76 / 97
75
しおりを挟む
私はレオナルドを抱えたまま、必死に廊下を走った。
やっと扉に辿り着いた。息を切らせてノブに手を掛ける。
後ろを振り返ると、ザガリーが押さえていた男が追いかけてくる姿が見えた。ザガリーが突破されてしまったようだ。私は急いで外に飛び出した。
想像通り、この扉はホテルの裏庭に出た。
ステップを駆け下り、門扉まで走る。門扉を乱暴に開け、通りに出るが、ここは裏通り。人通りはほとんどない。
そんな人通りのない道に馬車が一台停まっていた。その馬車には粗末なマントで体を覆った男が御者席に座っており、私たちを見ると驚いたように目を見開いた。
私は咄嗟に馬車の向きとは反対方向に走り出した。
きっとこの馬車は私たちを拉致するために待機していたものだろう。案の定、御者は慌てて馬車の向きを変え始めた。私たちを追うつもりだ。
「くそー! 待てぇー!」
背後から声がする。黒ずくめの男もホテルから出てきたようだ。まったくゆとりのない私は、振り返ることもせずにひたすら走った。
大通りまで逃げ切れば、人がたくさんいるはず! 人集りに紛れて辻馬車を拾い、家まで逃げよう! いいや、そんな悠長なことを言っている場合か? 大声を上げて通りすがりの人に助けてもらおう!
「待てー! 女ー!」
怒鳴る声が段々大きくなる。どんどん男が近づいている証拠。
「逃がすかーっ!」
男の声がすぐ背後に聞こえる!
まずい! もう追い付かれてしまう!! 大通りはまだ先なのに!!
その思った時だ。腕の中のレオナルドが背後に向かって身を乗り出すと、飲み干した薬の空き瓶を男に向かって投げつけた。
ゴン!!
見事、男の眉間にヒット。男は額を押さえて蹲った。
その隙に私は近くの脇道に逃げ込んだ。
逃げ込んだ脇道で、私は壁に隠れるように背中から寄り掛り、息を整えた。
通りを覗くと、男はまだ頭を押さえ蹲っており、そこに仲間の馬車が追い付いた。御者が蹲った男に声を掛けている。
私は首を引っ込めて、脇道の奥を見た。そして、青くなった。
なぜなら、てっきり細い道だと思っていたのに、行き止まりだったのだ。
どうするか。
私は腕の中のレオナルドを見た。
「え・・・? 殿下?」
レオナルドは真っ青な顔をして苦しそうに息をしていた。額には冷や汗を搔いている。
「殿下! 大丈夫ですか?!」
「だ・・・だい・・じょうぶ・・・だ」
早速、薬の影響か? 返事をするのも辛そうだ。必死に歯を喰いしばっている。
どうしよう・・・。
私は周りを見渡した。
そこに大きなゴミ箱が私の目に入った。私は急いでそのゴミ箱の蓋を開けた。
「殿下。ここに隠れていてください。臭いけど我慢なさって」
私はゴミ溜めの中にレオナルドを入れた。
「お・・・い、な、なに・・・して・・・?」
「我慢なさって! きっと、もうすぐ元に戻れるはずですわ。元に戻る前に捕まるわけにはいきません。また、何かを飲まされてしまうかもしれないもの」
「ちょ・・・」
私は反論しかけているレオナルドを無視して、彼の上にゴミ箱の傍に置いてあった麻の布を被せ、ゴミ箱の蓋を閉めた。
そして、急いで羽織っていたケープを脱ぐと、横に転がっていたバケツを拾い、それをケープで覆った。
バケツを抱きしめ、立ち上がると、そっと通りを覗く。
男たちはキョロキョロと辺りを見回していた。
私は一度身を引き、壁に寄り掛ると、大きく深呼吸をして息を整えた。
いざ!!
私は通りに飛び出した。
☆彡
バケツを胸に抱えて私は大通りに向かって走り出した。
「いたぞ!」
男たちはすぐに私に気が付き追って来る。
私は大して足が速いわけでもない。既に近くにいる男たちから、大通りまで逃げ切れる可能性はほとんどない。
でも、僅かな可能性に賭けて必死に走った。
とにかく、アランが来るまで時間を稼げればいい。
ホテルであれだけ大立ち回りをしたのだ。あの騒ぎはきっと彼の目に留まるはず。
一早くそれに気が付き、裏庭に来てもらえれば!!
私が拉致されても、他の奴等が捕まれば!
レオナルドさえ無事に保護されれば!
そう願いながら必死に走る。
大通りが近づいてきた。一瞬、私の中に希望の光が灯る。
が―――、
次の瞬間、私は背後から伸びた手に肩を掴まれた。
やっと扉に辿り着いた。息を切らせてノブに手を掛ける。
後ろを振り返ると、ザガリーが押さえていた男が追いかけてくる姿が見えた。ザガリーが突破されてしまったようだ。私は急いで外に飛び出した。
想像通り、この扉はホテルの裏庭に出た。
ステップを駆け下り、門扉まで走る。門扉を乱暴に開け、通りに出るが、ここは裏通り。人通りはほとんどない。
そんな人通りのない道に馬車が一台停まっていた。その馬車には粗末なマントで体を覆った男が御者席に座っており、私たちを見ると驚いたように目を見開いた。
私は咄嗟に馬車の向きとは反対方向に走り出した。
きっとこの馬車は私たちを拉致するために待機していたものだろう。案の定、御者は慌てて馬車の向きを変え始めた。私たちを追うつもりだ。
「くそー! 待てぇー!」
背後から声がする。黒ずくめの男もホテルから出てきたようだ。まったくゆとりのない私は、振り返ることもせずにひたすら走った。
大通りまで逃げ切れば、人がたくさんいるはず! 人集りに紛れて辻馬車を拾い、家まで逃げよう! いいや、そんな悠長なことを言っている場合か? 大声を上げて通りすがりの人に助けてもらおう!
「待てー! 女ー!」
怒鳴る声が段々大きくなる。どんどん男が近づいている証拠。
「逃がすかーっ!」
男の声がすぐ背後に聞こえる!
まずい! もう追い付かれてしまう!! 大通りはまだ先なのに!!
その思った時だ。腕の中のレオナルドが背後に向かって身を乗り出すと、飲み干した薬の空き瓶を男に向かって投げつけた。
ゴン!!
見事、男の眉間にヒット。男は額を押さえて蹲った。
その隙に私は近くの脇道に逃げ込んだ。
逃げ込んだ脇道で、私は壁に隠れるように背中から寄り掛り、息を整えた。
通りを覗くと、男はまだ頭を押さえ蹲っており、そこに仲間の馬車が追い付いた。御者が蹲った男に声を掛けている。
私は首を引っ込めて、脇道の奥を見た。そして、青くなった。
なぜなら、てっきり細い道だと思っていたのに、行き止まりだったのだ。
どうするか。
私は腕の中のレオナルドを見た。
「え・・・? 殿下?」
レオナルドは真っ青な顔をして苦しそうに息をしていた。額には冷や汗を搔いている。
「殿下! 大丈夫ですか?!」
「だ・・・だい・・じょうぶ・・・だ」
早速、薬の影響か? 返事をするのも辛そうだ。必死に歯を喰いしばっている。
どうしよう・・・。
私は周りを見渡した。
そこに大きなゴミ箱が私の目に入った。私は急いでそのゴミ箱の蓋を開けた。
「殿下。ここに隠れていてください。臭いけど我慢なさって」
私はゴミ溜めの中にレオナルドを入れた。
「お・・・い、な、なに・・・して・・・?」
「我慢なさって! きっと、もうすぐ元に戻れるはずですわ。元に戻る前に捕まるわけにはいきません。また、何かを飲まされてしまうかもしれないもの」
「ちょ・・・」
私は反論しかけているレオナルドを無視して、彼の上にゴミ箱の傍に置いてあった麻の布を被せ、ゴミ箱の蓋を閉めた。
そして、急いで羽織っていたケープを脱ぐと、横に転がっていたバケツを拾い、それをケープで覆った。
バケツを抱きしめ、立ち上がると、そっと通りを覗く。
男たちはキョロキョロと辺りを見回していた。
私は一度身を引き、壁に寄り掛ると、大きく深呼吸をして息を整えた。
いざ!!
私は通りに飛び出した。
☆彡
バケツを胸に抱えて私は大通りに向かって走り出した。
「いたぞ!」
男たちはすぐに私に気が付き追って来る。
私は大して足が速いわけでもない。既に近くにいる男たちから、大通りまで逃げ切れる可能性はほとんどない。
でも、僅かな可能性に賭けて必死に走った。
とにかく、アランが来るまで時間を稼げればいい。
ホテルであれだけ大立ち回りをしたのだ。あの騒ぎはきっと彼の目に留まるはず。
一早くそれに気が付き、裏庭に来てもらえれば!!
私が拉致されても、他の奴等が捕まれば!
レオナルドさえ無事に保護されれば!
そう願いながら必死に走る。
大通りが近づいてきた。一瞬、私の中に希望の光が灯る。
が―――、
次の瞬間、私は背後から伸びた手に肩を掴まれた。
106
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる