ニューハーフ極道ZERO

代理戦争編

良心

多喜は綾香の住むマンションの近くに車を停め、ジリジリとした時間をすごしていた。
もう何日も…


沢木組が警戒する中、綾香を連れ出す事など不可能に近い。
いや、連れ出せたとして、その後どうする？

多村に引き渡せば、綾香は殺されるかもしれない。

薫を救うためとはいえ、そんな事をして許されるわけはない。

答えの出ない問答を心の中で繰り返すばかりであった。





「麗華さん
ホンマ、もう無茶はせんとってください。

オヤジが帰ってくるまでに麗華さんの身に何か起きてしもたら、ワシら死ななあかんようになりますから。」

赤石功太は、綾香の部屋にやってきており、奔放に行動する彼女に釘を刺した。

「わかってるわ。あなた達には悪いと思ってる。」

綾香自身、多村の恐ろしさについてはその身をもってよくわかっており、この状況を受け入れるしかなかった。
当分の間、沢木組に守ってもらわないと危険極まりない。

「まあ、多村の連中がでかい顔してこないな事するのを見てんのも、もう限界ですわ。
そろそろ痛い目見せたらんと。」

功太は苦虫を噛み潰した表情で拳を叩いた。

「それにしても、いつまでここにいる気？
もう帰ってくれるかなあ」

綾香は部屋に上がり込んできて、全く動こうとしない功太達に呆れて吐き捨てるように言った。

「いや、もう少し中におりますわ。
外の見張りだけやと心配ですから。」　


「それはどうも」

綾香は諦めてため息をついた。

しかし、同時にこれくらい警戒した方がいいのかもと考えた。
執念深い多村の事だ。
まだ何かを企んでるのかもしれない。
あそこで自分を逃した多村の思惑は？

綾香は背筋が凍る思いになった。