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U-turn

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「莉愛、忘れ物はない?」

智が部屋の中を確認しながら言うと、莉愛はバッグのファスナーを閉めながら頷いた。

「うん、大丈夫

あ、ママ…

ホントにアレもらってもいいの?」

莉愛は言いにくそうに、そして小声で智に言った。


「うん。いいわよ

でも、寮は二人部屋なんでしょ?
使えないんじゃないの。」


「ううん。それは上手くやるし…
一人の時もあるから」

莉愛は顔を赤らめて俯いた。


「使うのはいいけど、ほどほどにね」


「うん。ありがとう、ママ

大好きだよ」

莉愛はそう言うと、智に抱きついてきた。

智はハグしながら、幼いときから寂しい思いをさせすぎて、日本人離れした愛情表現をしてくる娘を少し不憫に思うのと同時に、心から申し訳なく思った。
自分のせいで、幼少期に一緒に住めず、また、母親を病気で失うという辛い目にも遭わせてしまった。

そのときの思いを、少しでも取り返そうとするあまり、ついつい甘やかせてしまうきらいがあったが、莉愛自身は智の想像以上にしっかりしており、智の甘さに溺れてしまう事はなく、素直ないい子に育ってくれたのだった。



「じゃあ、そろそろ出る?」


ユウが部屋に顔を出して呼びかけると、二人は頷き立ち上がった。


僅か十日間ほどの滞在だったが、久しぶりに母に甘える事が出来、また、そのパートナーのユウも、一目見て大好きになった。

莉愛は新しい実家をぐるりと見回し、納得の表情で玄関に行った。



電車を乗り継いで、東京駅まで来た三人は、改札口で別れるのは寂しいと、智とユウはわざわざ入場券を買って、ホームまで莉愛について行った。


「今度会えるのは夏休みだね。」


「うん。
もう二年だし、夏休みは長めの休みがもらえるし、またお世話になります。」


「楽しみにしてるわ、莉愛ちゃん。

また一緒にお風呂入ろうね」


「やった!

ユウさんの美しいカラダをまた間近で見られるんだー」

莉愛は大袈裟なくらいに喜び、ユウに抱きついた、


別れを惜しむ三人に、まもなく列車が発車をするというアナウンスが流れてきた。


「じゃあ、そろそろ行くね。」

莉愛は持ってもらっていた荷物を智から受け取ると、ペコリと頭を下げて新幹線に乗り込んでいった。

そして、自分の席に着くとバッグとお土産を棚に上げた。

座って窓から外を見ると、既に智とユウが窓の向こう側に移動してきていて、こっちを見て手を振っていた。

莉愛も、周りの目を気にしながら、少しだけ手を動かし、そして笑みを浮かべた。

新幹線のドアとホームドアが閉まり、ゆっくりと走り始めた。

莉愛はは後ろを振り向いて手を振ったが、すぐに二人の姿は見えなくなった。

ここでようやくシートを少し後ろに倒し、フッとため息を漏らした。
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