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邂逅
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しおりを挟む「あれ?」
明らかな違和感。
これが茜やヤク子なら既に飛び掛かって抱き着かれるレベルの能力。
しかし、あいは変わらず佇み、こちらを睨む。
「な、なんなんですかっ……貴方はっ…」
「いや、その……」
「もういいですっ……!!」
振り向き、彼女は部屋を出ようとした。
その際、瞳に滲んだ涙が見えてしまい、思わず手を伸ばした。
「は、離してくださいっ……」
「ごめん、けど、このまま放っておけない」
「それは保護者としてですかっ!?なら、別に心配しなくても―――」
「違うよ、あいが心配だからだ」
なんとも矛盾を孕んだ言葉で口を開く。
本当に心配であったのなら、最初から彼女を一人にするべきではなかったのに。
それでも、身勝手でわがままでもあっても、素直な気持ちを伝えた。
「そんな言葉……嘘ですよ……」
「耳が痛いな、確かにそうかもしれない、
だけど、あいが泣いてるのは流石に見過ごせないよ」
「泣いてなんかッ……ないです…!!」
「あぁー……そうだな」
子供とは、何故だが泣いている事実を否定するものだ。
その理由はなんだったか、自分にも心当たりがあったはずだが思い出せず、あいの顔を優しく覗いて問い直す。
「で、何があった?勝手に外出てたのは謝るけど、それだけか?」
「……べつに」
「俺の事嫌いになったか?」
「なっ……!?最初から洋助の事なんて好きじゃありませんッ!!」
「やべぇ、泣きそう」
「あーっ!!もうッ!?面倒な大人ですねッ!?」
「うぅ……あいー……嫌いにならないでくれー…」
「なな、なんですか、もうッ!?酔ってるんですかッ!?」
わざとらしい媚びを振りまき、あいの様子を伺う。
しかし、能力による感情の変化は見受けられず、あいの体質が本物である事を知った、それだけ。
―――否。
だけ、と言うにはあまりに事態は重い。
抵抗不能なこの力に対し、きちんと自我を保って接してくれている事実は恐ろしく、本来ならば異常であり、詐欺師にとって無視できない事象である。
―――だからこそ、俺は彼女に希望を見出していた。
「あい、悪かったな……もう勝手にいなくならないよ」
「……洋助の好きなようにすればいいじゃないですか」
「そうだな、次からは好きなようにする、だからもう、
夜中に消えることもしないよ、約束する」
「本当ですか?」
「嘘は……つかないよ、多分」
「はぁ……本当に適当な人ですね、まぁ、いいですけど」
諦めて溜息をつき、あいは掴んでいた手を握り返した。
女の子らしい、消え入りそうな力。
だが、しっかりと優しい、温かくて小さな手。
それをなんだが、懐かしく、とても大切な感触だったと俺は感じてしまう。
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