65 / 79
大厄と成りし兵編
八話
しおりを挟む頭に響く怨嗟の声、それは地獄の底に引きずり込まれる感覚。
「―――ああぁぁッ!!………はぁ…はぁ…」
その酷い夢から覚め、洋助は叫んで起きる。
気付くとそこは、いつか垣間見た白い風景が広がる神社の敷地だった。
「――目覚めたか、洋助」
「―――はぁ…はぁ…君は…」
「心の臓を穿たれて以来じゃな、また随分無茶をしたなお前さんは」
狐耳をひょこひょこと上下させ、そのこじんまりとした体格と巫女装束を着た幼い巫女。
水底で見た女の子に間違いなく、洋助は驚きながら問う。
「君は一体…ここは…それに俺は、何故生きてる…」
「はっはっは!流石に戸惑うか、無理もない」
「―――これは…」
起き上がると自身の身体を見る、そこには朧に切り裂かれた跡がある。
だが、それを覆い張り付けるように、呪詛めいた梵字が蠢いて体を繋ぐ。
「それは応急処置…みたいなものじゃ、大厄の力を利用してお前さんを現世に留まらせておる、無論、死に至るものでもあるが」
「――俺は、死んだのか」
「……そうじゃ、お前さんは死に、その中身を晒して死んだ」
「なら、なぜ…」
「余がお前さんを蘇らせた、朧ちゃんを止めて欲しくての…」
朧の名にちゃんを付ける人間など、この日ノ本においては誰もいない。
それ故に、彼女が朧と面識がある事を伺わせ、その起源を知っている事を匂わせる。
「お前さんには朧ちゃんを斬って貰いたい」
「それは……」
「彼女は、……充分に苦しんだ、永劫の任に繋がれ、その責任を果たすべく長い年月を掛けて使命を全うした」
狐耳は元気なく垂れ下がり、その顔も暗くなる。
「確かに…今の朧ちゃんのやり方は間違っておるかもしれん、少数の人間を犠牲に大勢を救う、それは一つのやり方かもしれんが別の道も確かにある、それをお前さんにはやって貰いたい」
「だが…俺は…」
その提案に乗ろうにも実力は足りず、また敗れる姿が思い起こされる。
「心配は要らぬ、そのための応急処置じゃ」
「なに…?」
「言ったであろう?それは大厄の力を使った呪い、故にお前さんの力にも大厄のそれが宿る、であれば、朧を切り伏せられよう」
上半身に蠢くそれを触ると、確かに大厄に似た蒼い躍動を感じる。
――つまりそれは、自分自身が大厄となった事を意味する。
「――もう、俺には戦う意味が無い…」
皆を守れず、大切な人すら守れなかった洋助に戦う意味は無い。
絶望した彼は、このまま生涯を終えようと諦めていた。
「そうか…ならば、こちらに来い」
「……なんだ」
黙って歩く狐は、神社の境内に入る。
洋助は不思議に思いながらも後に続く。
「―――っこれは…!?」
そこには、死に装束を纏って綺麗に着飾られた雪がいた。
「それは抜け殻じゃ、魂のみがあちら側へ迷い出て、身体が残った巴の残滓」
「生きているのかッ!?雪はッ!?」
「こやつは今、神力があちら側へ引っ張られてそれに魂が付いて来ている状態じゃ、故に死んでいるとも言えるが、誰かがそれを引っ張り上げれば魂は戻ろう」
「それならっ…俺がそれを…」
雪を生き返らす事が出来る、その希望を聞き奮起する洋助。
だが、その希望を打つ砕く言葉を狐は発する。
「無駄じゃ、あちら側へ行くには相応の力と方法が必要、お前さんが行ったとて無駄死にするのが関の山じゃ」
「それなら…どうすればッ…」
「じゃから…余が行く」
そこで洋助は全てを察する。
つまり、この狐は自身に朧を斬らせ、その代わりに雪を助けると言う。
「――俺の身体は、後どのぐらい持つ?」
「ここでは永遠とも言える時間があるだろう、しかし、現世に戻れば残された時間は僅か、行くなら早く仕留めよ」
傷が疼く、その呪詛が身体を這いずり回って侵攻していく。
同時に、元の身体の機能は失われて大厄の蒼き炎と化していく。
「必ず、雪を救ってくれ、それだけが俺の願いだ」
「承知した、この狐、約束を違えた事は無い」
横たわる冷たい雪を、軽く触れて戦いの意味を見出す。
そこには、雪を殺され怒りに支配された洋助はおらず、静かに佇む婚約者だけがいた。
――そして、雪の側にある刀、日緋色金を洋助は預かる。
「行くのか」
「あぁ…迷ってはいられない、必ず朧を斬る」
「…そうか、頼んだぞ洋助」
境内を出て、その暗闇に繋がる鳥居をくぐろうとした時、狐は言う。
「洋助、妹さんから伝言を預かっておる」
「――え?」
それは、予想だにしなかった言葉。
狐は神に仕える大厄側の巫女、故に神力の管理をしていた際、その異様な向こう側との繋がりを知っていた。
「お前さんなら、誰かのためになれる…その言葉を叶えてくれてありがとう、とな…」
「伊織が……そんな、事を…」
「お前さんと妹さんの繋がり、それは前代未聞である、…向こう側から無尽蔵に流れる神力は余の手から離れ、妹さんが直接お前さんに流しておる」
――洋助の神力の正体、それは妹である伊織から直接流されている神力。
故に通常の巫女と違い、その神力の残量は無限であり年齢と共に尽きる事も無い。
そして直接向こう側と繋がっているからこそ、体内の時間の流れが狂い傷の治癒速度、もとい体内時間が異常に早くなる、それが彼の力であった。
「そうか、伊織は…俺の中でちゃんと生きていたんだな…」
「その力、大切に使うんじゃぞ…先の戦の様に負の感情に流されてはいかん」
「はい……肝に命じます」
胸に手を当て、その言葉を忘れない様に刻む。
ゆっくりと、暗黒に足を踏み入れる洋助は静かに消えてゆく。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。
リラ
恋愛
婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?
お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。
ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。
そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。
その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!
後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?
果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!?
【物語補足情報】
世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。
由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。
コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる