ブレイクソード

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六十二話 代償の交換

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「戻りました」戦闘が終わり、月が上ったころに宿に戻った。なんでこんな時間いなったかというと情報収集を行っていたからだ。二人をどうすれば安全なルートで世界樹の根まで送ることが出来るのかを、計画するためだ。



どこの国がエルフを敵対しているとか、今はどこでモンスターが活発に動いてるかとかそんな情報だ。俺つえーしたくても生憎俺はチート持ちじゃないから、こういうところで伸ばしていかないと。



「怪我は無いですか!?」宿に入るなりレーネが俺のところに駆け寄ってきて体を触り始めた。これがハーレムの始まりってやつか?



「お兄さんなら無事に戻ってくるって信じてたよ」後ろの方ではフィーレが料理を作りながら迎えてくれた。でも手は強く震えていて、心配してくれていたことが分かる。



「二人がいますから負けられませんよ」笑いながら装備を外し、食堂に足を運ぶ。つもりがレーネに腕を引っ張られ近くにあった、壊れかけのソファーに座らされた。



「ご飯の前に体のチェックです!」頬を膨れさせながら俺の服を捲ってきた。そこはまだ誰にも見せてない秘密の領域,,,!貞操の危機!



「本当に大丈夫ですから!」俺のピンクな部分が見える前にレーネを抑え、目の前でポーションを取り出して、一気に飲み干した。



「そこまで言うのなら,,,」どこか悲しそうな顔をしながら料理の支度に戻っていった。俺が魅力的なのは分かるが強引的に向こうから迫られるってのはちょっと違うな。俺の方からがっつり行ってヤりたいからな!



「こっちの方が疲れるな」軽くため息を吐きながら俺は用意された席に座る。これから出てくる料理には余り期待していない。理由は食材が略奪されて殆どないからだ。



「お兄さん疲れた顔してるね。それもそうだよね。死線を潜ってきたんだもんね」震えた声で目の前に料理を置いてくれた。何か俺を見る目がおかしい。何かついているのだろうか。



「フィーレさん。何かおかしなところでも?」疑問に思った俺はすぐに理由を聞いた。血なんか見せてたらショッキングだからな。



「あー、えっと,,,,」言葉を濁しながら奥の方に行ってしまった。踊体調でも悪いのだろうか。それなら料理は自分で作った方が良かったか。



「アクセルさん、言いずらいんですが,,,」レーネは俺から目線を外しながら、手鏡を渡してきた。所々に細工がされていて綺麗だな。長い間使われているのが分かるように手の後が持ち手にうっすらとついている。



「え?あ、ありがとうございます?」何が起こっているのか脳が処理できていないが、とりあえず鏡を受け取って覗き込んでみる。やっぱり何か顔についているんだろうか。



「ってなんだ,,,これ?」鏡の中には目が赤く、牙の様なものが口からはみ出していて、先端からは血が流れ落ちていた。人狼、このこの言葉がよく似合う風貌だ。



「すみません!少し席を空けます!」俺は二人にそう言うと、座っていた椅子を蹴り飛ばして宿の外につながる出口に走った。なんでこうなってるんだ?なんで?なんで?あぁ、思考が滅茶苦茶だ。



後ろからは物が壊れていく音と二人の声が聞こえた。でも今は止まれないし振り返れない。



「なんでこんなになってるんだよ」俺は泣きながら路地裏を当てもなく走り続けた。月が上ってからまだ時間がそこまでたっていないせいだろうか、いつもよりも人が多い。



人と通り過ぎるたびに向けられる奇怪なものを見る気持ちの悪い視線に、心が壊れそうになる。それから逃げるように俺は空へと舞い上がった。



「どうなったらもとに戻るんだ?」渡された手鏡をしきりに覗きながら変わっていく自分の姿を見て頭を抱える。このままじゃまたあの時の様に飲み込まれてしまう。



自分が消えてなくなってしまう。自分の弱さがまた招いた悲劇。所詮は強くはなれない脇役。足搔いたところで何も変わらない。変化するのは気持ちと意識だけで、それ以外は何も、何も変わらない。



だってそういう代償を渡してしまったのだから。強くはなれないという代償を。あの時この選択をした自分が憎くてたまらない。



【その代償を取ろうか?】



その声は作者?この代償を取ってくれるのか!この忌々しいものを!



【選んだのは君なんだけど,,,まぁいいや。代わりに君は何を賭けれる?】



俺が今賭けられるもの,,,俺の寿命でどうだ?俺は確実に四十で死ぬ。これでどうだ?あの時俺が渡したものと同等、いあやそれ以上の価値があるはずだ。



【君もそれを,,,分かった。それでいこう】



作者の声がエコーをかけながら消えていくと、今までの経験値が体中に巡っていく感覚があった。これで俺も強くなれる。見せかけじゃなくて、真の力を。



「今の俺の姿は,,,」急いで手鏡を見る。いつも通り黒髪に黒目の俺がいた。さっきまでの醜い容姿は綺麗さっぱり無くなっていた。



「よかった~」俺は安堵しその場に倒れ込んだ。ここ最近忙しくてまともに休憩しなかったのが祟ったのだろう。体がピクリともしない。でも幸いここは誰も来れないような建物の上に居る。



「ブレイクが愛した空は__」空を見上げると星が群れを成して流れていた。これが流星群というものか。なかなか悪くないな。それぞれが行く当てもなく飛んで消えていく様がなんとなく俺に、俺たちに似ているような気がした。



そういえば作者は君もそれをって言っていたな。もしかしてダストも同じ選択をしたのだろうか。仮にそうだとしたら俺達には__いやそんなわけないか。



「やっと体が動くようになってきたな。戻ろう」少しずつだが動くようになってきた体に力を入れて起き上がる。二人も心配しているだろう。



俺は今いる建物から飛び降りて宿の方に向かう。宿には狼を配置しているので、場所がはっきりと分かる。こういう時でも役に立つのが本当にいいスキルだな。



ちょっと浮かれながら歩いていると、家の無い男と肩が当たってしまった。狭い路地裏ではよくあることなんだが、こいつは他の人間とは違うようで俺に突っかかってきた。



「てめぇ目、付いてんのか?」ぼさぼさの髪の毛と髭には白が混じっていて、ぎらついた眼光をしている。こいつは人を殺すことに躊躇いを持たない人種だ。



「すみません。次からは,,,」そう言って横を通り過ぎようとしたが、男は隠し持っていた剣を目の前に突き出してきた。これだから夜の路地裏は,,,



「ただで帰れるとでも?」明らかに異常な発言に行動。こいつを生かしておくのは良くないな。かといって正当な理由も無いし殺すには材料がな,,,実験台にするか。



「思っているから歩いてるんですよ」~虚構世界~指を鳴らして幻術を発動させる。地面から無数の黒い手が現れ、男を深淵に引きずり込んだ。こっちに帰ってくるには時間が掛かるだろう。



代償のせいで使えなかった幻術が今では使えるようになった。これで俺つえーに近づいたな。幻術のコスパの良さといったら半端じゃない。一回発動させれば長時間対象を拘束できるし、必要なエネルギーも少ない。



「作者に感謝だな。こんな融通が利くのはここくらいだろう」天に手を合わせて拝んでおく。作者の好感度が上がった!ここからいいことがあるかも!?



「そんなことよりもさっさと戻るか」二人にこれ以上は心配かけたくないし、こんな物騒な奴らが居る中、女二人は危険だからな。



「ワイバーン」スキルを発動させて影の中から飛竜を召喚する。前までは空から来てもらっていたんだが、今はこうやって好きなところから呼び出せるようになった。



「宿まで頼む」ワイバーンの脚に縄を括りつけてそれを掴む。背中に乗るのもいいが、攻撃されたときにこいつを上手く守れないかもしれないから一番目が聞くところに居たい。



「キュイ」一鳴きする翼を大きく広げ、空中へと飛び上がった。空から見るとこの街は貧困層との区別がはっきりしているのが分かる。明かりが途中で完全に途切れているからだ。恐らく明かりの材料すら変えていないのだろう。



どこに行っても上の人間は駄目なんだな。自分のことしか考えていない。今の自分たちの生活が下の人間に支えられているのが全く分かっていない。



「お前もそう思うよな」俺のことを運んでくれているワイバーンに高級肉を与えながら聞く。答えが返ってこないってわかっていても。



「ここら辺で下ろしてくれ」宿から少し離れたところで下ろしてもらう。飛竜がいきなり現れたら腰を抜かすだろうからな。



「また今度頼む」地面に降りた後に肉の塊を渡して、帰ってもらった。今度は三人も載せるからこのくらい渡してもいいだろう。



「明日から旅が始まるのか」暗い道を歩きながら明日からのことを考える。しっかり守り切れるだろうか。もっと強くなれるだろうか。そんなことを考えながら俺は宿に着いた。
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