50 / 90
49
しおりを挟む
夕食を終えた後、暴れるレオナルドを無理やり風呂に入れた。
「いつまで不機嫌でいらっしゃるの? いい加減、慣れてくださいませ」
ベビーベッドの上で、ムスッとした顔のレオナルドにネグリジェを着せながら話しかけた。レオナルドはツンッと顔を背けた。
「もう! 仕方がないでしょう? こんなおチビさん一人で入浴なんてさせられません、危険ですから。お身体は見ないように気を付けているではないですか。我が家にいる間は我慢なさってくださいませ」
私はブチブチ小言を言いながら最後のボタンを留め終えると、お終いとばかりに彼の肩をポンと軽く叩いた。
「・・・違う・・・、それで怒ってるんじゃない・・・」
「え? 何ですか?」
レオナルドが何かをボソッと呟いたが、よく聞こえずに聞き返した。しかし、レオナルドは口をへの字したまま答えない。
私もこれ以上機嫌を取るのも面倒なので、無駄に聞き返すことはせずに、
「寝る前にホットミルクでもお飲みになりますか? よく眠れるように」
そう言って、その場から離れようとすると、
「お前、俺の言ったことを忘れたのか!? アイツはもう婚約が決まっているんだぞ!」
レオナルドは私の腕を掴むと、キッと睨みつけてきた。
「は?」
私は一瞬何のことか分からず、首を傾げた。
「だから! アランだ! アイツはもう婚約が決まっているんだ!」
「ええ、覚えておりますわよ? 遠縁のご令嬢の方でしたわよね? それがどうされましたの?」
「だ、だから! アイツとその・・・、恋に発展するなんてこと・・・。そ、そんなことは絶対ないからな! 無駄な期待するなよ!」
レオナルドは私からバッと手を離すと、腕を組み、フンッとそっぽを向いた
「あら? そんなこと分かりませんわよ。だって、アラン様の婚約はまだ正式に決まったわけではないのでしょう?」
「な!」
レオナルドは目を剥いた。驚いたような顔で私を見ている。
「わたくしがどなたと恋に落ちようと、もう殿下にはなーんにも関係ございません。とやかく言われる筋合いはないのです。そうでしょう?」
「ぐぬ・・・」
シレッと答える私をレオナルドは下唇を噛み締めて睨みつけた。
「婚約破棄されたわたくしが殿下の恋に口を挟む資格がないのと同様に、殿下もわたくしの恋路に口を挟む権利などないのです」
「く・・・」
ベビーベッドの手すりを握りしめ、悔しそうに私を睨み続けるレオナルド。何故にそんなに怒っているのか理解に苦しむ。捨てた元婚約者が自分の側近と恋に落ちることはそんなに不愉快なものなのか。まあ、分からないわけでもないが。
「でも、ご安心なさいませ、殿下。わたくしがこれから誰かを好きになるにしても、殿下とは縁もゆかりもない殿方を選びますから。お嫁に行くにしても然り。父にはそこのところよーくお願いしておきます。理解して下さるでしょ、きっと。王都からずっと離れた辺境の地の殿方でも紹介していただきますわ。いっそのこと、異国だって構いません」
私は肩を竦めてレオナルドを見た。彼は驚いたように目を丸くしている。顔色がどことなく青ざめているようだ。
「殿下??」
私の呼びかけに、レオナルドはハッとしたような顔をして、
「・・・もう、いい。寝る」
力なくそう言うと、ゴロンと横になった。
「ホットミルクはよろしいの?」
「いらん!! 寝る!!」
そう怒鳴ると、ガバッとシーツを頭から被った。
まったく・・・。何を拗ねているんだか・・・。
☆彡
翌日、レオナルドは朝からソワソワしていた。
恐らく、アランからの知らせを待っているのだろう。
「昨日の三時頃にお会いしたのですよ? 朝一に連絡が来るとは思えませんわよ?」
私は、ソワソワと忙しなく部屋をウロチョロ動き回っている二歳児に話しかけた。
「そんなことはない。一報くらいあるはずだ。父上と兄上の反応くらいは知らせてくれるだろう」
「あ、確かにそうですわね・・・。でも、もうちょっと、落ち着いてくださらないかしら。さっきから目うるさくってしょうがないのですけど・・・」
私の願いなど耳に入らないのか、相変わらず、部屋中をウロウロ歩き回っている。
そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、パトリシアが入ってきた。
「お嬢様。お手紙が届いております」
レオナルドはダダダッとパトリシアのもとに駆け寄った。
「手紙!!」
パトリシアに向かって必死に両手を伸ばすが、パトリシアはレオナルドににっこり微笑むだけ。傍に来た私に向かって手紙の乗ったトレーを差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう。パット」
私が手紙を受け取ると、レオナルドはくるりと向きを変え、今度は私に向かって必死に両手を伸ばす。
差出人を見ると一文字だけ書いてある。アランの頭文字だ。
「ご苦労様。下がっていいわ」
「はい。失礼します」
パトリシアを下がらせると、私はレオナルドにその手紙を渡した。
レオナルドはひったくる様に手紙を受け取ると、急いで封を開けた。むさぼるように手紙に見入る。
「なんて書いてありました?」
読み終わったのを見計らって、私はレオナルドに声を掛けた。
「父上と兄上には俺が無事だと伝えたと。お二人とも安堵されているようだ」
レオナルドはホゥ~っと肩の荷を下ろすように吐息を吐いた。
「いつまで不機嫌でいらっしゃるの? いい加減、慣れてくださいませ」
ベビーベッドの上で、ムスッとした顔のレオナルドにネグリジェを着せながら話しかけた。レオナルドはツンッと顔を背けた。
「もう! 仕方がないでしょう? こんなおチビさん一人で入浴なんてさせられません、危険ですから。お身体は見ないように気を付けているではないですか。我が家にいる間は我慢なさってくださいませ」
私はブチブチ小言を言いながら最後のボタンを留め終えると、お終いとばかりに彼の肩をポンと軽く叩いた。
「・・・違う・・・、それで怒ってるんじゃない・・・」
「え? 何ですか?」
レオナルドが何かをボソッと呟いたが、よく聞こえずに聞き返した。しかし、レオナルドは口をへの字したまま答えない。
私もこれ以上機嫌を取るのも面倒なので、無駄に聞き返すことはせずに、
「寝る前にホットミルクでもお飲みになりますか? よく眠れるように」
そう言って、その場から離れようとすると、
「お前、俺の言ったことを忘れたのか!? アイツはもう婚約が決まっているんだぞ!」
レオナルドは私の腕を掴むと、キッと睨みつけてきた。
「は?」
私は一瞬何のことか分からず、首を傾げた。
「だから! アランだ! アイツはもう婚約が決まっているんだ!」
「ええ、覚えておりますわよ? 遠縁のご令嬢の方でしたわよね? それがどうされましたの?」
「だ、だから! アイツとその・・・、恋に発展するなんてこと・・・。そ、そんなことは絶対ないからな! 無駄な期待するなよ!」
レオナルドは私からバッと手を離すと、腕を組み、フンッとそっぽを向いた
「あら? そんなこと分かりませんわよ。だって、アラン様の婚約はまだ正式に決まったわけではないのでしょう?」
「な!」
レオナルドは目を剥いた。驚いたような顔で私を見ている。
「わたくしがどなたと恋に落ちようと、もう殿下にはなーんにも関係ございません。とやかく言われる筋合いはないのです。そうでしょう?」
「ぐぬ・・・」
シレッと答える私をレオナルドは下唇を噛み締めて睨みつけた。
「婚約破棄されたわたくしが殿下の恋に口を挟む資格がないのと同様に、殿下もわたくしの恋路に口を挟む権利などないのです」
「く・・・」
ベビーベッドの手すりを握りしめ、悔しそうに私を睨み続けるレオナルド。何故にそんなに怒っているのか理解に苦しむ。捨てた元婚約者が自分の側近と恋に落ちることはそんなに不愉快なものなのか。まあ、分からないわけでもないが。
「でも、ご安心なさいませ、殿下。わたくしがこれから誰かを好きになるにしても、殿下とは縁もゆかりもない殿方を選びますから。お嫁に行くにしても然り。父にはそこのところよーくお願いしておきます。理解して下さるでしょ、きっと。王都からずっと離れた辺境の地の殿方でも紹介していただきますわ。いっそのこと、異国だって構いません」
私は肩を竦めてレオナルドを見た。彼は驚いたように目を丸くしている。顔色がどことなく青ざめているようだ。
「殿下??」
私の呼びかけに、レオナルドはハッとしたような顔をして、
「・・・もう、いい。寝る」
力なくそう言うと、ゴロンと横になった。
「ホットミルクはよろしいの?」
「いらん!! 寝る!!」
そう怒鳴ると、ガバッとシーツを頭から被った。
まったく・・・。何を拗ねているんだか・・・。
☆彡
翌日、レオナルドは朝からソワソワしていた。
恐らく、アランからの知らせを待っているのだろう。
「昨日の三時頃にお会いしたのですよ? 朝一に連絡が来るとは思えませんわよ?」
私は、ソワソワと忙しなく部屋をウロチョロ動き回っている二歳児に話しかけた。
「そんなことはない。一報くらいあるはずだ。父上と兄上の反応くらいは知らせてくれるだろう」
「あ、確かにそうですわね・・・。でも、もうちょっと、落ち着いてくださらないかしら。さっきから目うるさくってしょうがないのですけど・・・」
私の願いなど耳に入らないのか、相変わらず、部屋中をウロウロ歩き回っている。
そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、パトリシアが入ってきた。
「お嬢様。お手紙が届いております」
レオナルドはダダダッとパトリシアのもとに駆け寄った。
「手紙!!」
パトリシアに向かって必死に両手を伸ばすが、パトリシアはレオナルドににっこり微笑むだけ。傍に来た私に向かって手紙の乗ったトレーを差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
「ありがとう。パット」
私が手紙を受け取ると、レオナルドはくるりと向きを変え、今度は私に向かって必死に両手を伸ばす。
差出人を見ると一文字だけ書いてある。アランの頭文字だ。
「ご苦労様。下がっていいわ」
「はい。失礼します」
パトリシアを下がらせると、私はレオナルドにその手紙を渡した。
レオナルドはひったくる様に手紙を受け取ると、急いで封を開けた。むさぼるように手紙に見入る。
「なんて書いてありました?」
読み終わったのを見計らって、私はレオナルドに声を掛けた。
「父上と兄上には俺が無事だと伝えたと。お二人とも安堵されているようだ」
レオナルドはホゥ~っと肩の荷を下ろすように吐息を吐いた。
20
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした
風見ゆうみ
恋愛
「俺とルピノは愛し合ってるんだ。君にわかる様に何度も見せつけていただろう? そろそろ、婚約破棄してくれないか? そして、ルピノの代わりに隣国の王太子の元に嫁いでくれ」
トニア公爵家の長女である私、ルリの婚約者であるセイン王太子殿下は私の妹のルピノを抱き寄せて言った。
セイン殿下はデートしようといって私を城に呼びつけては、昔から自分の仕事を私に押し付けてきていたけれど、そんな事を仰るなら、もう手伝ったりしない。
仕事を手伝う事をやめた私に、セイン殿下は私の事を生きている価値はないと罵り、婚約破棄を言い渡してきた。
唯一の味方である父が領地巡回中で不在の為、婚約破棄された事をきっかけに、私の兄や継母、継母の子供である妹のルピノからいじめを受けるようになる。
生きている価値のない人間の居場所はここだと、屋敷内にある独房にいれられた私の前に現れたのは、私の幼馴染みであり、妹の初恋の人だった…。
※8/15日に完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観ですのでご了承くださいませ。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる