ニューハーフ極道ZERO

フロイライン

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鹵獲編

以心伝心

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その日もまた、多喜と薫は仕事終わりで待ち合わせをし、行きつけのうどん屋で食事をしていた。

だが、饒舌に話をする多喜とは違い、薫の口数は極端に少なかった。

「薫、どうした?
なんか元気がないみたいだけど‥」

それにはさすがの多喜も気付き、声をかけてきた。

「ううん、大丈夫。
それよりも、真ちゃん‥ワタシ、話しておかなきゃならない事があるの‥」

「えっ‥
何?」

薫は一呼吸置き、そして話し始めた。

「ワタシ、真ちゃんに一つだけ言ってなかった事があるの。」

「あ、うん‥」

「実は、ワタシ‥ニューハーフになる前、沢木組っていう暴力団の構成員をしてたの‥」

「えっ、沢木組って‥」

「そう‥この辺りを活動拠点にしてる‥」

「‥」

「で、色々な事があって、組を辞めてニューハーフになったのが二年前‥」

「薫‥」

多喜は一瞬だけ、何かを考えるような素振りを見せたが、すぐに話を続けた。

「薫、そんな言いにくい事を俺に話してくれて、ありがとう。

俺も、薫に言わなきゃならない事があって‥

ずっと迷ってたんだけど、先に薫の話を聞いてから、自分の事を言うのはカッコ悪いけど‥」

多喜はコップの水を少し口にし、また、話を続けた。

「俺も薫がいたところと同じ、いわゆる暴力団の構成員なんだ。今も。

関東が拠点の多村組ってとこなんだけど、向こうで商売がやりにくくなって、こっちに一部の人員を移そうとしてる‥
その足掛かりとして、警察の目を誤魔化すために作った会社、多村興業を使ってこっちに店を出したんだ。
薫も知ってると思うけど、多村組は立正会の傘下にあり、立正会は、沢木組と、その背後にある垂水組と対立関係にある。

その代理戦争のコマとして、多村組があり、俺が働いてるあの店があるんだ。」

「そうだったんだ‥」

「それでも、このご時世だ。直接ドンパチやってタマ取り合うなんて事をしたら、それこそ警察の掃討作戦の餌食になって、組が潰れてしまう。
だから、俺も、多村興業の社員として純粋に、キャバの運営に没頭する事が出来た。
誰も緊張感をわざわざ生むようなことはしたくないからね。

だけど、ウチの社長‥多村は違う。
勿論そういう側面のもと動いているのは事実だけど、私怨を持ってこっちにやって来たっていうのが本当のところだよ。」

「私怨?」

「社長には妻にしようとしていた愛人がいた。
だけど、その愛人はイヤだったらしく、結婚式の少し前に逃げ出しちまったんだ。

で、自分の身を守るために、また、ヤクザを頼っちまった。

沢木組の若頭だった庄山さんだ。

今は組長だったね。その愛人に収まったから
、身の安全を保証されてるようなんだ。」

「庄山さんの‥」

「フツーなら、それで終わる話だけど、ウチの社長は異常なくらい執念深いから、何があってもその愛人を許しはしない。
たとえ、対立組織に囲われてても。
そうなったら、戦争になる。
大義なんて何もない、女一人のための‥
そして、真っ先に犠牲になるのは末端の組員達だ。
俺と組にいる親友とで、なんとかその愛人を守ろうと動いた事もあったんだけど、沢木組がちゃんと保護してくれてるみたいだし、愛人自体も表に出てこないから、今のところは無事に済んでる。」

「真ちゃん‥」

「薫、俺は拾われた恩義があって、組のために頑張ろうって思ってたんだけど、薫と出会って、一番大事なものが薫に変わったんだ。

薫の話を聞いて、俺が組にいて、あの店で働き続けることで、変な事になるのなら、俺は組を抜ける。店も勿論辞める。」

「‥」

「俺、中卒だし、ちゃんとした給料貰えるかわかんないけど、ついて来てくれる?」

「真ちゃん、ワタシも高校中退してるから、中卒だよ。

遠いところで二人で暮らそうよ。
お金なんて要らないよ、真ちゃんさえいれば。」

「薫‥ありがとう。」

「でも、真ちゃん‥組を抜けるのって、そんなに簡単な事じゃないから」

「大丈夫だよ。何とかなる、いや、何とかするから。」

多喜は力強く答えたが、実際のところ、そう簡単に事が運ばないのは、薫の言葉を聞くまでもなく、嫌というほどわかっていた。
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