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智は時間をかけてカレーを作り、他にも何品かを次々に作っていった。
こうして趣味の料理を作っていると、日々の嫌な事を忘れられ、穏やかな気持ちになる。
ただ、食堂の仕事が変な時間帯な為、手の込んだ料理を作れるのは、今日のような休みの日に限られた。
後は食べるだけ、となったところで携帯が鳴った。
昼にスーパーで再開した後藤和俊からだった。
「もしもし」
「あ、もしもし、昼間はごめん。
今、仕事終わったんだ。」
「こっちこそ、仕事中に話しかけてごめんね。
まさか、後藤がいるとは夢にも思わなかったから。」
「まあ、吉岡ほどじゃないけど、あれから色々あってね‥
あの、よかったら、これから飲みに行かね?」
「そうだね、ワタシも話したかったから。」
「じゃあ、三十分後に駅のロータリー付近にしよっか。大丈夫?」
「うん、わかった。それじゃあ後でね。」
智は電話を切り、出来上がった料理にらっぷをしたり、さらに移し替えたりと、片付けをし、化粧直しをする為に鏡の前に立った。
既にベスト体重に戻していた為に、スタイル的には、後藤と過去に会ったときと変わっていない。
持ち前の美貌については、三十歳になったとはいえ、まだまだ衰えてはいない。
「よし。」
全身のチェックを終え、智は鏡に映る自分を見つめながら、小さく頷いた。
約束の五分前に待ち合わせ場所に行くと、既に後藤が先に到着しており、携帯をいじる姿が目に入ってきた。
「後藤、お待たせ」
智が声をかけると、後藤はビクッとして顔を上げた。
「あ、うん、おう。」
久しぶりに見る後藤和俊は、以前に会ったときと大違いで、髪も短めに整えられ、服装もカジュアルではあるが、清潔感があって好感がもてる。
そして、何よりも顔つきが、以前見たときとは雲泥の差であった。
悪い言い方をすると、あのときの後藤は目が死んでいた。
二人はすぐ近くにある居酒屋に場所を移した。
「びっくりしちゃったじゃないのよ、あんなところで会うなんて。」
「だろ?俺も、まさか、自分があの店で働くようになるとは思ってなかったんだけど。」
後藤は照れ臭そうに笑って、ビールを口にした。
「こっちに出てきてたんだね。」
「うん。前に会った時は引きこもり生活を送ってたもんな‥
このままじゃいけないって思い、もう一度頑張ってみようってね」
「偉いなあ、やっぱり後藤は子供のときから変わってないよね。」
「何も偉くないよ。引きこもり生活から国民の最低限の義務である勤労をしてるってだけだよ。
それにしても、吉岡は相変わらずキレイだね。」
「そんなことないよ。一年半前は体重112キロあったのよ、ワタシ」
智は笑って言った。
「えっ、マジか?」
智はこの三年半に、自分に起きた事を後藤に話した。
こんな事をあまり他人に話すべきでもない、という向きもある。
しかし、誰かに聞いてもらう事で、智の心のバランスが保てる事が、はっきりと自覚できたので、後藤にも包み隠さずに全部話した。
「そうだったのか‥」
「うん。ごめんね、こんなしょーもない話を長々しちゃって。」
「いや、話してくれてありがとう。
でも、吉岡は自分を責めすぎだと思うよ。
吉岡はみんなを幸せにする力を持ってるよ。亡くなった奥さんの事は残念だったけど、きっと吉岡に感謝して、愛していたに違いない。
吉岡に救われた俺が言うんだから間違いないよ。」
神妙に話す後藤の顔を、智は何も言葉が出ず、ただ、見つめていた。
「吉岡、俺が引きこもりから立ち直るきっかけを与えてくれたのは、お前なんだよ。」
後藤はそう言って頷いた。
こうして趣味の料理を作っていると、日々の嫌な事を忘れられ、穏やかな気持ちになる。
ただ、食堂の仕事が変な時間帯な為、手の込んだ料理を作れるのは、今日のような休みの日に限られた。
後は食べるだけ、となったところで携帯が鳴った。
昼にスーパーで再開した後藤和俊からだった。
「もしもし」
「あ、もしもし、昼間はごめん。
今、仕事終わったんだ。」
「こっちこそ、仕事中に話しかけてごめんね。
まさか、後藤がいるとは夢にも思わなかったから。」
「まあ、吉岡ほどじゃないけど、あれから色々あってね‥
あの、よかったら、これから飲みに行かね?」
「そうだね、ワタシも話したかったから。」
「じゃあ、三十分後に駅のロータリー付近にしよっか。大丈夫?」
「うん、わかった。それじゃあ後でね。」
智は電話を切り、出来上がった料理にらっぷをしたり、さらに移し替えたりと、片付けをし、化粧直しをする為に鏡の前に立った。
既にベスト体重に戻していた為に、スタイル的には、後藤と過去に会ったときと変わっていない。
持ち前の美貌については、三十歳になったとはいえ、まだまだ衰えてはいない。
「よし。」
全身のチェックを終え、智は鏡に映る自分を見つめながら、小さく頷いた。
約束の五分前に待ち合わせ場所に行くと、既に後藤が先に到着しており、携帯をいじる姿が目に入ってきた。
「後藤、お待たせ」
智が声をかけると、後藤はビクッとして顔を上げた。
「あ、うん、おう。」
久しぶりに見る後藤和俊は、以前に会ったときと大違いで、髪も短めに整えられ、服装もカジュアルではあるが、清潔感があって好感がもてる。
そして、何よりも顔つきが、以前見たときとは雲泥の差であった。
悪い言い方をすると、あのときの後藤は目が死んでいた。
二人はすぐ近くにある居酒屋に場所を移した。
「びっくりしちゃったじゃないのよ、あんなところで会うなんて。」
「だろ?俺も、まさか、自分があの店で働くようになるとは思ってなかったんだけど。」
後藤は照れ臭そうに笑って、ビールを口にした。
「こっちに出てきてたんだね。」
「うん。前に会った時は引きこもり生活を送ってたもんな‥
このままじゃいけないって思い、もう一度頑張ってみようってね」
「偉いなあ、やっぱり後藤は子供のときから変わってないよね。」
「何も偉くないよ。引きこもり生活から国民の最低限の義務である勤労をしてるってだけだよ。
それにしても、吉岡は相変わらずキレイだね。」
「そんなことないよ。一年半前は体重112キロあったのよ、ワタシ」
智は笑って言った。
「えっ、マジか?」
智はこの三年半に、自分に起きた事を後藤に話した。
こんな事をあまり他人に話すべきでもない、という向きもある。
しかし、誰かに聞いてもらう事で、智の心のバランスが保てる事が、はっきりと自覚できたので、後藤にも包み隠さずに全部話した。
「そうだったのか‥」
「うん。ごめんね、こんなしょーもない話を長々しちゃって。」
「いや、話してくれてありがとう。
でも、吉岡は自分を責めすぎだと思うよ。
吉岡はみんなを幸せにする力を持ってるよ。亡くなった奥さんの事は残念だったけど、きっと吉岡に感謝して、愛していたに違いない。
吉岡に救われた俺が言うんだから間違いないよ。」
神妙に話す後藤の顔を、智は何も言葉が出ず、ただ、見つめていた。
「吉岡、俺が引きこもりから立ち直るきっかけを与えてくれたのは、お前なんだよ。」
後藤はそう言って頷いた。
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