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フロイライン

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失意の日々

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「おはようございます。」

珀は、いつものようにコンビニのアルバイトをするために店に出勤してきた。


新東京プロレスへの入門失敗に続き、軽い気持ちで見学に行ったニューハーフプロレスで、スパーリングを行い、同い年の練習生に秒殺と、昨日起きた事は、珀の人生観を変えたと言っても過言ではなかった。


「どうしたの?元気ないじゃん」


同じ時間にシフトに入っている、フリーターの兼子が心配そうに声をかけてきた。
兼子は三十歳で、珀より一回り以上年齢が上であるが、東京に出てきて右も左もわからなかった珀に親切に仕事の事を教えてくれて、珀自身も慕っていた。



「いえ、すいません。
何でもないです。」


「ひょっとしてプロレスの試験、またダメだったかあ?」


「ええ、まあ、そんなとこです。」  


珀は力なく答えた。


「まだ若いんだし、そう落ち込むなって。
チャンスはあるから。」


「いえ、やっぱり背の低さは致命的で、これからどう足掻いても背が伸びるわけじゃありませんし…

もう、新東京プロレスへ入る夢は諦めました。」


「そうか…

せっかく田舎から出てきて、新東京プロレスの道場近くにアパート借りて、バイトも目と鼻の先で勤務してたのに、もったいないなあ。」


「そうですね。
もうこの街に執着することもないので、引っ越すか、田舎に戻ろうかって悩んでるところです。」


「えっ、そうなの?

せっかく桐生クンと仲良くなれたのに、それは寂しいなあ。」


「すいません。
兼子さんには本当に良くしていただいて、感謝してもしきれません。」

そう言ったところで、客が入ってきた為、二人は会話をやめた。


「いらっしゃいませ…

あっ」


珀は、客の顔を見て、思わず声を出してしまった。

女性客二人だと思っていたが、よく見ると昨日会ったばかりのNPW社長の友谷久美子と、看板レスラーの佐倉ミカだった。

「あら、珀クンじゃないの!

ここでバイトしてるの?」


久美子は殊更に驚き、そう声をかけた。


「はい。そうなんです。」


「ワタシらは、新東京プロレスに行った帰りなのよ。」

ミカは、珀に言った。

珀は、昨日の惨敗の事を忘れ、ミカに見惚れてしまった。

ちゃんとスカートを履き、きちんと化粧をしたミカは、リングで見たのとは別人のように美しく、自分の心の中にもそのような感情がある珀は、憧れの気持ちをもって見つめたのだった。


「新東京プロレスに行ってたんですか。」



「そうなのよ。
来月の東北遠征に、ウチの団体も出させてもらう事になっててね。
その打ち合わせにね。」


「そうなんですか。」

兼子は三人の関係が全くわからなかったので、バイト仲間が、美人な女性とその母親と何やら話をしている構図にしか見えずに困惑した。
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