Bacato

noiz

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番外編

Creepy night*

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「…テェッ…!」

ガン、と鈍い音を立てて、壁に頭を打ち付けられる。
倉庫に帰りエレベーターを降りた途端だった。
ドロリと血が流れる感覚があり、手を持っていくと掌は真っ赤に染まった。その赤い手をフィーゾに掴まれ、壁に押し付けられる。

―――べつに、こんな事しなくても逃げたりしねぇのに。

フィーゾの思考回路は、多分理にかなっていて、俺なんかにはわかんねぇけど、きっとちゃんと理由があって、こうして不機嫌なレベルまでテンションが落ちたんだろう。俺は誰よりもコイツと居る時間がなげぇから、コイツの感情変化は些細でもすぐ解る。けど、コイツが見てるものは、解らない。どんな計算の元で動いているかも、俺の知ったことじゃねぇし。
だから理由は解らなくても、滅茶苦茶に不機嫌だってことには数時間前には気付いてたし、此処へ戻ってくるなり俺がとばっちりを食うことも解ってたことだった。

フィーゾは俺の予想通り苛立ちを真っ直ぐ俺にブツけてきた。俺が何かしたわけじゃねぇはずだから、俺は理由を聞く気も無い。抵抗だってしねぇし、好きにさせといてやる。だってこれは、いつもの事だもんな。

キスのひとつも無しに、俺の首筋に舌を絡めてるフィーゾは片手でもうパンツごとインナーまで下ろしていた。フィーゾは俺の性器を揉みくちゃにして、乱暴に熱を持たせていく。

こういう時、前なら俺なんか放ってさっさと女を抱きに行っていた。俺で性欲を解消するようになってからは、手近な俺で済ませるようになっている。俺なら女よりも力付くでヤれるし、なんの遠慮もない。女相手なら遠慮してたのかは俺の知った事じゃねぇけど。とにかく、こうして文句の一つも言わず、痛みを伴うセックスに付き合ってんのは、俺がこの立場にある種の快楽を見出しちまってるからだ。

だってフィーゾは女より俺を選ぶ。一番苛立ちをどうにかしてぇって時に、俺を痛めつける。だから、それでいい。痛くて、いい。

「…ッ…!」

いきなり床に叩き伏せられて、髪を掴まれ持ち上げられる。ガンガン痛む頭を、テメェの性器の前へ持ってきて、一言命令する。

「舐めろ。」

それだけ。たったそれだけだ。これが普段なら文句ぐらいは言っていたが、こういう時に口答えしようもんなら傷は倍になる。
インナーから取り出したフィーゾの性器を口に入れて、吸い付く。舌で撫でて、上顎に擦り付けて、根元を先端を刺激する。手で睾丸を転がすように揉んで、フィーゾの性器を硬くさせた。勃起してきたフィーゾの性器に、軽く歯を滑らせて、口内で吸引する。

「もっと奥まで咥えろよ」

上から降ってきた声と同時に、頭を掴まれて喉の奥へ性器を突きこまれる。頭を固定されて前後される性器に、えずきそうになる。苦しさから生理的に浮かぶ涙と、吐き気のする感覚に耐えながら、フィーゾの性器が弾けるのを待った。

フィーゾが声も無く達すると、口内に独特の味と臭いが広がる。喉に絡むそれをなんとか飲み下し、性器を口から出した。糸を引く性器から目を離し、フィーゾを見上げた。

フィーゾは相変わらず冷徹な瞳で俺を見下ろしていた。この瞬間だけは、本当に文字通りに奴隷として扱われていると感じる。悔しいとか腹が立つとか、そんな感情は浮かばねぇけど。多分このとき俺は、虚しいとか思ってんだろうか。フィーゾの性器も俺の性器も、行為に反応して勃つのは容易い。けどこんな事をしていながら、フィーゾも俺も全然欲情なんかしていない。挿れてぇとか突っ込まれてぇとか組み伏せてやりてぇとか、そんな衝動はどっかに眠ったままでいる。まるでそんな衝動は一度も自分の中にあったことなんか無かったんじゃねぇかってくらい、ただ身体が性行為をしているだけだ。ただの感情の捌け口。

フィーゾは俺の胸倉を掴んで立ち上がらせると、壁に押しやった。俺が壁に手を付くと、ローションをブチ撒けられて、慣らしもせずに濡れた性器を突き入れて来た。体内の抵抗を受けてゆっくりと侵入してくる性器に、冷や汗が浮かぶ。壁に額を擦り付けて苦痛に耐える俺を、きっとフィーゾはなんの感情も無い目で眺めているんだろう。

「ぅ、んんッ…!」

根元まで挿入された性器に馴染む時間も与えられない。中こそ切れていないが、痛みと圧迫感に呼吸が荒くなる。
圧迫する性器は壁を広げるように回され、ゆっくりと出し入れされる。長いストロークが二度、三度と繰り返されると、もうそれ以上待つ気はないというように、間隔が速くなっていく。

「あ、んぅッあ、あぁっ…!」

甘い言葉なんかいつだって無いが、軽口すら無い無言のフィーゾに突き上げられていると、哂えてくる。飛んだ肉便器だ。なあフィーゾ、俺たちなにしてんだ? そう問う代わりに嬌声を上げる。
こんなセックスでも身体は貪欲に快楽を拾う。スムーズになった性器の出入りは熱を上げ、前立腺を抉られれば強い快感が走る。その分だけ頭の温度は下がっていく気がする。もっと快楽に支配されてしまいたいのに、こういうセックスの時は意識の飛ぶような快楽なんか得られない。

「あぁッ…う、あぁっんぅッ」

せいぜい息を乱すだけのフィーゾに揺さ振られながら、俺は歯を食い縛る。フィーゾの名前を呼ばないのは、俺の最後の意地だ。はやく終われと内心願いながら、激しい突き上げに声を漏らす。

「ひっ…あっ…あぁ、んッはっあぁぁ…!」

フィーゾの腰の振り方も、ほとんど意地になってるような突き上げ方だった。滅茶苦茶に前立腺を擦られ、今度は大きく抽送し、小刻みに奥を突かれ、耐えられずに俺は精液を吐き出した。

「はぁっ…ぁ…はぁ…」

ドクドクと、体内に苛立ちを吐き出されるのを感じていた。ずるりと性器が抜かれ、床にボタボタ白濁が落ちる。
フィーゾは、壁に縋ったまま崩れ落ちそうになっていた俺を乱暴に引っ張っていって、ベッドに突き飛ばした。
ギシリと悲鳴を上げるベッドに沈んだ俺を、フィーゾは相変わらずなんの熱も無い苛立ちだけの瞳で見下ろしてから、脚を掴んだ。
そのまま横倒しに脚を広げられ、また性器を突き込まれる。脚を掴んだまま乱暴に揺さ振られ、俺は罅割れたコンクリートの壁を見ていた。一度中出しされた内部は、粘着質な音を立ててフィーゾの性器に喰らい付いている。

「あぁ…んッ…あっあぁっ…」

溜息のような声が、勝手に鼻から漏れていく。身体はちゃんと快楽を感じてるって知らせるような、滑稽なほど甘い声。シーツを掴んで、目を閉じた。正常位じゃなくてマシだった。フィーゾの顔を見たくない。

目を閉じていると、時折フィーゾが息を詰めるのがよく聞こえる。身体が高ぶる為に漏らすだけの吐息だ。解ってる。だけど、その動物的な欲を孕んだ吐息だけは、機械的に聞えない。だからそれに集中した。出入りする性器よりも、嬲られる前立腺よりも、フィーゾの呼吸に集中した。それだけで、身体が馬鹿みたいに反応する。フィーゾの吐息が漏れる度、フィーゾの性器を強く絞る。
やがてまた体内に吐き出される感覚。ずるりと抜かれる感覚。

フィーゾは未だ苛立った様子のままで、ベッドを降りた。そしてそのままシャワールームへ消える。
どうせ汗と精液でどうしようもなくなったシーツの上だ。
俺は自分の指を突っ込んで、体内に残された苛立ちの残滓を掻き出した。
厭な感覚と一緒に吐き出された精液が、シーツに零れる。
額の傷が痛い。腰もケツも痛ぇ。痛みしか残んねぇ。
シャワールームから漏れる水音が、トーンの暗い映画で見る雨みてぇだ。

なんだかひどく怠くなって、俺はそのまま目を閉じた。
目覚める時には、俺はこのまま。フィーゾはきっと何事も無かったように服を調えて仕事をしているだろう。

べつに、どうだっていい。
フィーゾが俺でイって、俺がフィーゾでイくんなら。
それ以上なんか無くていい。
この関係に滑らかで綺麗な表皮なんかいらない。
汚れて爛れたケロイドに、醜く固り果てればいい。

「――なァ、キモチイイよなぁ。フィーゾ?」

こんな夜すら快感だって。快楽主義者の唇が哂う。

――そうじゃねぇなら、俺が馬鹿みてぇに無様じゃねぇか。


(バッドトリップによく似た夜を、ジャンキーらしく哂い飛ばせ。)


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