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寛解

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智が勾留されてから36時間が経過した。

精神的にもかなり疲弊し、こうして冤罪の土壌が出来るのかと、智は留置場の中で涙を流した。

だが、そんな中、唯一の希望である北見弁護士は智と接見し、さらに詳しく話を聞き、突破口を探そうと奮闘していた。

「吉岡さん、気をしっかりお持ち下さい。」

「はい。でも、精神的にかなりマイってて‥」

「先程奥様にお会いしてきましたよ。」

「奈々に、ですか?」

「ええ。」

「何か言ってましたか」

「すごくあなたの事を心配されて、泣いておられました。」

「そうですか‥」

「ですが、あなたの奥様は聡明な方だ。
すぐに気を取り直して、あなたを救い出す為に今、必死に頑張ってますよ。

吉岡さんから聞いた、桐山から奈々さんが受けた暴行についても、病院で治療を受けた事を思い出してくださいまして、ウラ取りをしているところです。
その辺の証拠を固めていけば、信憑性が増して、こちらに有利にはたらきます。」

「奈々が‥」

「もう少しの辛抱ですよ、吉岡さん。
このままいけば不起訴となるはずです。」

北見は智を励ますと、力強い表情で頷き、一礼して帰っていった。

エリート街道まっしぐらで、挫折知らずで来た人生も、性転換してからは坂道を転げ落ちるような事ばかりで、今回の事は、その極め付けだった。

挫けそうになりながらも、智は自分を待つ家族の為に最後まで諦めないと心に誓ったのだった。



結局、智の精神力と奈々や北見の努力が実り、潔白が証明され、不起訴処分となった。

ただ、一番の決め手となったのは桐山の供述だった。
桐山は智を罠に嵌めた事を素直に認め、彼と智の証言がほぼ一致した事が事態を大きく好転させた。

とはいえ、桐山が何故このような事をしたのか、後に真相を知った時、智は血の気が引く思いだった。

桐山は法に触れるか触れないかの際どい仕事をしており、その筋の世界の人間とも付き合いがあって、今回使用した薬物もそこで入手したらしい。

そして、やはり、奈々をどうしても忘れられず、奪還しようと画策したが、桐山にとっては予想外な人物、智が立ち塞がった。

そこで、桐山は智を言葉巧みに誘い出し、薬物によって廃人にし、その上で後ろ盾を失った奈々を取り戻そうとした。
智が廃人になれば、続いて奈々も薬物で支配しようと画策していたらしい。

覚醒剤は飲み物に入れたり、セックスの際、智に気付かれないように肛門に注入していたようだ。
注射を使っていない点も、自らの意思ではないと主張する智に有利にはたらいたのは言うまでもない。


これが真相だったが

最初は智を潰そうとした桐山だったが、逢瀬を重ねるうちに、情が移り、いや、智の事を愛するようになってしまった自分に気付き、その決意が揺らいでしまったと。
自分の気持ちがどっちに向いているかわからず、迷いが強くなった最中の逮捕劇だった。

兎にも角にも、智は罪を免れて釈放され、迎えに来た奈々と莉愛の元に歩み寄り、手を取り合って泣いた。

「ごめん、奈々」

「‥」

智の言葉に、奈々は何も言えず、抱きついて泣くだけであった。

こうして、智の自己犠牲もあって、桐山の恐怖は排除され、二人への障害は、もはや何もなくなった。

幸せに暮らしたい

そう願いながら、久しぶりの家に帰る智だった。

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