50 / 61
49
しおりを挟む
夕食を終えた後、暴れるレオナルドを無理やり風呂に入れた。
「いつまで不機嫌でいらっしゃるの? いい加減、慣れてくださいませ」
ベビーベッドの上で、ムスッとした顔のレオナルドにネグリジェを着せながら話しかけた。レオナルドはツンッと顔を背けた。
「もう! 仕方がないでしょう? こんなおチビさん一人で入浴なんてさせられません、危険ですから。お身体は見ないように気を付けているではないですか。我が家にいる間は我慢なさってくださいませ」
私はブチブチ小言を言いながら最後のボタンを留め終えると、お終いとばかりに彼の肩をポンと軽く叩いた。
「・・・違う・・・、それで怒ってるんじゃない・・・」
「え? 何ですか?」
レオナルドが何かをボソッと呟いたが、よく聞こえずに聞き返した。しかし、レオナルドは口をへの字したまま答えない。
私もこれ以上機嫌を取るのも面倒なので、無駄に聞き返すことはせずに、
「寝る前にホットミルクでもお飲みになりますか? よく眠れるように」
そう言って、その場から離れようとすると、
「お前、俺の言ったことを忘れたのか!? アイツはもう婚約が決まっているんだぞ!」
レオナルドは私の腕を掴むと、キッと睨みつけてきた。
「は?」
私は一瞬何のことか分からず、首を傾げた。
「だから! アランだ! アイツはもう婚約が決まっているんだ!」
「ええ、覚えておりますわよ? 遠縁のご令嬢の方でしたわよね? それがどうされましたの?」
「だ、だから! アイツとその・・・、恋に発展するなんてこと・・・。そ、そんなことは絶対ないからな! 無駄な期待するなよ!」
レオナルドは私からバッと手を離すと、腕を組み、フンッとそっぽを向いた
「あら? そんなこと分かりませんわよ。だって、アラン様の婚約はまだ正式に決まったわけではないのでしょう?」
「な!」
レオナルドは目を剥いた。驚いたような顔で私を見ている。
「わたくしがどなたと恋に落ちようと、もう殿下にはなーんにも関係ございません。とやかく言われる筋合いはないのです。そうでしょう?」
「ぐぬ・・・」
シレッと答える私をレオナルドは下唇を噛み締めて睨みつけた。
「婚約破棄されたわたくしが殿下の恋に口を挟む資格がないのと同様に、殿下もわたくしの恋路に口を挟む権利などないのです」
「く・・・」
ベビーベッドの手すりを握りしめ、悔しそうに私を睨み続けるレオナルド。何故にそんなに怒っているのか理解に苦しむ。捨てた元婚約者が自分の側近と恋に落ちることはそんなに不愉快なものなのか。まあ、分からないわけでもないが。
「でも、ご安心なさいませ、殿下。わたくしがこれから誰かを好きになるにしても、殿下とは縁もゆかりもない殿方を選びますから。お嫁に行くにしても然り。父にはそこのところよーくお願いしておきます。理解して下さるでしょ、きっと。王都からずっと離れた辺境の地の殿方でも紹介していただきますわ。いっそのこと、異国だって構いません」
私は肩を竦めてレオナルドを見た。彼は驚いたように目を丸くしている。顔色がどことなく青ざめているようだ。
「殿下??」
私の呼びかけに、レオナルドはハッとしたような顔をして、
「・・・もう、いい。寝る」
力なくそう言うと、ゴロンと横になった。
「ホットミルクはよろしいの?」
「いらん!! 寝る!!」
そう怒鳴ると、ガバッとシーツを頭から被った。
まったく・・・。何を拗ねているんだか・・・。
☆彡
翌日、レオナルドは朝からソワソワしていた。
恐らく、アランからの知らせを待っているのだろう。
「昨日の三時頃にお会いしたのですよ? 朝一に連絡が来るとは思えませんわよ?」
私は、ソワソワと忙しなく部屋をウロチョロ動き回っている二歳児に話しかけた。
「そんなことはない。一報くらいあるはずだ。父上と兄上の反応くらいは知らせてくれるだろう」
「あ、確かにそうですわね・・・。でも、もうちょっと、落ち着いてくださらないかしら。さっきから目うるさくってしょうがないのですけど・・・」
私の願いなど耳に入らないのか、相変わらず、部屋中をウロウロ歩き回っている。
そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、パトリシアが入ってきた。
「お嬢様。お手紙が届いております」
レオナルドはダダダッとパトリシアのもとに駆け寄った。
「手紙!!」
パトリシアに向かって必死に両手を伸ばすが、パトリシアはレオナルドににっこり微笑むだけ。傍に来た私に向かって手紙の乗ったトレーを差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう。パット」
私が手紙を受け取ると、レオナルドはくるりと向きを変え、今度は私に向かって必死に両手を伸ばす。
差出人を見ると一文字だけ書いてある。アランの頭文字だ。
「ご苦労様。下がっていいわ」
「はい。失礼します」
パトリシアを下がらせると、私はレオナルドにその手紙を渡した。
レオナルドはひったくる様に手紙を受け取ると、急いで封を開けた。むさぼるように手紙に見入る。
「なんて書いてありました?」
読み終わったのを見計らって、私はレオナルドに声を掛けた。
「父上と兄上には俺が無事だと伝えたと。お二人とも安堵されているようだ」
レオナルドはホゥ~っと肩の荷を下ろすように吐息を吐いた。
「いつまで不機嫌でいらっしゃるの? いい加減、慣れてくださいませ」
ベビーベッドの上で、ムスッとした顔のレオナルドにネグリジェを着せながら話しかけた。レオナルドはツンッと顔を背けた。
「もう! 仕方がないでしょう? こんなおチビさん一人で入浴なんてさせられません、危険ですから。お身体は見ないように気を付けているではないですか。我が家にいる間は我慢なさってくださいませ」
私はブチブチ小言を言いながら最後のボタンを留め終えると、お終いとばかりに彼の肩をポンと軽く叩いた。
「・・・違う・・・、それで怒ってるんじゃない・・・」
「え? 何ですか?」
レオナルドが何かをボソッと呟いたが、よく聞こえずに聞き返した。しかし、レオナルドは口をへの字したまま答えない。
私もこれ以上機嫌を取るのも面倒なので、無駄に聞き返すことはせずに、
「寝る前にホットミルクでもお飲みになりますか? よく眠れるように」
そう言って、その場から離れようとすると、
「お前、俺の言ったことを忘れたのか!? アイツはもう婚約が決まっているんだぞ!」
レオナルドは私の腕を掴むと、キッと睨みつけてきた。
「は?」
私は一瞬何のことか分からず、首を傾げた。
「だから! アランだ! アイツはもう婚約が決まっているんだ!」
「ええ、覚えておりますわよ? 遠縁のご令嬢の方でしたわよね? それがどうされましたの?」
「だ、だから! アイツとその・・・、恋に発展するなんてこと・・・。そ、そんなことは絶対ないからな! 無駄な期待するなよ!」
レオナルドは私からバッと手を離すと、腕を組み、フンッとそっぽを向いた
「あら? そんなこと分かりませんわよ。だって、アラン様の婚約はまだ正式に決まったわけではないのでしょう?」
「な!」
レオナルドは目を剥いた。驚いたような顔で私を見ている。
「わたくしがどなたと恋に落ちようと、もう殿下にはなーんにも関係ございません。とやかく言われる筋合いはないのです。そうでしょう?」
「ぐぬ・・・」
シレッと答える私をレオナルドは下唇を噛み締めて睨みつけた。
「婚約破棄されたわたくしが殿下の恋に口を挟む資格がないのと同様に、殿下もわたくしの恋路に口を挟む権利などないのです」
「く・・・」
ベビーベッドの手すりを握りしめ、悔しそうに私を睨み続けるレオナルド。何故にそんなに怒っているのか理解に苦しむ。捨てた元婚約者が自分の側近と恋に落ちることはそんなに不愉快なものなのか。まあ、分からないわけでもないが。
「でも、ご安心なさいませ、殿下。わたくしがこれから誰かを好きになるにしても、殿下とは縁もゆかりもない殿方を選びますから。お嫁に行くにしても然り。父にはそこのところよーくお願いしておきます。理解して下さるでしょ、きっと。王都からずっと離れた辺境の地の殿方でも紹介していただきますわ。いっそのこと、異国だって構いません」
私は肩を竦めてレオナルドを見た。彼は驚いたように目を丸くしている。顔色がどことなく青ざめているようだ。
「殿下??」
私の呼びかけに、レオナルドはハッとしたような顔をして、
「・・・もう、いい。寝る」
力なくそう言うと、ゴロンと横になった。
「ホットミルクはよろしいの?」
「いらん!! 寝る!!」
そう怒鳴ると、ガバッとシーツを頭から被った。
まったく・・・。何を拗ねているんだか・・・。
☆彡
翌日、レオナルドは朝からソワソワしていた。
恐らく、アランからの知らせを待っているのだろう。
「昨日の三時頃にお会いしたのですよ? 朝一に連絡が来るとは思えませんわよ?」
私は、ソワソワと忙しなく部屋をウロチョロ動き回っている二歳児に話しかけた。
「そんなことはない。一報くらいあるはずだ。父上と兄上の反応くらいは知らせてくれるだろう」
「あ、確かにそうですわね・・・。でも、もうちょっと、落ち着いてくださらないかしら。さっきから目うるさくってしょうがないのですけど・・・」
私の願いなど耳に入らないのか、相変わらず、部屋中をウロウロ歩き回っている。
そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、パトリシアが入ってきた。
「お嬢様。お手紙が届いております」
レオナルドはダダダッとパトリシアのもとに駆け寄った。
「手紙!!」
パトリシアに向かって必死に両手を伸ばすが、パトリシアはレオナルドににっこり微笑むだけ。傍に来た私に向かって手紙の乗ったトレーを差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう。パット」
私が手紙を受け取ると、レオナルドはくるりと向きを変え、今度は私に向かって必死に両手を伸ばす。
差出人を見ると一文字だけ書いてある。アランの頭文字だ。
「ご苦労様。下がっていいわ」
「はい。失礼します」
パトリシアを下がらせると、私はレオナルドにその手紙を渡した。
レオナルドはひったくる様に手紙を受け取ると、急いで封を開けた。むさぼるように手紙に見入る。
「なんて書いてありました?」
読み終わったのを見計らって、私はレオナルドに声を掛けた。
「父上と兄上には俺が無事だと伝えたと。お二人とも安堵されているようだ」
レオナルドはホゥ~っと肩の荷を下ろすように吐息を吐いた。
20
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。
古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。
「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」
彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。
(なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語)
そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。
(……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの)
悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる