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沢木組編

抗争

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「兄貴、大変ですわ!」 

功太がただならぬ様子で、事務所に飛び込んできた。 

「どうした?」 

薫はちょうど洗車を終えて一息ついたところだったので、やや面倒臭そうな口調で返事した。 

「立正会の奴らが、またウチのシマ荒らしてますんや!」 

「本当か!?」 

「はい、今さっき『something』のマスターに会うて、話聞いてきたとこですわ!」 

薫は車のキーを掴み、立ち上がった。 

「功太、行くぞ。」 

最近頻発しているこの小競り合いだが、過去に繰り広げられた抗争とは大きな違いがあった。 

元々日本最大の広域暴力団『垂水組』の傘下にある沢木組にとって、この地での活動は、いわば無風状態の中で執り行われてきた。 

しかし、警察による徹底した垂水組封じ込め作戦により、組織が弱体化し、今まで保ってきた秩序が乱れ始めていた。

大阪に拠点を置く立正会は、規模こそ垂水組には及ばなかったが、関西から関東にかけて傘下の団体を多数置く広域暴力団であった。

ここのところ、沢木組単独では立正会を抑えきれず、シマに度々入ってきてはトラブルを起こすようになっていた。 

薫と功太の仕事は数年前なら実に楽なものだったが、今はまさにこの地区が戦いの最前線になっており、緊張感に包まれていた。 

功太は車の助手席で拳を強く握りしめながらいきり立った。 

「兄貴、それにしてもムカつきますわ! 
立正会の奴ら、調子に乗りくさってからに…」 

薫はいつもと同じ冷静な眼差しで車を運転しながら静かに言った。 

「ヤクザにとって一番大切なのはメンツを守ることだ。だが、今の時代、警察の締め付けがきつくて自由に身動きが取れない。 
奴らの狙いはそこにあるんだよ。表立って動きはしない。動いたとしても法に触れるか触れないかの些細な嫌がらせだけだ。
そして、奴らは挑発にウチが乗っかってくるのをじっと待っていやがる… そうなれば何も手を下さなくとも、うちは警察によって潰される。」 

「クソっ! 

垂水組系のウチがなんでやられなあかんねん!俺キレてしまいそうですわ」 

そんな会話をしながら、彼らのシマに到着した。 

「ここですわ」 

功太に案内されて、薫は『something』の中に入った。 
店はまだ開店前でマスターの山田が仕込みを行っていた。 

「マスター、兄貴を連れてきましたで」 

功太が言うと、山田は頭を下げた。 

「新田はん、もう商売になりませんわ、ホンマに。何とかして欲しいです…」 

山田は泣き出さんばかりの表情を浮かべ、薫にぼやいた。
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