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第十二章 分水嶺
⑱・お祖父ちゃん、この人詐欺師です。
しおりを挟む一騒動が終わってやっと話しの続きができると喜んだのも束の間。
席に着く前からお祖父ちゃんの様子が変だった。
どうも義兄の魔道具が問題で顔を顰めて、でも、欲しがった。魔道具の設計図ごと買い取るとすごんだお祖父ちゃんに、きっぱり断りをいれた義兄。
ちょこっと一触即発な感じ。
「禁術の契約魔法を解くだけじゃのうて、こないな危ない魔道具もこさえておったのか。ラムや、何を思うて作った? この盾の魔道具は応用が利くよって悪意あるモンの手に渡れば戦争の戦い方が変わる。悪いことはいわん。これを陛下に献上しお主は手を引け」
有無を言わさない圧を放ち危険物と指摘したモノを献上しろとかなりな無茶ぶりに耳を疑った。
うえ?! お祖父ちゃん?! こんな頭ごなしにモノを言う人じゃなかったのに、一体どうしちゃたの?
それに盾のどこが危険物なの?
既に便利グッズと認定した俺には、便利グッズにしか見えない。危険視したのは何を指して? お祖父ちゃんとの感性の違いに、年寄りの心配症に、ウザくなった。
ウンザリな気持ちでお祖父ちゃんを見れば、口をへの字に曲げ眉間の皺が渓谷なみの深まってた。ちょっとシャレにならないほどの不機嫌さに、顔面が凶悪な武器だろとビビった。
「あの盾は、魔力を吸う魔道具じゃ。あないな危ないもん、野放しには出きん。そうじゃのう、アレは試作品にして儂に譲らんか。完成品を陛下に献上すれば良かろう」
ビビった感情が飛んでいくほど驚いた。魔力を吸う魔道具って、それって…‥疑惑が、義兄のパクリ疑惑が今ここに持ち上がった‥‥俺の心の中で。
えー、それってレティエルの能力、パクったんだよね?
窺うように、ううん、犯人確定の目を義兄に向ければ、バチっと様になるウィンクをされてもうた。
ううう、このイケメンめ!
こっちに顔を向けてお祖父ちゃん達に気取られないよう口パクで(口元は俺にしか見えなてない)『レティのおかげヒミツ』だと。
あー、さいですか。お祖父ちゃんには言わないのね。オッケー、ラジャー。
俺も盾の魔道具を危険物指定したお祖父ちゃんの感性に、嫌悪感がちょこっと湧いたからね、義兄に賛成。
‥‥あれ、でもお祖父ちゃん、レティエルの能力知らないの?
お祖父ちゃんは自分の欲求は叶うと信じて疑わない顔で義兄の返事を待っている。それよりも義兄の見返りはどうしたんだろう。話の続きするんじゃないの? イマイチお祖父ちゃんの考えがわからない。仕方ないので口を閉じて事の流れを見守ることにした。
にっこり作り笑顔の義兄は、嬉しそうに、本当に嬉しいのだとわかるほど明るい笑顔で、
「この盾とお義祖父様は相性が悪いですので差上げるのが憚れますね。これは魔力の無い者が魔力のある者からの攻撃を防ぐ‥‥帯刀していないと油断させ奇襲する敵から身を守るに適した盾です。ですのでお義祖父様ご自慢の魔剣と併せ持つには不都合が生じると思います」
うわっ、当て擦り?! あー、根に持ってるね、まぁ無理ないか。
美しい作り笑いに毒々しさを乗っけとる。よくまあ器用なことと妙に感心してしまった。
「そうですねえ…‥」
何かを思案するフリが上手い義兄は、一応の歩み寄りを見せる。
「お義祖父様、見返り…いえ、言葉の響きが良くありません。失礼しました。‥‥交換条件に致しませんか? 私がタッカーソンのご子息に施された契約魔法の情報をお渡しします。‥‥それと危険視されたこの魔道具ですがお義祖父様の懸念なさるような事態にはなりません。これは試作品でまだまだ改良の余地のある欠陥品です。一度魔力を吸収しますと…‥ご覧下さい。魔石に転化してしまいます。製作コストを考慮すれば実用化は‥‥現実的ではありません」
スッと手に握っていた魔石をお祖父ちゃんに差し出し「お義祖父様の魔剣の魔力が籠っています」と。
二人の爺から驚嘆の声にならない声が漏れ、魔石と義兄に視線を交互に向ける。獰猛な獣みたいなギラツキで射貫く。あんな視線に晒されたらチビリソウ‥‥怖っ!
うん、全然、歩み寄る気なかったね、義兄。しっかり断っただけじゃなくて違うネタをチラつかせて誤魔化す気? ヴォルグフ達の隷属魔法、既に粗方伝えたでしょ? 残りカスみたいな情報しかないよね?
えーと、もしかして重要なことを隠してます、欲しいなら条件飲めって。堂々とカスネタ掴ます気?
あと、盾は欠陥品とか言っちゃって。実際、対峙したお祖父ちゃんに通用しないと思うよ? もう実践レベルで使えると判断したと思う。だって、全然諦めてない目をしてるし。
あー、これ強請られるって。コスト度外視すれば作れるって言ってるもんだし。そんなもう作れないんですって悲壮な顔しても騙されないと思います。
目を見開いた爺二人、真っ青な顔色が俺には奇妙に感じた。
それほどの衝撃? 欲しいモノが目の前で壊れたっていってもそこまでショックをうけるものなのかとかなりな見当違いの感想を抱いた。
イマイチな表情から察したのか、ザクワン爺ちゃんが、
「お嬢様、他人の魔力を奪いそれを魔石に変えるとは。もし世間に広まれば争いが起るでしょうな。どこの国も魔力不足が深刻故。お手軽に魔力を満たした魔石が奪えるとなれば安易に流される愚か者は世に多くおりますぞ」
「え?」
なんのこっちゃ?
「‥‥レティ、魔力を吸収し得る魔道具は過去にも存在しないよ? 私が試作したのが初めてかな」
何を言われたのかわからない俺に義兄が翻訳してくれた。なるほど。
どうやらとんでもない代物をこさえちゃった義兄。もし他人の手に渡り悪用されちゃったらと危惧した爺たち。危険物と指摘するだけあって危機管理能力は高いね。
仮に規模の大きいモノを作れちゃえば、戦場で使用されちゃえば、魔力持ちが前線で戦う今の戦争の在り方が崩壊する。魔力を吸う魔道具があれば敵側の魔力持ちから奪えば済むのだ。
便利グッズが軍事利用とあまりにも飛躍した話に、気分が悪くなる。
‥‥だって、これ、元ネタはレティエルのレアスキルだよ!
自分が戦時利用される姿を想像して、身が震えた。
‥‥ああ、母さんや義兄が能力を隠せって言ってた意味がようやくわかった。
不用意に使ってそのたび契約魔法で秘密がバレないようにフォローしてた義兄に、謝りたい。自分のやらかしにやっちゃった感が迫ってくる。ごめなさい。
でも、お祖父ちゃんたちはレティエルの能力を知らないの? あれ、どうして? もうバレてると思ってから知らないのが不思議な気分で二人を見つめる。
そんな俺の心情を察した義兄は、更なる誤解を投げ込んだ。
「お義祖父様に隠し事はできませんね。白状しますが同じ性能を持つ魔道具をもう一つレティに護身用として持たせています」
「ほぇ?」
え? そんなん貰ってないけど?
何を言いだすのかと不安な顔で義兄を見れば、
「ほら、レティ、お義祖父様に見せなさい」
そういって俺の手に握らせたのは片手にすっぽり収まるミニコンパクト。
え? もしや、魔女っ娘アイテム?!
帝国のトップ魔道具技師である義兄が渡したモノだ。きっとさぞかし魔女っ娘アイテムだろ。俺の中でテンションと義兄の株が爆上がり。お目目キラキラが止まらない~
「これは魔力を向けられた時に吸収で防ぎます。他にも幾つか持たせてはいますが。さぁ、レティ、やって見せてくれるかな」
と言われても困るんですけどぉ。ジト目で睨んだところでやらされるのは経験上知ってる。仕方なしにお祖父ちゃん二つ折りのミニコンパクトをパカって開けて見せた。
呪文いる?
そのタイミングでザクワン爺ちゃんが出した雪の結晶魔力を、コンパクトが吸い取ったように見せ、こっそり俺が吸った。
どうやらレティエルの能力を誤魔化すために用意したみたい。ミニコンパクトを手にしてわかった、これ魔力を含まないただのアイテムだよ。テンションは下がり、義兄の株は大暴落。
どうせ魔力の視えない二人だからって目の前でインチキさせられた。トホホ。
まぁ演技力に定評のあるレティエルだからね、上手く演れるよ?
でもね、でもね、
お祖父ちゃん、この人詐欺師です。
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