ブレイクソード

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九十一話 冒険の始まりは気分が悪い

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「面白い話も聞けたし、この町から出るか」食事も終わり、休んでいるとベータが席を立って準備を始めた。



魔法空間から旅に必要になりそうなポーションや、松明。軽装だが要所はガードできるライトアーマーを着始めていた。



アミスもそれにつられるように、魔法空間からポーションをだして腰につけていたポーチに入れ始めた。



「買い物してから出よう。二人はここで待っててくれ」何も用意してなかった俺はギルドの中にある店に向かった。その前に勘定を済ませておかないとな。



「こんなに食べたのか,,,これからは節約しないとな」出された金額をみて俺は口を開けてしまうほどだった。高価なものは食べてはいないはずなんだが,,,質より量で攻めるなんて中々に策士じゃないか。



寂しくなった財布をポケットの中に戻して、足りないものを確認する。ポーションも無いし、砥石も無い。後は食料,,,現地調達でいいか。水は俺が魔法を使えるから必要ないな。



欲しいものをかごの中に入れて会計に向かう。ポーション系は質は約束されているが本当に高い。王国の金を崩すか,,,?いや、後でどやされたら面倒だからやめておこう。



「ありがとうございました」会計を済ました俺は魔法空間に買ったものを入れていく。俺は魔法空間からものを一瞬でものを出せるからポーチとかに入れなくていい。



魔法封じされたら終わりだから保険で何個かは入っているが、そこら辺の冒険者とは荷物の量が違うだろう。



「二人を待たせるのもよくないし、早く戻るか」階段を下りていると下から、誰かが大声で文句を言っているのが聞こえた。聞き覚えがあるような,,,見れば分かるか。



「蒼い髪の奴を見なかったかつってんだよ!!アイツのせいで俺の仲間が死にかけたんだよ!!」



「そう言われましてもプライバシーを守らないといけないので,,,」職員が男を言葉で抑えようとしているが意味をなしていない。



ていうか、あいつやっぱり見たことがあるような,,,あ、思い出した。俺のことを殺そうとしてきた野蛮な人間だ。あいつら生きてたんだな。



「お前らはそれしか言えねぇのかよ!!」男が剣を抜いた。これ以上エスカレートしたらまずいな。というか俺が原因みたいなところがあるからさっさと出てって終わらせた方がいいか。



「俺の話か?」剣を抜いた男の前に出る。見た目も前見た以上にボロボロだな。リーダーがここまで取り乱してたらパーティーの統率もままならないだろう。



「蒼髪ィ!!お前の出した盾で俺の仲間が死にかけたんだァ!責任取れやァァ!!」



「おかしいな。あの盾はもう耐久力が無かったはずだが?」振り下ろされた剣を素手で受け止める。身体強化しているとはいえ痛いな。蒼でも使うか。



「それに、先に手を出したのはお前らだろ。依頼を失敗しそうになったのを俺に助けてもらって、それがばれないように俺を殺そうとしてきたのは」蒼を使って男を剣を通して地面に叩き伏せる。



「が,,,あ,,,」痛みに悶えるように男はその場に丸まっている。あの時の威勢はどこに行ったのか、ただただ惨めな姿を大衆の前で晒している。



「俺の研究の成果の盾まで取ろうとするなんてとんだクソ野郎だ」あの盾はジェノサイドとの戦いの後、修復できないか試みた。結果は言わずもがな失敗で、少しでも攻撃したら壊れるようになってしまった。それを壊せないということは、こいつらの力の底がそこらへんで止まっているということだろう。



「こいつらを殺しても構わないだろ?レッドネームだしな」職員の方を向いて確認を取る。犯罪を犯した人間は罰せられて当然だ。なんて言ったら俺も罰が下るかな。



「問題は,,,無いですが,,,」



「だよな」蒼を手に溜めて、剣の形をとる。それを見た男の表情はみるみるうちに青くなっていった。今までの罪に跪く時が来たようだな。



「やめとけ」蒼で殺そうとしたところをベータが止めてくれた。



「それは、やりすぎ,,,かも?」アミスも槍で俺のことを制止するように行く手を阻んだ。



「はぁ。分かったよ。殺しはしない」二人にこうも止められたら殺す気も罰する気も失せる。蒼を最小限まで抑え込む。それをみた二人は安堵した表情を見せた。だが、消したわけじゃない。



「その代わり、しっかりと罪を償うんだな」蒼を飛ばして男の頬に切れ込みを入れる。ツーッと血が流れ落ちる。次があれば容赦はしないという最終警告だ。



「行くぞ」二人を連れて外に出る。胸糞の悪い旅の始まりだが。仕方が無い。気分が悪くてもやらなければ、行かなくてはならない時がある。



「もう行くのか」外に出ると、通りから見覚えのある顔が見えた。パラディだ。そういえば、あいつに別れの言葉を言うのを忘れていたな。



「あぁ、今まで世話になったな」肩を叩いて別れを告げる。



「体には気ぃつけろよ。まぁ、歴史の追跡者と戦場を駆ける金の槍がいれば問題は無いか」どうやら二人はそこそこの二つ名がある有名人のようだ。俺もかっこいい二つ名欲しいな。



蒼を纏う剣とか、蒼空の支配者とかな。あー、でも俺は王国に仕えてるから王国の何とかになるのか。最悪だ。



「お前もな」笑いながらあの日のことを思い出す。いくら酒豪とはいえ体は壊すからな。気を付けてほしいもんだ。



「最後になるが,,,お前の冒険者のランクを上げる試験を受けるか?」パラディの口から出たのは予想を裏切る言葉だった。



この世界はやはり、ランクというのが存在する。階級による依頼の幅などは変わらないが高い程、優遇される。優遇の内容はギルドでの信頼度や、アイテムの優先受け渡し、素材を安く売れる、また高く買い取ってもらえる。



一番下はJランク。一番上はSSSとなっている。俺はランク無しだ。理由は王国にいる間は何もできなかったし、上げようとしても、事件に巻き込まれて町から逃げているからだ。



「いや、またいつかにするよ。今はアイツらと一緒の時間がいい」パラディに背を向けて手を振る。俺の前に居るのは他愛もない会話をしている仲間だ。ランクとかよりも、夢を、目的を分かち合える仲間といれる方が価値があると俺は思っている。



だから、ランクを上げるのはおあずけだ。二つ名もまだまだ後になりそうだ。



「お前の嬉しい報告、この町で待ってからな!」後ろから泣きそうな声が聞こえる。これだからおっさんは嫌いなんだよな,,,別れ際くらいはすっきりさせてくれよな。



「あぁ!絶対に戻ってお前の顔見てやるからな!!」雑踏の中に入り込む。周りはうるさいから俺の声なんてせいぜい数メートル先にしか届かないだろう。だからあいつらにもまだ___



「ブレイク!さっさと行くぞ。お前が変に目立つから慌ただしくなったんだ!」



「馬鹿、間抜け、あとで、このツケ、払って、もらう」



俺のことを急かす声が聞こえる。考える暇もないくらいの慌ただしい生活が俺にはあっている。過去も、今も、そしてこれからも。



「すまん!すぐに行く!」人ごみを掻き分けながら二人のもとに向かう。前が上手く見えないが、この人の多さだ。仕方が無いだろう。



「本当に早くしてくれよ!こっちは準備が足りてないからな!外に出たらもっかい支度させろよ!」



「これだから、能無しは、嫌い」前方から辛辣な声が聞こえる。心に響くから勘弁してくれよ。



春が名残惜しそうにしながら夏が始まろうとしている。俺たちが本格的に冒険を始める第一歩。それは余りにもジメッとしていて生暖かい。まるで過去がへばりつくように。でも、それを振り払うように晴天と日差しが俺たちを照らしてくれている。



ブレン。もう少しだけ待っていてくれ。もう後悔しない選択を取っていくから。新しい仲間を連れて、笑顔でそこから抜け出すのを手伝うから。だから、あの過去を、もう引きずらないでくれ。
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