59 / 72
雨、嵐、雷
雨、嵐、雷28
しおりを挟む
室内に入ると暖かな空気に包み込まれながらソファの前に立つおじいちゃんと二階へ上がる女性へ順番に視線をやった。
その間にドアの開く音と足音にだろう。おじいちゃんが俺らの方を振り返った。
「戻ったか。ん? 蒼空はどうした?」
「彼は現在、マヤさんのご友人の病院にいます」
「病院!? だ、大丈夫なんですか?」
俺は病院という単語にトリガーを引かれ、気が付けば片足を一歩前に出し詰め寄るような勢いで言葉を口にしていた。
「意識は戻っていないものの今のところ命に別状はないようです。ですが、油断は出来ない状況です。何せ夢鯨の中に居たわけですから未知の何かがあってもおかしくありませんので」
何を言えばいいのか分からなかった。きっと大丈夫だと思ってはいるがその根拠の無い気持ちだけでは不安は拭い切れない。それはおじいちゃんも同じなのかマルクさんの声が消えると少しの間、沈黙がそこには鎮座した。
「私達との合流場所に現れた蒼空さんは満身創痍といった状態ですぐに意識を失ってしまいました。なので中の状況等はまだわかりません。映像等も現在分析中です」
「――そうか。まだ安心は出来ないようだが、一先ずは命があることを喜ぶべきか」
「そうですね。今は経過を見守るしかないというのが少し歯痒くはありますが」
心の底から心配で少しでも早く良くなって欲しいという気持ちはあるが、俺は医者でもなければ夢鯨やそれに関する事に詳しい訳でもない。結局、何も出来ずただ時間の経過を待つしかない。
「誰かコップ一杯分の白湯持ってきてくれるかしら?」
俺が自分の無力さを感じていると、二階からさっきの女性の声が降ってきた。
遅れて三人の視線は同時に二階へ。女性の姿が見えなかったのは、部屋の入口からそれだけを言って中へ戻ったからなんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると視線を下したおじいちゃんが女性の要求に答える為、先に歩き出し始める。
「おじいちゃん。俺がやるよ」
そんなおじいちゃんを俺は止めた。気遣ったとか優しさとかそういう事より蒼空さんの事で何も出来ない自分の無力さを少しでも紛らわしたいというのが正直なところだ。
「そうか。ならキッチンにまだ温かいお湯があるはずだ。それとその近くに置いてある水を混ぜて作ってくれ」
「分かった」
俺はおじいちゃんが指した方へ歩き出しキッチンへと向かった。
そして言われた通りそこにあったお湯とペットボトルの水を混ぜ白湯を作りそれを二階の真人さんの眠る部屋へ。
開けっ放しのドアを通り中へ入るとベッドの向こうに白衣の女性は座っており、何か作業をしていた。
一方、真人さんは穏やかに眠ったままだ(あの黒いモノも伸びていない)。
「あの、これ」
声をかけてやっと女性は顔を上げた。
「ありがと」
その素っ気ない返事を聞きながら既に女性の隣まで足を進めていた俺は返事の後にコップを差し出した。
女性はコップを受け取ると傍の棚に置き何かの粉末を投入。瞬く間に水は黄色へと変色。
「これ磨ってくれる?」
普段見ることのないその光景を眺めていると女性はその一言と共に一緒に小さな擂鉢を差し出した。
一方そんな事を頼まれると思っていなかった俺は少し反応が遅れ、それを取り戻すように返事より先にその擂鉢を手に取った。それは掌サイズの小さな擂鉢。
そして擂鉢を渡した女性は俺に背を向け(スツールに座っていたから彼女は楽に体の向きを変えられた)棚の上で別の作業を始めた。
「分かりました」
遅刻した言葉の後、擂鉢に視線を落としてみるとそこには良く分からないモノが(見た目は漢方っぽい気もするが漢方の材料を見たことない俺はそれを判断する事は出来ない)いくつか入っていた。何か分からなかったがどうせ訊いても分からないだろうと思ったのでその質問はせず、黙って擂り粉木を手に取りまだ形のあるそれらを磨り始める。
たまにお店とかでゴマを自分で磨るなんて事があるけど、あれって面倒臭いと思いながらもやってるとどこか楽しいのは何故なんだろうか。擂鉢に視線を落とし手を動かしているとふとそんなよく分からない考えが頭に浮かんできた。
「もしかしてあなたが賽月さんの孫の……」
変な考えが頭を過る中、何の前触れもなく(背を向けたままの)女性がそんな事を尋ねてきた。でもどうやら名前は思い出せないようだ。
その間にドアの開く音と足音にだろう。おじいちゃんが俺らの方を振り返った。
「戻ったか。ん? 蒼空はどうした?」
「彼は現在、マヤさんのご友人の病院にいます」
「病院!? だ、大丈夫なんですか?」
俺は病院という単語にトリガーを引かれ、気が付けば片足を一歩前に出し詰め寄るような勢いで言葉を口にしていた。
「意識は戻っていないものの今のところ命に別状はないようです。ですが、油断は出来ない状況です。何せ夢鯨の中に居たわけですから未知の何かがあってもおかしくありませんので」
何を言えばいいのか分からなかった。きっと大丈夫だと思ってはいるがその根拠の無い気持ちだけでは不安は拭い切れない。それはおじいちゃんも同じなのかマルクさんの声が消えると少しの間、沈黙がそこには鎮座した。
「私達との合流場所に現れた蒼空さんは満身創痍といった状態ですぐに意識を失ってしまいました。なので中の状況等はまだわかりません。映像等も現在分析中です」
「――そうか。まだ安心は出来ないようだが、一先ずは命があることを喜ぶべきか」
「そうですね。今は経過を見守るしかないというのが少し歯痒くはありますが」
心の底から心配で少しでも早く良くなって欲しいという気持ちはあるが、俺は医者でもなければ夢鯨やそれに関する事に詳しい訳でもない。結局、何も出来ずただ時間の経過を待つしかない。
「誰かコップ一杯分の白湯持ってきてくれるかしら?」
俺が自分の無力さを感じていると、二階からさっきの女性の声が降ってきた。
遅れて三人の視線は同時に二階へ。女性の姿が見えなかったのは、部屋の入口からそれだけを言って中へ戻ったからなんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると視線を下したおじいちゃんが女性の要求に答える為、先に歩き出し始める。
「おじいちゃん。俺がやるよ」
そんなおじいちゃんを俺は止めた。気遣ったとか優しさとかそういう事より蒼空さんの事で何も出来ない自分の無力さを少しでも紛らわしたいというのが正直なところだ。
「そうか。ならキッチンにまだ温かいお湯があるはずだ。それとその近くに置いてある水を混ぜて作ってくれ」
「分かった」
俺はおじいちゃんが指した方へ歩き出しキッチンへと向かった。
そして言われた通りそこにあったお湯とペットボトルの水を混ぜ白湯を作りそれを二階の真人さんの眠る部屋へ。
開けっ放しのドアを通り中へ入るとベッドの向こうに白衣の女性は座っており、何か作業をしていた。
一方、真人さんは穏やかに眠ったままだ(あの黒いモノも伸びていない)。
「あの、これ」
声をかけてやっと女性は顔を上げた。
「ありがと」
その素っ気ない返事を聞きながら既に女性の隣まで足を進めていた俺は返事の後にコップを差し出した。
女性はコップを受け取ると傍の棚に置き何かの粉末を投入。瞬く間に水は黄色へと変色。
「これ磨ってくれる?」
普段見ることのないその光景を眺めていると女性はその一言と共に一緒に小さな擂鉢を差し出した。
一方そんな事を頼まれると思っていなかった俺は少し反応が遅れ、それを取り戻すように返事より先にその擂鉢を手に取った。それは掌サイズの小さな擂鉢。
そして擂鉢を渡した女性は俺に背を向け(スツールに座っていたから彼女は楽に体の向きを変えられた)棚の上で別の作業を始めた。
「分かりました」
遅刻した言葉の後、擂鉢に視線を落としてみるとそこには良く分からないモノが(見た目は漢方っぽい気もするが漢方の材料を見たことない俺はそれを判断する事は出来ない)いくつか入っていた。何か分からなかったがどうせ訊いても分からないだろうと思ったのでその質問はせず、黙って擂り粉木を手に取りまだ形のあるそれらを磨り始める。
たまにお店とかでゴマを自分で磨るなんて事があるけど、あれって面倒臭いと思いながらもやってるとどこか楽しいのは何故なんだろうか。擂鉢に視線を落とし手を動かしているとふとそんなよく分からない考えが頭に浮かんできた。
「もしかしてあなたが賽月さんの孫の……」
変な考えが頭を過る中、何の前触れもなく(背を向けたままの)女性がそんな事を尋ねてきた。でもどうやら名前は思い出せないようだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる