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好敵手
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今や、ニューハーフAV界でトップを走る智に、他のレーベルや風俗業界から、多数のオファーが、日々舞い込んでくる。
AVに関しては新井への恩義から、他への出演は考えていないし、風俗については、過去に勤務していた時、無味乾燥だった印象が強く、何れの誘いにも乗らなかった。
食堂での仕事は、辛い事から立ち直り、前向きに生きようとする智にとって、健全な精神を保つ役割を果たしてくれていた。
だが、時々、どうしようもなく落ち込む事もあり、一人涙を流す事もあった。
これは、娘の莉愛を奈々の両親に奪われたままであるという事実と、女性ホルモンの投与の影響で、どうしても鬱になってしまうからであった。
そんなときは、買い物に出かけたり、料理を作ってみたりと、何も考えず没頭できるものを必要とした。
その日も、仕事を終えて朝5時半に帰宅。
シャワーの後、眠りについたが、昼前には起きて、家事に勤しんだ。
午後からは、スーパーに、晩に食べる料理の材料を仕入れるために足を運んだ。
自宅から自転車で10分ほどのところにあるスーパーはチェーン店ではないが、安いと評判で、いつも大勢の客で賑わっている。
智もこの店を好んでいて、週に3回は来ていた。
その日はカレーを作ろうと思い、野菜を見て回っていたが、肝心のジャガイモが売り切れていて、棚が空いてしまっていた。
メニューの変更を余儀なくされるのか、と諦めムードが漂ってきたが、近くで陳列された商品の整理を行なっている店員を見つけたため、ダメ元で声をかけた。
「すいません、ジャガイモって全部売り切れました?」
呼び止められた若い男性店員は、振り返って棚を覗き込むと、申し訳なさそうに
「あ、すいません。
すぐ補充します!」
と、言ってバックストックに消えていった。
しばらく待っていると、台車にジャガイモの入った箱を三つほど積んで戻ってきた。
「申し訳ありません。気付かずに‥」
店員は恐縮しながら、箱を開け、棚にジャガイモを並べていった。
普通なら、智も礼を述べてジャガイモを受け取り、さっさとその場を後にするところだが、何故か言葉を発せず、その店員の方を見続けていた。
店員も、目当てのジャガイモが来たのに、一向に取ろうとしないその客に、少し戸惑って、チラッと顔を見た。
「後藤?」
智の方が、先に声をかけた。
「えっ、はい?」
智に後藤と呼ばれた男は、益々変に思い、智の顔を凝視した。
「‥
吉岡?」
男は、智の中学時代の同級生だった後藤和俊だった。
以前、智が墓参りの為に地元に戻った際、偶然コンビニで再会した、あの後藤だった。
神童と呼ばれた子供時代、突如現れた智という存在により、挫折を味わい、人生の歯車が狂っていき‥
最後は引きこもりとなってしまった和俊だったが、自分よりも奇異な人生を送る智を見て、再起を誓ったのだった。
そのとき連絡先の交換をしていたが、その後は連絡を取り合うような事は一度もなかった。
その和俊と智が、地元ではなく、東京の郊外にあるこのスーパーで、意外な形で再会したのだ。
「なんだよ、後藤
この近くに住んでんの?」
智は思わぬ再会に、少し興奮した口調で言った。
「そうなんだよ、久しぶりだな。
えっと‥今、仕事中だから‥
店終わったら電話していい?」
「うん。この前交換した時から番号変わってないし、LINEでもどっちでもいいから、連絡ちょうだい。」
ちょうど人恋しくなっていたときに再会した旧友に、智は気持ちを昂らせた。
AVに関しては新井への恩義から、他への出演は考えていないし、風俗については、過去に勤務していた時、無味乾燥だった印象が強く、何れの誘いにも乗らなかった。
食堂での仕事は、辛い事から立ち直り、前向きに生きようとする智にとって、健全な精神を保つ役割を果たしてくれていた。
だが、時々、どうしようもなく落ち込む事もあり、一人涙を流す事もあった。
これは、娘の莉愛を奈々の両親に奪われたままであるという事実と、女性ホルモンの投与の影響で、どうしても鬱になってしまうからであった。
そんなときは、買い物に出かけたり、料理を作ってみたりと、何も考えず没頭できるものを必要とした。
その日も、仕事を終えて朝5時半に帰宅。
シャワーの後、眠りについたが、昼前には起きて、家事に勤しんだ。
午後からは、スーパーに、晩に食べる料理の材料を仕入れるために足を運んだ。
自宅から自転車で10分ほどのところにあるスーパーはチェーン店ではないが、安いと評判で、いつも大勢の客で賑わっている。
智もこの店を好んでいて、週に3回は来ていた。
その日はカレーを作ろうと思い、野菜を見て回っていたが、肝心のジャガイモが売り切れていて、棚が空いてしまっていた。
メニューの変更を余儀なくされるのか、と諦めムードが漂ってきたが、近くで陳列された商品の整理を行なっている店員を見つけたため、ダメ元で声をかけた。
「すいません、ジャガイモって全部売り切れました?」
呼び止められた若い男性店員は、振り返って棚を覗き込むと、申し訳なさそうに
「あ、すいません。
すぐ補充します!」
と、言ってバックストックに消えていった。
しばらく待っていると、台車にジャガイモの入った箱を三つほど積んで戻ってきた。
「申し訳ありません。気付かずに‥」
店員は恐縮しながら、箱を開け、棚にジャガイモを並べていった。
普通なら、智も礼を述べてジャガイモを受け取り、さっさとその場を後にするところだが、何故か言葉を発せず、その店員の方を見続けていた。
店員も、目当てのジャガイモが来たのに、一向に取ろうとしないその客に、少し戸惑って、チラッと顔を見た。
「後藤?」
智の方が、先に声をかけた。
「えっ、はい?」
智に後藤と呼ばれた男は、益々変に思い、智の顔を凝視した。
「‥
吉岡?」
男は、智の中学時代の同級生だった後藤和俊だった。
以前、智が墓参りの為に地元に戻った際、偶然コンビニで再会した、あの後藤だった。
神童と呼ばれた子供時代、突如現れた智という存在により、挫折を味わい、人生の歯車が狂っていき‥
最後は引きこもりとなってしまった和俊だったが、自分よりも奇異な人生を送る智を見て、再起を誓ったのだった。
そのとき連絡先の交換をしていたが、その後は連絡を取り合うような事は一度もなかった。
その和俊と智が、地元ではなく、東京の郊外にあるこのスーパーで、意外な形で再会したのだ。
「なんだよ、後藤
この近くに住んでんの?」
智は思わぬ再会に、少し興奮した口調で言った。
「そうなんだよ、久しぶりだな。
えっと‥今、仕事中だから‥
店終わったら電話していい?」
「うん。この前交換した時から番号変わってないし、LINEでもどっちでもいいから、連絡ちょうだい。」
ちょうど人恋しくなっていたときに再会した旧友に、智は気持ちを昂らせた。
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