余裕があるか。火加減が弱いようだな」

「ぐぅぅぁぁぁあああああっ!  」

 王の呟きで、男が絶叫する。

「確かに、本来、精神生命体になったモノを物理的に拘束するのは不可能だ。
 しなしながら、精神世界ではその限りではない。ここは、余の心の中だ」

「ぐぬぬぅぅうっ」

 男が悔しそうに呻いた。

「ソナタは、メテウスの肉体を依り代に実体化していたのであろう。爆発でその身を手放したのが運のつきだったのだ」

「どっ、どうやって、あの、爆発から……ぐぬぬっ」

「余を誰だと思っておる。
 朱雀を守護魔獣にもつ男ぞ。炎の扱いでは、誰にも負けぬ。
 そして、爆発だって炎術の一つにすぎぬ」

 王が心外だというふうに言った。

「あの時、余はソナタを取り込んでやった。
 火加減は丁度、ソナタが焼失せぬ塩梅で維持してある。
 未来永劫、余の怒りの業火に焼かれるがよいっ!!  」

 王は鬼の形相でそう叫ぶと、踵を返して去っていった。



「ぎゃぁぁぁぁああああああっ!  」

 残された男が、今までにない程の大絶叫をあげた。腹を食い破り、漆黒の炎烏えんうが飛びだしたのだ。

 主を失ったことを知らぬ炎烏えんうは、只管その帰りを待つ。
 そこに横たわる不死の血肉を、未来永劫、ついばみながら。
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