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第二章 シアニン帝国~緑士ノ乱平定編~
銅士討ち
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俺達は今小高い丘を登っていた。ここを超えたらシアニン帝国皇帝陛下の居城、ブルーフィールズ城が見えてくるらしい。
「ギャオーーーーン! 」
恐竜の鳴き声のようなものが、暗闇を切り裂いた。
「姫様は私がお守りしますっ! 」
カモフラージュの青い軍服に身を包んだ、若い衛兵が俺とピロロの前にたって剣を構えた。
「いやっ、明らかに遠くから聞こえてるだろ」
俺の突っ込みを諸共せず、剣を構え左右を威嚇している。ピロロはというと全く気にせず、奴の横を通り抜けた。
それに気付くと、小走りで前に進み……
「姫様は……! 」
「もういいよっ」
俺の叫びは、虚しくことに誰にも届かなかった。
このやり取りは、実は二度目であった。ほんの数分前にも、同様の鳴き声と彼は闘っていたのだ。
ピロロと俺、そして、ソルフェリーノは(正確には蛇も)ブルーフィールズ城を目指していた。
ヴァイオレッタ姫の元へと向うにあたり、案内役に選ばれたのがソルフェリーノだった。
ヴァイオレッタの遠戚で、姫が嫁いだ後も定期的に遊びに行っているらしい。
実の所案内役とは、ただの名目で、マドムさんがピロロの護衛に付けたようだ。役に立つのか、いささか不安だが、いないよりはマシ? なのか?
「先日は失礼いたしました。このソルフェリーノ、命に変えてご両名をお守りいたします」
初対面(正確には違うようだが)の第一声が、行成の土下座だった。
俺はその勢いに呆気にとられた。ピロロはというと、見向きもしていない。
周りの目もあるので、立つようにお願いすると、頑なに固辞する。その面倒臭いやり取りを何度か繰り返した。
「わー、もー、分かったよ。なんでも許すから!それで、俺たちを死守しなよ! 」
俺の投げやりな恩赦で、やっと、まとも話せるようになった。
こいつが、何を隠そう、マスターのところで、俺を『卑しき獣』扱いした、張本人だったのだ。そのことを仰々しく詫びていたらしい。
この男は、どうも暑苦しく空回りするタイプのようだ。早くも熱中症になりそうだった。
ソルは丘の頂上につくと、構えていた剣を下げた。
「ブルーフィールズ城が見えますよ。あっ、緑色の龍が、遠くで暴れています」
俺とピロロも、奴の隣に並ぶ。そして、同時に翼を出現させ飛び立った。
「あっ、ちょっ、待ってくださいよ~」
ソルが飛び跳ねながら、走って追いかけてくる。
「チッ」
俺は内心舌打ちをし、奴の背中に翼を出現させる。
飛翔はピロロピロール種の能力だった。五角形を縦長に引き伸ばした二対の翼により飛行出来るのだ。
今や、俺は獲得した色素を自在に操れるようになっていた。
ソルはヴァイオレッタ姫と同じキナクリドン種である。奴の色素にピロロピロール種の能力を融合し、翼を出現させたのだ。
ここまでの道中も飛んで来たのだが、目立つことを警戒し、途中で徒歩に切り替えた。
俺は出立前に、研究室で博士立ち合いのもと、種の覚醒実験を行ってきた。それで無事、アントラキノン種も覚醒した。
飛翔能力にアントラキノン種の能力を複合させると、音速超えも可能だった。朱雀の影響が強く出ているようだ。
実は、シアニン帝国の最上位種であるフタロシアニン種も覚醒済みだ。まだ、内緒だが。
博士が言った通り、アレルギー反応が酷かった。これまでと違い、中々熱が下がらず嘔吐を繰り返した。2日程寝込んで、やっと、覚醒したのである。そのことも、ピロロには内緒にしていた。心配するだろうから。
ピロロを先頭に、俺とソルが左右を固め飛行する。要領が良いようで、最初こそバランスを崩して落ちそうになっていが、数分で自分の能力のように使いこなしていた。
緑の龍が鮮明に見えてきた。足元の兵士をなぎ倒し、口から緑炎を吐いてやき尽くしている。銅の炎色反応のようだ。
その周りでは、青い鎧に身を包んだ兵士同士が戦っていた。
内乱だから当然かと納得していると、一際青く輝く剣で緑の龍に背後から切り込む騎兵の姿がみえた。
「ガキーーーン! 」
鋭い音とともに、件の騎兵が弾かれる。龍の鱗は、想像以上に硬いようだ。
緑の龍は一瞥するとそちらへ向けて、緑炎を吐き出す。と、同時にピロロが飛び込んだ。
「うっ、うそだろ! 」
ピロロと騎兵を覆うように巨大な結界を出現させる。ピロロが騎兵を救って飛び立つのと、結界が破壊されたのがほぼ同時だった。
緑の龍は諦めない。騎兵を抱いて飛翔するピロロ目掛けて、緑炎を噴射し続けている。このままだと、撃ち落とされるのも時間の問題だ。
俺は、異次元ポケットからひみつ道具……じゃなくて、白蛇を引っ張りだし緑の龍に投げつけた。
「おわぁっ! 急に、何しやがるっ! 」
「ピロロがピンチだ。緑の蛇を退治してこい! 」
「緑の蛇? この俺様を差し置いて、あいつ、蛇を名乗ってやがるのか。このドン・スネーク様が試してやろう」
ちょろい、奴だ。
突如として、五角形の翼を持った深紅の大蛇が出現し、緑の龍に体当たりを食らわせた。きっと、周りの兵にはそう見えたはずだ。
緑の龍はバランスを崩し、その場に倒れた。その隙に、ピロロが騎兵を安全な場所へと運んでいく。
その後ろ姿を恨めしそうに眺めた後、何倍もに増幅した怒りをドン・スネークにぶつけるのであった。
「ギャオーーーーン! 」
恐竜の鳴き声のようなものが、暗闇を切り裂いた。
「姫様は私がお守りしますっ! 」
カモフラージュの青い軍服に身を包んだ、若い衛兵が俺とピロロの前にたって剣を構えた。
「いやっ、明らかに遠くから聞こえてるだろ」
俺の突っ込みを諸共せず、剣を構え左右を威嚇している。ピロロはというと全く気にせず、奴の横を通り抜けた。
それに気付くと、小走りで前に進み……
「姫様は……! 」
「もういいよっ」
俺の叫びは、虚しくことに誰にも届かなかった。
このやり取りは、実は二度目であった。ほんの数分前にも、同様の鳴き声と彼は闘っていたのだ。
ピロロと俺、そして、ソルフェリーノは(正確には蛇も)ブルーフィールズ城を目指していた。
ヴァイオレッタ姫の元へと向うにあたり、案内役に選ばれたのがソルフェリーノだった。
ヴァイオレッタの遠戚で、姫が嫁いだ後も定期的に遊びに行っているらしい。
実の所案内役とは、ただの名目で、マドムさんがピロロの護衛に付けたようだ。役に立つのか、いささか不安だが、いないよりはマシ? なのか?
「先日は失礼いたしました。このソルフェリーノ、命に変えてご両名をお守りいたします」
初対面(正確には違うようだが)の第一声が、行成の土下座だった。
俺はその勢いに呆気にとられた。ピロロはというと、見向きもしていない。
周りの目もあるので、立つようにお願いすると、頑なに固辞する。その面倒臭いやり取りを何度か繰り返した。
「わー、もー、分かったよ。なんでも許すから!それで、俺たちを死守しなよ! 」
俺の投げやりな恩赦で、やっと、まとも話せるようになった。
こいつが、何を隠そう、マスターのところで、俺を『卑しき獣』扱いした、張本人だったのだ。そのことを仰々しく詫びていたらしい。
この男は、どうも暑苦しく空回りするタイプのようだ。早くも熱中症になりそうだった。
ソルは丘の頂上につくと、構えていた剣を下げた。
「ブルーフィールズ城が見えますよ。あっ、緑色の龍が、遠くで暴れています」
俺とピロロも、奴の隣に並ぶ。そして、同時に翼を出現させ飛び立った。
「あっ、ちょっ、待ってくださいよ~」
ソルが飛び跳ねながら、走って追いかけてくる。
「チッ」
俺は内心舌打ちをし、奴の背中に翼を出現させる。
飛翔はピロロピロール種の能力だった。五角形を縦長に引き伸ばした二対の翼により飛行出来るのだ。
今や、俺は獲得した色素を自在に操れるようになっていた。
ソルはヴァイオレッタ姫と同じキナクリドン種である。奴の色素にピロロピロール種の能力を融合し、翼を出現させたのだ。
ここまでの道中も飛んで来たのだが、目立つことを警戒し、途中で徒歩に切り替えた。
俺は出立前に、研究室で博士立ち合いのもと、種の覚醒実験を行ってきた。それで無事、アントラキノン種も覚醒した。
飛翔能力にアントラキノン種の能力を複合させると、音速超えも可能だった。朱雀の影響が強く出ているようだ。
実は、シアニン帝国の最上位種であるフタロシアニン種も覚醒済みだ。まだ、内緒だが。
博士が言った通り、アレルギー反応が酷かった。これまでと違い、中々熱が下がらず嘔吐を繰り返した。2日程寝込んで、やっと、覚醒したのである。そのことも、ピロロには内緒にしていた。心配するだろうから。
ピロロを先頭に、俺とソルが左右を固め飛行する。要領が良いようで、最初こそバランスを崩して落ちそうになっていが、数分で自分の能力のように使いこなしていた。
緑の龍が鮮明に見えてきた。足元の兵士をなぎ倒し、口から緑炎を吐いてやき尽くしている。銅の炎色反応のようだ。
その周りでは、青い鎧に身を包んだ兵士同士が戦っていた。
内乱だから当然かと納得していると、一際青く輝く剣で緑の龍に背後から切り込む騎兵の姿がみえた。
「ガキーーーン! 」
鋭い音とともに、件の騎兵が弾かれる。龍の鱗は、想像以上に硬いようだ。
緑の龍は一瞥するとそちらへ向けて、緑炎を吐き出す。と、同時にピロロが飛び込んだ。
「うっ、うそだろ! 」
ピロロと騎兵を覆うように巨大な結界を出現させる。ピロロが騎兵を救って飛び立つのと、結界が破壊されたのがほぼ同時だった。
緑の龍は諦めない。騎兵を抱いて飛翔するピロロ目掛けて、緑炎を噴射し続けている。このままだと、撃ち落とされるのも時間の問題だ。
俺は、異次元ポケットからひみつ道具……じゃなくて、白蛇を引っ張りだし緑の龍に投げつけた。
「おわぁっ! 急に、何しやがるっ! 」
「ピロロがピンチだ。緑の蛇を退治してこい! 」
「緑の蛇? この俺様を差し置いて、あいつ、蛇を名乗ってやがるのか。このドン・スネーク様が試してやろう」
ちょろい、奴だ。
突如として、五角形の翼を持った深紅の大蛇が出現し、緑の龍に体当たりを食らわせた。きっと、周りの兵にはそう見えたはずだ。
緑の龍はバランスを崩し、その場に倒れた。その隙に、ピロロが騎兵を安全な場所へと運んでいく。
その後ろ姿を恨めしそうに眺めた後、何倍もに増幅した怒りをドン・スネークにぶつけるのであった。
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