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第二章 シアニン帝国~緑士ノ乱平定編~

精神世界へ

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    皇帝陛下は千人の青士団を伴って行幸された。これでも、隊を絞ったのだそうだ。
    2人の皇子と数名の側近で、向かわれようとされたのだが、ラズワルド卿が頑として認めなかったらしい。正しい判断であろう。ほぼ、治まりかけているとは言え、一応、クーデターの真っ最中なのだ。

    俺達は、皇帝陛下の前に跪く。緑龍がことの仔細を思念で語った。ピロロか俺でも良かったのだが、当事者が語るのが一番良いだろう。

    話を聞いた皇帝陛下は、慈愛に満ちた目で黒龍を眺めていた。

    それはそうだろう。ご自身の守護魔獣なのだ。きっと、そこには誰にも介入できない深い絆があるはずだ。

「此度はよく頑張ってくれた。青龍が自ら暴れ帝国を破壊したと知っては、奴も悲しむだろう。
    ……この石化は、もう、解けないのでろう」

    皇帝陛下が寂びそうにの問いかけた。

「時間とともに中心部が石化していく。一度始まった石化は誰にも止められないし、解けない」

    ドン・スネークが異次元ポケットから不機嫌そうに顔を出し、素っ気なく答えた。

「帝国史と共に歩み、この国を守り続けた青龍を、余の代で失うのは悲しいのう。せめてもの救いが、奴が苦しまずに逝けたことか」

    皇帝陛下が寂しそうな目で、黒竜をみつめる。

「余はニガレオス帝国皇帝ドン・ブラックを決して許しはしない。奴の首をとって、必ずここにささげようぞ!  」

    青い目が、一段と光り輝やいた。

「我ら皇帝陛下のために!守護魔獣青龍のために!  」

    青士団の叫びが、大平原を駆け抜けた。

    青龍の色素ピグメントが次第に弱まっていくのを感じる。
    このままでいいのか。こんな形で、青龍と皇帝陛下の絆が絶たれていいのか。

    体が自然と動いた。

    背後で誰かが何か叫んでいる。説明している暇はない。俺は黒竜の体へ駆け上がると、奴の額へと頭突きを食らわせた。表面を覆う色素ピグメントの結晶が溶融し、黒竜の額に触れた。俺の身体に、ドス黒いピグメントが流れ込んでくる。身体の自由を奪われる感覚がした。咄嗟に、体表を結晶化させる。

    俺は黒龍と額合わせのまま、固まったのだった。


◇◆◇


    暗い。暗くて、何も見えない。

    少しずつ目が慣れてくる。見覚えのある天井だった。ラヴォア博士の研究室のようだ。

    視線を感じる。ピロロが壁にもたれ掛かり、こちらを見ていた。静かに口を開いた。

「お前を私の守護魔獣から解任する。この城より、立ち去れ」

    俺は呆然とする。俺が弱いから、守護魔獣を解任されるのだ。

    ピロロは薄ら笑いを浮かべながら続けた。

「お前のような弱い奴は、私と一緒にいる価値もない。むしろ、足で纏だ」

    何か違和感を感じる。このやり取り、以前にやったはずだ。そして、ピロロはそんな事は言わなかった。まして、こんな薄ら笑いで、俺を見下すことなどありえない。

    目の前のピロロに苛立ちを覚えた。お前は誰だ。俺の大切なピロロを、勝手に愚弄するな。

    ……でも、ピロロの姿をされていると攻撃できないな。

    敢えて、ドン・スネークに意識を集中した。なんだかんだ言って、奴は今、俺のマブダチになりつつある。あのふざけたキャラクターが、なんとも憎めないのだ。
    そんな事を考えていると、目の前にドン・スネークが現れた。

「貴様など認めん」

    俺はわざとらしく、ショックを受けてみせた。

    ドン・スネークも、薄ら笑いで続ける。

「貴様など、俺様に必要ない。マブダチなどと虫唾が走るわ!  」

    俺はニヤリと笑った。そーか、そーか。負蛇の分際で、俺の好意を踏みにじるとは、いい度胸だ。俺は、懇親の一撃を奴の顔面に叩き込んだ。

    ドン・スネークが黒煙に変わり、また、集まり出す。ピロロに化ける気だろうが、そうは、させない。

    俺は朱雀の業火を思い浮かべる。黒煙が炎に包まれて弾け飛び、辺りが白い光で包まれた。

    無事、撃退できたようだ。

    どうやら、ここは、精神世界のようである。あの黒煙は弱みにつけ込んで、心を支配しようとしていたようだった。
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