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遊撃部隊入隊編

四話 

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 ――二日後、水島務に会うべく洋助は対策本部内を歩く。
 
 特殊遊撃部隊は基本的には暇であり、緊急の事態が無い限りは待機命令が下されている。
 そのため洋助は自主的な鍛錬を行いつつ、非番の日に志願して別部隊の増援等に合流し経験を積んでいたが、今日に限り時間を取った。

 「機動部隊の水島さんが待機しているのはここか…」

 洋助は一呼吸し、来賓室のドアを叩き静かに開ける。

 「すみません、水島務さんはいらっしゃいますか?」
 「…ん?俺に何か用か?」

 振り向き、反応したのは背の高い大柄な男性。
 鉄の様な筋肉、垣間見える歴戦の傷、一目で彼が猛者と分かる。

 「自分は戦巫女に所属する特殊遊撃部隊の赤原洋助と言います、少しお話をしたくて伺わせて頂きました」
 「ほぉ…、噂には聞いていたが…、そうか、君が赤原か、思ったよりもか細いな」

 机の書類をまとめながら座るように促されると、洋助は黙って座る。

 「俺は水島、特殊機動部隊の隊長を務めている、それで?何の用かな?」
 「はい、水島さんが格闘術に長けていると聞き、その技術を教えて頂きたくて…」
 「格闘術?君には神力があるじゃないか、何故こんなものを?」
 「神力が使えると言っても、例外的な力ですし…、それに大厄に対して物理的な干渉は有効です」

 難しい顔をしながら顎に手を置く。
 すると、重い口調で水島は質問する。

 「確かに、大厄には格闘術及び銃火器等が効くには効く、が、一番有効となるのは神力だ、俺に格闘術を学ぶより神力を伸ばした方が良いように見えるが?」
 「…俺の力が明日も使える保証はありません、そうなった時水島さんの様に大厄と戦える力を備えていたいのです」
 「それは…、君の過去が要因か?家族を失い、復讐心から来るものかな?」
 「…そう、考えていた時もありました、ですが今は皆を守りたい、その想いで強さを求めています」
 「なるほど…」

 短く頷くと、スーツの上着を椅子に掛ける。

 「いいだろう、君の真意はわかった、訓練場に来なさい」
 「―――ッはいッ!」

 水島はスーツ姿のまま移動し、訓練場で軽く体をほぐす。

 「君も知っている通り苦難とされる大厄は人型であり、その構造も人に近い、故に関節等の急所も有効となる」
 「ですが、鎧の様な武具を纏っているので神力無しで挑むのは危険では?」
 「鎧は見た目よりも脆く、的確に場所を選べば砕くことも可能だ」
 「そんな、事まで…」

 説明を受けながらグローブを渡され、それを装着する。
 致命傷にならないよう最低限の保護をしたグローブではあるが、まともに拳を受ければ危険であるのは変わらない。

 「軽い技や体の動かし方は教えよう、が、その前に赤原君の素質を見せてもらう」
 「素質、ですか?」

 返答し向き直る、と。

 ――瞬間、190cm程もある身体が羽の様に浮くと、風を切るような右ストレートが洋助に向けられる。

 「ッ!?」

 神力を纏わない素の状態でなんとか反応し、顎を狙われた拳は空を切る。

 「流石に実戦を経験しているだけはある、反応したか」
 「ぐッ!?」

 急な戦闘体勢に動揺しつつも、洋助は体幹を崩さずに反撃に打って出る。
 170cm後半程の身長である洋助は体格差で負けている、よって打撃を打つ箇所は限られる。

 「だぁッ!」
 「――ふッ!」

 左フックから反撃を狙う洋助、対して隙の少ないジャブで対応する水島はそれを右頬に直撃させる。
 
 「かふッ…」

 一瞬動きが止まる洋助に、追撃の足払いを決める。

 「ッぐわッ!?」
 「視野が狭いな」
 「――これならッ!」

 足元を狙われ体勢が崩れたかに見えたが、日々の鍛錬が功を奏した。
 鍛えられた体幹と筋力が半ば無理矢理体勢を整え、胴を狙った蹴りが放たれる。

 「悪くない、が――」

 完全に見切られ放った足を掴まれる。
 身動きが取れず動きが固まると、そのまま持ち上げられ床に叩きつけられる。

 「がはッ…!」

 決定的な一撃を決められ、勝負は決する。

 「すまない、少し加減が出来なかった」
 「…いえ、大丈夫です」
 「立てるか?」
 「あ、ありがとうございます」

 手を借り立ち上がると、水島は感心したように話す。

 「驚いたよ、戦い始めてまだ日も浅いのに良い動きをする、それに勘も良い」
 「そう…ですかね、自分では実感があまり無いです」
 「初撃の奇襲に反応し、神力も使わずあれだけ動ければ上出来だ、実際神力を使われたら私は負けるだろう」
 「それでも…、まだまだ足りません、もっと強くならないと…」

 洋助は大厄対策本部に身を置くようになり、自身の力不足を痛感する機会が多くなった、その度に戒めの様に力を求め、修行に打ち込む。

 「焦りは自身を鈍らせる、ゆっくり考える事も大事だ」
 「―――……」
 「私も、いや、俺も焦る気持ちは同じだったから理解できる」
 「…え?」

 投げかけられた言葉は意外で、強く、逞しい彼が少しだけ小さな声で話を続ける。

 「妻と、娘を…、大厄で失った、俺は大厄に対しての復讐心だけで戦い、それが今までの実績に繋がったのは事実だ、…が、それだけでは今の強さは生まれなかったのも事実」
 「そんな…事が…」
 「家族を失い、特別な力を持った君の話は俺にも届き、一時期は機動部隊での保護も打診されていた、だが君は巫女としての力を正しく使い、戦いの意味をしっかり理解している、これは凄い事だ、赤原君」
 「……それは、指導者の方に恵まれたからです、彼女には…、茜さんには感謝しかありません」

 茜の名前を出すと、当時の鍛錬風景を思い出し思わず苦笑いで返答をする。
 だが感謝の気持ちは事実であり、今の洋助を確立させた恩師でもある、自然と気持ちは前向きになる。

 「そうか、茜君が…、それはよかった」
 「お知り合いなんですか?」
 「まぁ、少しな」

 予想できない組み合わせに関係性が気になったが、あまり詮索はしない方がよいだろう。

 「――っと、赤原君、今後は本部に戻る際は連絡を入れよう、許される時間内であれば君の鍛錬に付き合うよ」
 「…ぁ、ありがとうございます!」

 少しずつ、だが着実に人脈を増やし、その度に人として剣士として強くなる洋助。

 理想論じみた大望が現実味を帯びていき、洋助の瞳には明るい未来が宿るのであった。
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