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大厄と成りし兵編

七話

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 「殺すッ!!殺すッ殺すッ…!!朧ッお前だけはッ!!!」

 怒る狂う洋助、それを軽く流す朧。
 両者の感情は酷く乖離し、交わらない。

 「醜い…実に醜いぞ洋助…女一人殺されただけでその取り乱し様…お主は脆い、そして弱い、故に儂には勝てん」
 「黙れッ!!……朧、お前は俺が斬るッ!!」

 黒鉄に染まる量産型の刀。
 それを抜き、最強の二人は相対する。

 「―――来い、洋助」

 剣術の源流となる構え、それを披露し握るは桜花紫電。

 ――そして、雷撃が刀身から漏れると、朧は雷の光だけを残して消える。

 「だぁッ!!」

 何度目かになるその疾さ、その正体は雷の力を使った転移術。
 
 桜花紫電は朧にのみ扱える刀であり、封じられた大厄の力を行使できる宝刀。
 故にその稲妻は大厄の力であり、そして一瞬にして消える転移術も技の一つ。

 「面白い」
 「―――っぐ…」

 地に走る雷が、背後に回って朧が出現する。
 しかし、それを予想し見えるよりも早く刀を振りかざす洋助。

 「往くぞ」

 だが、その斬撃は届かずに空を切る。
 
 ――ここから怒涛の攻めが洋助を襲う。


 一つ、首を斬る横薙ぎ。
 二つ、袈裟から叩き切る振り払い。
 三つ、肩を狙った突き。
 四つ、足を切り落とす勢いの下段。


 今までの経験と技術、そして直感と運でそれらを凌ぐ。
 一撃目を躱し、残りの剣戟を弾いて持ちこたえた。

 ――だが。

 「だが、終わりじゃ」
 「―――は」

 瞬間、洋助は膝から崩れ落ちて神力が霧散する。
 そして身体に雷が走り、全身の筋肉が萎縮して動けなくなる。

 「……儂の紫電は神力を削る、…故に大厄を切り伏せる業物であり、巫女殺しの刀でもある」

 勝負は、剣を打ち合った瞬間に終わっていた。
 纏った神力は剣戟の合間に削がれ、残る体力も少なく体は満足に動かない。
 
 ――それでも、彼は立ち上がる。

 「――っぐ…まだぁ…」
 「せめてもの慈悲だ、介錯してやる」

 振り上げる紫電、それをなんとか避けようと身をよじる。

 しかし、その刀身は容赦なく刀をへし折りながら洋助の上半身を切り裂く。

 「―――がッ!?」

 臓物が散り、ねっとりとした血が溢れ出しては体の熱が冷めていく。

 「なんと、呆気ない…」

 朧はつまらない顔をして、雪のまだ温かい身体に向かう。
 僅かに見える視界の端で、それを止めようと手を伸ばす洋助は、今確かに――


 ――絶命した。


 打ち付けた大厄を雑に拾い上げる朧は、それを雪の元へ運ぶ。
 そして、雪の魂を喰らわそうとそれを近づけた時、朧の動きが止まる。

 「―――怨嗟の鎖ッ!?」

 地を這う錆びた鉄の音、そして軋む鋼鉄の振動。
 身体中に巻き付く朽ちた鎖、それは突如現れた鳥居から繋がれており、朧の力を持ってしても鎖は千切れない。

 「久方ぶりじゃな…朧ちゃん」
 「生きておったか…狐」

 幾重もの鎖が繋がる鳥居を背後に、狐耳を生やした小さな巫女がそこにはいた。
 その姿に朧は驚き、思わず目を見開く。

 「――三百年…振りか?」
 「いやいや、三百と二十四年じゃよ、余も其方も年を取ったの」
 「神の贄となったと思っておったが、……存外しぶといな狐」

 ギリギリと、鎖の拘束音が響く中、その異様な二人は睨み合う。

 「――して、この真似はなんだ?何故儂の邪魔する?」
 「なに、久方ぶりに見る活きの良いつわものを見て、勿体ないと思ったのじゃ、…こやつらをここで死なす訳にはいかん」
 「神に仕える巫女が、人間に肩入れするのはどうしたものか、何が目的じゃ」

 雷撃が漂う、感情を御せる朧であってもこの状況は受け入れがたい。
 その心中を察し、狐と呼ばれるその巫女は早々に退く。

 「今日はここまでじゃ、巴と洋助は余が預かる」
 「狐ッ!お主は人に仇名すのかッ!?我が覇道がなぜわからんッ!?」
 「余はな…朧ちゃん…其方を救いたいのじゃよ…」

 鳥居から開かれる異界の門は徐々に閉じる、その空間に繋がれた鎖は倒れ伏した二人を巻き取り、異界へ引き込む。

 「また会おう、朧ちゃん」
 「狐…許さぬぞ…」

 門は閉じ、鳥居は神力が如く散る。

 残された朧は、桜花紫電を地面に突き刺し、天を仰いだ――。
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