上 下
17 / 71

八つ当たり君

しおりを挟む

 「なんで、なんでお前なんだ!」

 一人ぼっちと思っていた部屋に響き渡る男の子の大きな声に驚いた。振り向けばあの騒がしく八つ当たりをしてくる男の子が扉の前に突っ立っていたのだ。ちょっとビックリ。

 「‥‥…‥何か用?」 聞かなくても分かるんだけど一応ね。
 「お、お前が悪いんだ! お前さえいなければ俺が‥‥俺だったんだぞ! なんでお前なんだよ‥‥」

 相変わらず同じセリフに正直ウンザリだ。また絡まれたよ。八つ当たりばかりする男の子、ああ、八つ当たり君でいいか。彼の名前……はて? 聞いたようなないような。もういいや八つ当たり君で。
 
 彼は選考結果が気に入らない。うん、それは私も同意見だ。気が合うね。だからと言って決定権の無い私に食って掛かるのは間違い。オジサンズに言うべき話なのだよ、八つ当たり君。

 それに君の言う『俺が選ばれる』はちょっとどうかと思う。だって選ばれた子はもう一人いたんだよ? 彼女も『選ばれて悪い』人ではないの? そう思うものの私には見当が付いている。八つ当たり君は自分より口が達者な彼女‥‥ルイちゃん。孤児院の年長さんで小さい子達の面倒を見てくれる。お姉さん的な存在で私も偶に世話になる。そのルイちゃんに口喧嘩では負けるのだ。だから自分より弱っちそうな私に対しては強気な態度が出来るのだ。こんな子供のうちから小物臭漂わせて。お姉さんは悲しいよ。きっと疚しさがあるから誰もいない今を狙って来たんだろうね。それにしても幼児の私を狙うとは案外性格の悪い子だ、根性悪か。

 (さて、どうしたものか。私が慰めたとしても納得しないよね)

 多分だけど選ばれるのは自分だと思い込んでいたのだろう。それが外れたのは私の所為ではない。‥‥のだが八つ当たり君は納得できないで不満を私にぶつけてくるのだ。これは本当にいい迷惑ではなかろうか。私の方こそ『お前が悪い、お前の所為だ。お前がちゃんと選ばれなかったのが悪い』と声を荒げたい。

 ‥‥大人だからしないけど。これはお互い様なんだよ。




 「なんでお前なんだ‥…お前さえい・な・く・な・れ・ば・俺が‥‥‥」

 ゆっくりと歩み寄る姿も、声も、何だか様子がおかしい。
 薄暗い廊下から明るいこの部屋に入ってきたにも関わらず、彼の周囲は薄暗くて黒っぽい。男の子を薄い黒っぽいモノが覆っている。

 (うわぁ、この子、煤汚れてる! ヤダー、煤撒き散らさないでよ)

 八つ当たり君の歩みに合わせる様に煤がゆらゆら、ゆらゆら揺らめく。その揺らめき方はロウソクの炎を思わせる。揺れながら自己主張する様はまるで生き物だ。

 彼が一歩一歩と近付くにつれ煤は段々と黒い靄状と成り周囲に広がり行く。これだと私も薄汚れる。何という嫌がらせか、これは憤慨ものだ。

 (ちょっちょっと! 煤、舞ってるよ! 動かないでジッとしてて!)

 

 「俺‥…おまえいなく…なれ‥‥いな‥…ければ、おれぇがぁ」

 スローな動きだが両手を私に向かって差し出す様は、前世見たゾンビ映画だ。
 ‥…ゾンビっぽい。目を凝らして見ると彼は口から涎を垂らし目が虚ろ。まさにゾンビの動き。彼は一体何がしたいのだろうか。おふざけにしては笑えないな八つ当たり君は八つ当たりだけではなく嫌がらせまで始めたのだろうか。



 「グフゥ、ガハッア、ううぅ…まえ‥‥わるう、ゲフェ」

 (うぇぇ吐く? 吐くの? ここで吐いちゃダメだよーー)

 吐かれたらゾンビがエクソシストになる。それだけはマジ勘弁。
 食べ過ぎなのかと彼のお腹の具合を心配したのだが、どうも様子が変だ。嗚咽にうめき声、呂律も回らない彼の状態が異常なのだと気が付いた。
 

 そう、今、気が付いたのだ。

 (これは大人を呼ばないと駄目なやつだ。急いで人を呼ばなくちゃ)

 緊急事態だ、急がないと! と気は焦る一方なのに何故だか自分の身体が動かない。自分に異変を感じたのだが、どうやら遅かった。

 (えっ? う、動かない!? 嘘! なななんで?)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生悪役令嬢は双子執事を護りたい~フィギュア原型師は推しの為なら異世界生活も苦じゃありません!~

天咲 琴葉
ファンタジー
推しのフィギュアを公式に認めてもらうーーその一心で人生最高傑作を造り出した私。 しかし、企業との打ち合わせ前に寄ったカフェでフィギュアの原型を盗まれそうになり、犯人と揉み合った挙げ句刺されてしまう。 目が覚めると私は赤ちゃんになっていた。 母が私を呼ぶ名前はーー推しであるイケメン双子執事の主、悪役令嬢サシャ!? ならば私の目指すべき未来は1つ! 推し達の幸せは絶対に私が守る!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

幼女神の物見遊山観光記

小雨路 あんづ
ファンタジー
世界はいつだって気まぐれだ。 神様だって手を焼くくらい……。 この世界の創造主は「キメラ」と呼ばれ、神として崇拝されていた。 現在、その名を継いだ少女の名は…咲也子。 その日、咲也子はいつも通り自分の「才能」たちとお茶を楽しんでいた。 和やかな慣れ親しんだ時間……。 だがそんな空気も虚しく、突然「世界の気まぐれ」によって知らない場所へと飛ばされてしまう! 帰る方法はひとつだけ、「誰かが迎えに来るのを待つこと」。 それまで帰れない!? 神といえども(見た目的に)幼い非力な少女の運命や如何に! しかし当の神様は呑気なもので。 気まぐれな世界の事など知らん顔だ。 出不精な彼女としては久しぶりの外の世界。 せっかくだし楽しんでいこうじゃないか。 思いっきり観光と洒落込むことにしよう、と。 百年余りも引きこもりっぱなしだった神様が、世界を満喫し始める! そこで出会った<災厄>と不遇な名をつけられた心優しいモンスターとともに……。 先代の作った世界を生きる様々な人々に出会い、触れ合いながら。 迷宮に足を運んでみたり、 モンスターに挑んでみたり、 奴隷を買ってみたり、 自分の祀られている神殿に行ってみたり、 冒険者スクールに行ってみたり。 時々美味しいお菓子をつまみながら紅茶を飲んで、 のんびり気ままに小さな神様観光中!!!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...