ブレイクソード

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六十三話 出発

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「戻りました,,,って二人はもう寝ているのか」スキルで二人の状況を確認して物音を立てないようにする。入る前に確認しとけばよかったな。というか明かりが消えてるんだから寝てるに決まってるよな。



「今日は外で寝るか」俺は外に出て就寝の準備をする。でもこのまま野宿なんてしたらみぐるみ剝がされて、くっころ展開になってしまう。それだけは勘弁したい。



「大神召喚」今の力があればある程度想像しているものが召喚できるだろう。今回は俺のことを守ってくれる箱みたいのがいいな。



「かぱー」目の前に現れたのは人が二人位が入れる大きさの鋼鉄の箱だった。なんていうか,,,大きいミミックって感じがするな。口が付いてるし、涎みたいなのも垂らして水たまりが出来てるし,,,



正直自分から好んで入ろうとは思えないな。でも俺を快眠に導いてくれるのは間違いないだろう。だって安心して寝れるくらいの強さを持っているからな!



睡眠をとるか、尊厳をとるか,,,二つに一つ。ここまで迷ったことは人生で一回や二回くらいだ。クソッ!どっちを選べばいいんだ!考えろ、今までにないくらい脳みそを使え!



よくよく考えたら俺に尊厳なんてほとんどなかった。ブレイクと一緒に捨てようって約束したからな!←してない



「ダイナミック★・エントリー!」俺は意気揚々と箱の中に入った。涎塗れになりことを考えないで。



「体が唾液できもいな。でも中は見た目よりずっと広いな」中は何もない薄暗い空間で、快適に暮らせる広さを持っていた。



「とりあえず明かりが欲しいな」魔法空間から薪を取り出して火をつける。神になんてことしてるんだって感じだが、こいつは俺の呼びかけに応じてくれたんだ。こんな事されるくらいの覚悟は持っているだろ。



「体を清潔にして、装備も整備してからじゃないと寝れないな」やることを口に出しながら行動に移す。これが効率的だし、やることの確認が取れるから後々楽になる。



苦手な浄化魔法を苦労して発動させ体の汚れを取り、そのあと丹念に装備を綺麗に、そして鋭利にしていく。ここまで来ると子供を育ててる感じだ。もっともそんなことしたことないんだが。



いろんなことを終わらせていたら、一時間以上も時間が経っていた。今から急いで寝ても三時間くらいしか寝れないだろうな。まぁ、寝れるだけありがたいが。



パチパチと木が燃えて弾ける音が木霊する。とても心地が良い。この音を聞いていると段々と眠くなってくる。このまま穏やかな時間が流れればいいのにな。そんなことは叶わないし、俺にはやるべきことが山積みだ。



「そろそろ寝るか」寝袋を取り出して中に入る。中身はスカスカで体は痛いし暖かくも無いが、ないよりはましだ。それにしたに毛布なんか敷いとけば気にならない。



明日の朝誠意をもって二人に謝って、世界樹に向かおう。何があっても俺は挫けない。挫けたとしたらそれはもう俺じゃない。そんなことを思いながら俺は浅い眠りについた。



「いてて。もう朝か」短時間で傷んだ体を撫でながら起き上がる。体のリズムで勝手に朝になったら起きてくれる。ここは太陽も見えないから時間の感覚がまるでない。



この箱から早めに出て、二人に会いに行こうか。荷物の点検をして、何もないようにする。ここは仮にも神の体だ。汚して帰ったら罰が下るだろう。



「このくらいだな」片づけが済んだ俺は、唯一明るくなっている出入り口の方に足を運ぶ。これで出たら囲まれてたら面白いんだが、こいつもそこまで間抜けじゃないだろう。



「眩しいな,,,ってなんだこれ!?」太陽の眩しさに気を取られて少しの間気が付かなかったが、周りが凄いことになっていた。箱を囲んでいたのは気絶をした大勢の人間だった。



「もしかしてお前が?」召喚した箱に聞いてみる。もしそうだとすればポケット要塞じゃないか。これは何としてでも契約を交わしたい。



「かぱぱ!!」嬉しそうに口を開け閉めしているあたり、十中八九こいつがやってくれたのだろう。本当に戦闘力が高いな。



「もしよければ俺と契約しないか?」召喚による契約というのは互いが提示した条件で合意が得られた場合のみ成立するものだ。



俺は腕を箱に伸ばして条件を提示した。意思疎通が取れる者であれば、俺のスキルテレパシーで会話することが出来る。ただし許してくれた者にしかできない。



今回俺が提示したのは俺の呼びかけに必ず応じてくれること、空間を自由に使ってもいいこと、守ってくれることの三つだ。



対して向こうが提示してきたのは、召喚した時に俺の餓狼のエネルギーの半分と、名前を付けることだった。名前を付けることは簡単だが、餓狼を与えないといけないのか。



悩みどころだ。正直なところ餓狼を持っていかれるのは大きい。でも簡単な条件で強い味方がすぐに出てくるのはでかい。同じような個体でもこんな好条件はなかなか無いだろう。



「よし。それでいこう」俺は手を切って血液を垂らす。後はこれを向こうが接触してくれれば、契約完了だ。



「かぱかぱ」向こうは嬉しそうに俺の血液を舐めてくれた。これで契約完了だ。さて、名前でも付けてやるか。



こんな見た目でも一応は神だからな。まとも名前を付けてあげないとな。何かいい名前はないか,,,箱つながりでいいのは特にないし、やっぱこういうのはフィーリングか。



よし、こいつの名前はファンドでいこう。なんか強そうだしな。あとなんか神話で似たような名前の奴が居そうだからな。この世界じゃなくて、お前らの方でな。



「それじゃ行くか」ファンドを元居た場所に送り返し、俺は宿に向かった。近いとはいえ、道中いろんな人間に絡まれた。娼婦や、チンピラ、薬物中毒者に物乞い。普段人間としての生活が出来ている人間からすれば考えることも出来ない人たちだった。



「戻りました」玄関を開くと、胸に大きな衝撃が走った。レーネが飛びついていたようだ。この感じからすると朝一番から俺のことを待っていたようだ。



「心配しましたよ!」怒りながらポコポコと叩いてくるレーネは可愛さの権化だった。本当に俺よりも歳が上なのかを疑うレベルだ。



「少し手間取ってしまって,,,申し訳ないです」俺は顔をしっかりと合わせて謝罪をした。その瞬間、彼女の瞳から雫が流れ落ちた。あれ?俺何か悪いことしたか?あ、二人を護ることを一瞬だがやめてたな。



「ちょっと!アクセルさんが困ってるでしょ!」後ろから元気な声が聞こえた。フィーレの声だ。どうやらこの一晩は大丈夫だったようだ。



「いえ、僕が悪いですから好きなだけ責めてください」俺は二人に好きなだけ言われるサンドバッグになろうとしたが、この後の発言で違うことに怒っていることに気が付いた。



「アクセルさんを責める気は無くて、本当に心配で,,,」レーネは声を震わせながら本当に心配で来たことを教えてくれた。



「そうなんですね。安心してください。僕はここに居ますよ」二人の手を取って胸に押し当てて鼓動があり、ここに居るということを伝えた。また泣き出しそうになったレーネを見て、話題を変えることにした。



「それより、早くここから出ませんか?どうやら二人を狙う輩が増えているようです」町中から聞いた情報だから間違いない。それに早めに行動しておけば、不測の事態にも対処しやすくなる。



「そうなんですか?ならこうしてはいられないですね」そう言うとレーネは奥の方に行って準備をし始めた。



フィーレは「もう終わっています」と言って、まとめられた荷物を俺の前に持ってきて、ちょこんと床に座った。先見の明がある子は悪くない。この空いた時間で会話でもして、交流を深めておくか。仮と言っても仲間だからな。



「今日から同じ道を共にするので、敬語は無しにしませんか?」俺は堅苦しい関係は無しにして、気楽に行ける様な提案をした。



「分かりました。今日からよろしくお願いします」ぺこりと頭を下げて、笑顔を見せてくれた。可愛い。俺が紳士じゃなかったらもうお持ち帰りしているところだった。



「そういえば貴族の生まれなんですよね?家名を聞いてもいいですか?」仲間として必要な情報ではないが、偽名なんかを作る時に案外重宝したりするので聞いておきたい。



「家名はレストです。安息などの意味を持っていますね」こういう話しは嫌う人間が多いのだがこの子は違うのだろう。



「私が答えたのでアクセルさんも答えてくれますか?」悪魔の様な笑みを浮かべながら俺に家名を聞いてきた。この子の観察眼は相当なものだな。



「オーバー家だ。グロリア王国の。見た目は全然違うが家紋も持ってる」懐から家紋が彫られたペンダントを見せる。これを見せないとみんな信じてくれないからな。



「私の思った通りです」



「どこがですか?」



「オーバー家ということです」どこか嬉しそうに笑う彼女は、無邪気さと儚さを持っていて、触れば消えてしまうんじゃないかって思うほど綺麗だった。



「どこから気づいて,,,」フィーレに聞こうとしたがタイミングが悪かった。レーネがもう用意を済ませて奥から出てきた。



「お待たせしました。行きましょうか」少し汗を流しながら来たレーネは妖艶さを持っていてなんか,,,エッチです。



「そうですね。行きましょう!世界樹の根まで!」声を上げて外に出る。天気は快晴で絶好の旅日和。民度も良好、障害になる人物は無し。スタートからいい感じだ。



ここから先は何があっても、二人を護る。そして俺も更なる高みへ__
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