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流転

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「僕がキミの事についてまとめた論文が、実はかなりセンセーショナルを巻き起こしていてね。」


神野教授はそう言って、私に視線を向けた。


「えっ、どういう事ですか?」


「ジョンマネーの主張が間違っていたというのは、我々の世界では当然の事と認識されていたんだが、キミについてはそれが当てはまらないってなったんだ。」



「よくわかりませんが…」



「性別の自己認識は環境的要因によって決まるというマネーの理論は、誤りとされていたのに、環境的要因…つまり、後天的な理由で性転換したキミは、女性としての自我が芽生えた。」


「つまり、ワタシは自分が元々男であるという性自認がありながら、誤って性転換手術をされてしまったにもかかわらず、女性としての人生を受け入れてしまうどころか、性自認も変化したと?」


「そうだね。」


「そのお話はわかりました。

でも、今日ワタシが呼ばれたのは一体…」


「とにかく、今回の件は反響が大きくてね。
テレビ局が取材させて欲しいと言ってきてるんだ。

地元のローカル局で、全国ネットではないんだけど。」


「ワタシにもってことですか?」


「うん。
勿論、顔は出ないようにするし、声も変えるから酒井さんだって特定はされないようにするって言ってるんだけど、どうだろうか?」


「えっ…
テレビは…」


「イヤなら断ってくれても全然かまわないよ。

ただ、僕は学者としてこの取材を受けるつもりなんだ。
その事について、キミの許可が欲しくてね。」


「…
先生

ワタシが出演する意義って何かありますか?」



「まあ、キミのような例はレア中のレアだから、今後同じような事が起きるかって言ったら、それは多分起こらないだろうけど、GIDの問題っていうのは、最近になってようやく取り上げられるようになってきたっていう背景がある。
それらの悩みを抱えてる人達にとって、キミの存在は自分と重ねることは難しいかもしれないけど、大きな事だと僕は思うんだよ。」


「なるほど…
そうなんですね。
ワタシも自分が性転換してから、GIDの人達にお会いする機会も出来ましたし、ワタシとは違った苦しみを持ってらっしゃるなあって感じていました。

先生、お役に立てるんなら、ワタシもテレビに出させていただきます。」


ワタシは、神野教授にテレビ出演を受ける方向で返事をした。

岡山だけのローカルニュースみたいな番組だし、そこまで深く考える事もないなって…

けれども、この決断が、ワタシの人生を大きく変える事になるとは…
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