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第二章 シアニン帝国~緑士ノ乱平定編~

内乱始動! (★シアニン帝国視点)

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「ジンク皇子ご決断を! 」

「土地は荒れ、民は飢え、もう、我々は我慢の限界です」

「皇子、今こそ戦いましょう! 」

    グリーンフィールズ城、大王の間。金髪を短く刈り上げた、色白の王子は顔の前で腕を組み、目を閉じて、貴族達の申し出に耳を傾けていた。

    シアニン帝国フサロ皇帝陛下は実の父である。身分の低い母から生まれたジンクのことを憂慮し、一城の主にしてくれた。そのことには、感謝さえしている。

    しかしながら、自身も民を統べる身。
    度重なる重税に加え、今年は天候不順で飢饉が頻発していた。城の穀物庫も、あと一・二ヶ月で底を尽きる。これ以上我慢し続ければ、沢山の民が命をおとす。

    ゆっくりと、目を見開いた。エメラルドグリーンの瞳に闘志が漲る。
「皆の者、よく聞け。私は闘うことを決めた。何人にも屈することは許さぬ。また、命を落とすことも許さぬ。その事を肝に銘じよ。万が一、屈することがあれば、全ての責めを私が負う。各人存分に戦え!   」

「「「はっ、仰せのままにっ!!  」」」
    ジンク皇子の檄に、兵士が一丸となって動き始めた。

    シアニン帝国では、西を皇帝直属の青士せいしが、東をジンク王子率いる緑士りょくしが統治していた。両士には明確なヒエラルキーが存在し、緑士は青士に絶対服従であった。

    これは、民も例外ではなく、税を二倍から五倍多く課せられていた。

    民も兵も文句を言わずに、ここまで耐えてこれたのは、一重にジンク皇子の人望によるものだった。
    皇子とは名ばかりで、収穫の時期には農民に混じって働き、一度飢饉が起これば城の穀物庫を開放して食を賄った。

    これまでに、何度となく蜂起の動きはあったのだが、その全てをジンク皇子が身を粉にして抑えてきたのである。

    度々、皇帝陛下に民の減税について奏上してきた。聞き入れられない場合は、有事もありうることもお伝えしていた。その返答期限が今日の日没だった。
    堪忍袋の緒が切れ、それで腹を括ったのだ。

    インディゴ卿がクーデターの話しを持ってきたのは、ちょうど、その時だった。なんでも、最近の皇帝の振る舞いは目に余るということで、カッパー皇子を擁立するらしい。そこで三者会談をしようとの持ちかけであった。ジンク皇子としては、青士と対等な関係を築けさえすればいい。そのためには、またと無いチャンスである。

    予定通り、緑龍を最前線に立たせ、暴れさせるように命令した。


◇◆◇


    ブルーフィールズ城、帝王の間。貴族達が緊急招集されていた。

    皇帝の右腕であるインディゴ卿が口を開いた。
「緑士が謀反を起こしたようだ。ジンク皇子の守護魔獣である緑龍が、暴れながらこちらに向かってきている。ジンク皇子は皇帝陛下の恩義を仇で返した。ただちに、青龍を中心に討伐隊を編成し鎮圧する。異議はおありか」

    場が静まりかえる。事実、緑龍を抑えられるものは青龍しかいない。

「敵兵およそ20万。青龍を先陣とし、ラズワルド卿に50万の兵を指揮していただき討伐する。残った兵100万で私が皇帝陛下をお守りする。いかがかな」
    また、静寂が広がった。

    その静寂を同意だと判断したインディゴ卿は皇帝陛下にご意向を伺う。

「良きにはからえ」

    その一言が、開戦の合図になった。インディゴ卿が、人知れずニヤリと笑った。

    この国では、いまや勢力は二分していた。
内政に長けたインディゴ卿と、武勲で成り上がったラズワルド卿である。

    今回の討伐に関しても、インディゴ卿が作戦をたて、それをラズワルド卿が実行するのは当然の運びだった。

    こうして、インディゴ卿は誰にも悟られず、邪魔者を排除することに成功したのである。

    ラズワルド卿は直ちに部隊編成へと取り掛かった。
    出陣が命じられた50万は自ら鍛えた先鋭であり、手足のように容易く扱えた。加えて、常に有事を想定し訓練させている。

     ものの数分で編成は整い、作戦が始動された。

    城の周りには、町人の生活圏が形成されている。そこを抜けるとグリーンフィールズ城まで広大な平原が広がっていた。かなり遠くに緑龍の姿が確認出来る。漆黒の中に、輝く緑が浮かびあがっていた。不思議と話に聞いていたように、暴れている雰囲気はない。

    対するこちら側にも、暗闇に浮かびあがる巨大な青が、陣の歩調に合わせて進んでいた。

    インディゴ卿の作戦では、青龍と緑龍を戦わせ、ラズワルド卿率いる青士が後方支援することになっていた。龍種同士の戦いに、後方支援など無意味であろう。
    しかし、そのことを口に出来ないほど、インディゴ卿の権力は絶大だったのだ。

    緑龍まであと1キロという所で、それは唐突に起こった。

「ギャオーーン!  」

    爆音と共に青龍の鳴き声が平原に響いた。

    一瞬、各隊がざわつくが、そこは訓練され抜いた組織である。各隊持ち場を守り、隊長クラスは即座にラズワルド卿の元へと集合した。

    先鋒の隊長が報告する。青龍が突如として地に伏せ苦しみ出し、黒い半球場の結界に囚われたらしい。

    ラズワルド卿も見に行くことにした。青龍が結界の中で藻掻き苦しんでいる。地面には円形の術式が施されており、青龍をもってしても動けないようだった。

    ラズワルド卿は剣を抜き、色素ピグメントを纏わせ渾身の一撃を放った。青く光った刃が結界に触れると同時に、体ごと弾き飛ばされる。受け身を取るのがやっとだった。
    帝国随一と謳われるラズワルド卿ですら、全く歯が立たなかった。

    隊長達がラズワルド卿の周りに集まり、判断を仰ぐ。

「我らはこのまま進軍し、予定通り緑龍討伐へ向う。同時に、皇帝陛下に現状報告と援軍要請を行う。援軍到着までに緑龍を疲弊させ、一気に叩くとしよう」
    そう言い終わるないうちに、再び大轟音が鳴り響いた。

「ギャオーーーーン!  」

    1キロ先にいたはずの緑龍が、ほんの数十メートル先で咆哮をあげたのだ。
    緑龍の方から出向いてくれたらしい。

「我ら、帝国が誇る最強の青士団である。臆することは無い。日頃の鍛錬の成果を見せつけてやれっ!  」

    不測の事態に一瞬たじろいだ青士団は、ラズワルド卿の激励により士気を取り戻し、緑龍へと猛進するのであった。
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