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「それはよろしゅうございました」

安堵しているレオナルドを見て、私もホッと胸を撫で下ろした。

「ミレー家に世話になっていることも話したそうだ」

「そうですか。・・・って、え? 我が家って?」

私は頷きかけたが、慌てて聞き返した。

それは、まずくないか? そのまま、父に話が行ってしまったのでは・・・?
ああ! 陛下に事実を伝えれば、超側近である宰相の父に話が行くに決まっている! ましてや本人の家だなんて! 父と連携を取るに決まっているじゃないか!
私は青くなった。

「では・・・、父に殿下のことが知られてしまうわ・・・」

そうなったら、レオナルドは父にガッツリと恩を着せられる。私や父に跪いて婚約破棄撤回を強いられてしまう。陛下だって、愚息にとって屈辱的な行為だとしても、命の恩人に対しては目を瞑るはずだ。

そして、父は私に対しても容赦なく攻めてくるはず・・・。

二歳児の姿だったとは言え、家族でも親族でもない殿方と同じ部屋で数日間過ごしたことは事実なのだ。ましてや、風呂に入れ、同衾までしている。きっとそのことを突っついてくるはずだ。レオナルドには、その点も含めて、責任を取れと迫ることだろう。

こんなことなら、下手な小細工などせずに、最初から父に相談すればよかった・・・。私のバカ・・・。

「いいや、まだ、父上と兄上に留めているようだ。宰相にはまだ話さないと。世話になっていて心苦しいが、エリーゼが隠している以上、その意向に沿うようにと、父上からの指示のようだ」

青くなっている私に、レオナルドは手紙を片手に読みながら話した。

なんと!! グッジョブ! 陛下!!

「国王陛下万歳!!」
「?」

大きく両手を挙げた私を、レオナルドは一瞬不思議そうに首を傾げたが、また、すぐ手紙に目を落とした。

「今回はそれだけだ。手紙には人物を特定されないように書かれているが、念のため、読み終わったら燃やすようにとある」

そう言うと、その手紙を私に渡した。
私は受け取ると、サッと目を通した。確かに、これを読んだだけでは誰とは特定できないように書いてある。だが、ある程度の事情を知っているパトリシアやトミーの目に触れたら即バレするだろう。

「さっさと燃やしてしまいましょう」

私はマッチに火を付けると手紙を燃やし、暖炉の灰の中に捨てた。


☆彡


その日はもうアランから連絡が来ることはなかった。
翌日もお昼過ぎても、アランから音沙汰はない。

レオナルドは気が急いているのか、連絡がこないことに苛立っていた。
その気持ちは分からないわけでもない。しかし、苛立ちと言うものは伝染するのだ。

私は、最初のうちこそ、イライラと部屋中をウロウロしたり、彼に愛嬌をふりまくパトリシアに不貞腐れた態度を見せるレオナルドに我慢していた。見て見ぬふりをして、刺繍をしたり本を読んだりしていたが、徐々に限界に近付いてきた。

「殿下。ちょっと、よろしい?」

プリプリしながら歩いているレオナルドを後ろから捕まえて抱き上げた。

「な、何をする!?」

「ちょっと、気分転換をいたしましょう。部屋にいるだけでは気が滅入りますから。主にわたくしが」

私はそう言うと、部屋から出た。


☆彡


私が向かった先は庭園だ。
レオナルドの手を引いて、自慢の庭園を散歩した。美しい花々で飾られた小道を歩くと、伝染した苛立ちがどんどん消えていく。私は落ち着いてきたが、レオナルドを見ると、彼はまだムスッとした顔で歩いている。

二歳児の歩幅に合わせてゆっくりゆっくり歩く。秋の日差しは暑くもなく寒くもなく、とても気持ちがいい。

暫く歩くと、少し開けた場所に出た。

「ほら、殿下、ご覧になって。ここはわたくしのお気に入りの場所ですわ」

そこには可愛らしくも立派なブランコが一つ設置されていた。

「ブランコ・・・?」

「ええ。わたくし専用のブランコですのよ。素敵でしょう?」

私はレオナルドをヒョイッと抱き上げた。

「ムシャクシャしている時とか、イライラしている時は、ブランコに乗ると気分が良くなりますわよ。思いっきり漕ぐの。一回転してしまうかと思うくらいに」

私はレオナルドを膝に抱いたまま、ブランコに座った。

「さ、しっかり手すりを掴んでくださいませ。落ちないように。行きますわよ!!」
「え? お、おいっ、ちょっと・・・」

動揺するレオナルドの言葉を無視して、私は思いっきり地面を蹴った。

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