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第十二章 分水嶺
⑰・余興ー2
しおりを挟む終わりそうでなかなか終わらない二人の攻防を視界に留め。所かまわず拳で語り合う脳筋な思考を、バカヤロウと恨めしく思い。いい大人が何をしてる、他にやりようがあっただろうと半ば呆れと諦めの感情が入り混じる。
爺に理由を問いてもいい感じにはぐらかすので自分で考えた方がマシと、早々に会話を切り上げた。
そうして俺は原因を突き止めるため、記憶を探る。
見返りを求めたのが原因じゃない。単に剣先を突き付ける切っ掛けにすぎないと思う。
どうしてこうなった。
俺の洞察力じゃ頼りない自覚はある。でも、勘の良さには定評があるのだ。
情けないけど、勘頼みなんだよね。
でもその勘が、特に義兄に働くの。原動力は何か、本質を理解しなきゃと今ちょっとだけ焦ってる。
お祖父ちゃんは何を話したっけ? 義兄は何と答えたっけ?
会話の内容を反芻する。多分、義兄は誤解を招く言い方で誘導したはず。俺の知り得る話と比較してになるけど、矛盾を捜さなきゃいけない気がする。
ただの杞憂ですめばいいな。
漠然と感じる不安と焦りを宥め、記憶の整理を優先した。
もう、観戦の余裕もないわ。
義兄は、我が家の恥を雪ぐと大口叩いたのと、契約魔法を口にした。
…‥。
ああそうだ、契約魔法!
親父の血の盟約を解く手段があると仄めかし、ヴォルグフ達に隷属魔法の解術方法を教えたと伝え、潜り込んだスパイの炙り出しに契約魔法を使う許可が欲しいとお祖父ちゃんにお願いした。
あー、ミスリード?
義兄が隷属や得体の知れない契約魔法を解くことができると言ったのと同じだ。案の定お祖父ちゃんは誤解した。なまじ魔法術に造詣の深い義兄だからこその話。
契約魔法を解く=魔法術を施せる と捉えられてもおかしくない。
‥‥お祖父ちゃん、義兄が禁術に手を出したと勘違いしちゃった?
マッドなサイエンティストだけど禁術には手を出してなかったよ? 少なくとも俺はそう聞いた。うん、まだ分別のある人だと信じたい。
そういえば普通、契約魔法って解けないんだっけ? 解術の呪文を記載したヴォルグフ達の隷属魔法が特殊すぎって話なんだよね。
自分の行動を振り返って、気がついた。
もしかしなくても契約魔法を解ける人って、かなりヤバイ人?
え? 俺ヤバくない?
その事実に気がついて血の気が引いた。多分今の俺は顔面蒼白だろう。
ここにジェフリーがいれば『お嬢様~迂闊すぎ~』と蔑みの視線をグッサグッサ刺しにきただろう。
ああ、まずい。お祖父ちゃんの頭の中ではきっと『契約魔法、解いちゃった。禁術でも解けちゃうよ?』ドヤ顔で自慢(してない)話をする義兄を想像しちゃった?
お祖父ちゃんの中で既成事実出来上がった感じ?
義兄はレティエルのレアスキルを隠すために自らスケープゴートになろうとしてない?
思いついた予想にヒヤッと寒気した。まさかの気持ちが強いいけどその可能性はゼロじゃない。
ああ、母さんに能力を隠すよう注意されてたっけ。すっかりうっかり忘れてたわ。
義兄も、うっかり能力使った後、守秘契約をしっかり結ばせてたね…‥手が掛かってごめんなさい。
能力を隠す必要性を感じないから迂闊な行動とっちゃったわけ。
はぁ、義兄が隠そうとした理由を理解できた。今さらだよねー。
だからバレる前に自分が禁術さえも解けると誤解させたの?
ミスリードのお陰で、義兄はお祖父ちゃんに剣先突き付けられたのかな?
勿論、致命傷や怪我を負わせない程度にバチバチやり合って、義兄を屈服させる気なの? それもまぁ盾が良い仕事してるので思惑は外れたんだろう。
ザクワン爺ちゃんの言い分を信じるのも癪だけど、お祖父ちゃんの鬼のような覇気を浴びせ魔力で作った剣を振りかざせば、結構な脅威を感じるよね、普通の人は。
相手が悪かったか‥‥現に盾の性能チェックやってるし。
お祖父ちゃん、モニター扱いかよ。
義兄って基本腹に一物な人。お腹ん中に黒い悪いモノを飼ってる。
親父の教育の賜物?で、効率よく結果重視を優先するあまり手段を問わないし躊躇わない。
それに情報操作で攪乱させるのも好みらしい。そう、肝心な部分を伏せて情報を伝えるから誤解を招くの。ミスリードの手法をよく使うって。もうね、腹黒さを親父の下で自由に伸び伸び育てちゃった感じ?
俺達はこの邸に誘導されてやって来た。それはお祖父ちゃんの計画だったけど、レアな隷属魔法を直に見ることができたのは運が良かった。好都合だったのはお互いかも知れない。
親父の血の盟約も解きたい。それに誘拐組織に狙われてたレティエルも禁術の契約魔法をかけられる可能性が高い。隷属の契約は人身売買の被害者が多く掛けられる魔法術という。なら、ヤバい契約魔法を自己解術できるようになっておかなきゃと、背に腹は代えられない背景があった。
義兄が禁術に触れる機会を逃すことはない。まぁ趣味と実益を兼ねた感はぬぐえないけどね。
「おお!」
ツラツラと俺達の事情に想いを馳せていたら、爺の歓声が。慌てて意識を二人に戻した。
「あ! お義兄様!」
「ほーう、アレを防ぎましたか」
見れば盾に剣先を突き付けたお祖父ちゃんが顔色を悪くしてた。
「どうやら終わったようですな」
「え、そうなの?」
「はい。お館様の魔剣が小さく…‥はて? 変ですな?」
「どうかして? あら、本当ね。剣が小さ…‥あ、消したのね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥消えましたな」
俺達は魔剣が煙の如く消えたのを目視した。
見てるだけなのに結構気疲れしたな、と肩を解す。
あー、やっと終わった。
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