【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第1部 貴族学園編

28 お遊戯会

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「ただいまジョン」
「おかえりなさいませ。坊ちゃま、レティシア様」

 貴族学園から帰ってくると、いつものように執事のジョンが迎えてくれる。母様が引きこもり期間になったので、物音を立てないように静かに歩く。

「レティシア様、こちらを」

 リョウ君と別れて自室に戻った私に、執事は魔石の入った箱を渡してきた。

「お願いします。お遊戯会で必要になる魔道写真機用の魔石です。補充が必要ですので」

 空っぽの透明な魔石を見て、私はうんざりした。

「これ、ちゃんと保護者会から料金取った?」

「お嬢様は今、体調を崩されておりますので、私の方で書類を準備しました。魔石分の料金も加算して、公爵家へ送付してございます」

「そう、分かった。今、疲れてるから、後で補充する。置いといて」

 執事は何も言わずに、机の上に箱を置いて立ち去った。

 執事は、母様の実家から連れて来た使用人だ。母様のことを奥様と呼ばずに、お嬢様と呼ぶ。
 まあ、うちの両親は結婚してるって言っても、1年に3日会えればいい方。一夜の過ちの責任を取って結婚したっていうのは有名な話だ。

 平民になった貧乏伯爵家の母様と、当時は稼ぎの悪い冒険者だった父様の結婚。二人を援助したのは、今は公爵家の当主になった父様の兄だった。金銭的援助の見返りに、私を娘にするという条件をのんだ。

 お金のためとはいえ、赤の他人を育てるのは大変だっただろう。

 だから、たとえ、子供には危険がある魔石の魔力補充でも、私は恩に報いるためにやらなきゃいけない。そうだよね。母様。

 ガラス玉のように透明で丸い魔石を一つ手に取る。ぎゅっと握るとすぅっと魔力が吸い取られていくのを感じる。
 すぐに魔石が金色にかがやくのを見届けて、次の魔石を手に取って補充する。あっという間に、箱の中は雷の魔石でいっぱいになった。

 まあ、わたしは、転生者魔力チートがあるから、これぐらい簡単なんだけどね。

 箱にふたをして、ベッドの下に隠す。リョウ君に魔石補充のことがバレたら、心配させてしまうから。母様も執事も、リョウ君に内緒で依頼する。

「姉さま?」

 控えめなノックの音とともに、着替が終わったリョウ君が部屋に入ってきた。
 私達は家にいる時は、いつも一緒だ。

「メアリがおやつを用意してくれたよ。一緒に食べよう」

「ありがとう。じゃあ座って食べよう」

 おやつを食べた後は、リョウ君は「魔道具の開発と修理」の本を読み、私は地図を眺めながら、一緒に夕食まで過ごす。
 通いの料理人が作ってくれた夕食を食べた後は、メアリの助けを借りて、入浴して、それから、また二人で読書する。そして、就寝。私たちはくっついて一緒のベッドで寝る。いつも一緒。リョウ君さえいれば、他には何もいらないって思う。ずっとこのままでいい。私の大切な家族。




 お遊戯会当日、まだ母様は部屋から出てこない。食事はメイドが運んでいるし、夜中に執事が入り浸っているんで、元気だとは思う。でも、参観には来ないんだね。リョウ君は母様の来ない寂しさを全く表に出さずに、私の手を取った。

「行こう、姉さま。今日は魔王の役をしっかり演じるからね」

「うん。私も城下町の人をがんばってやるね」

 全然やる気はないけど、リョウ君やタンポポ組のみんなが楽しみにしてるから。

「行ってきます」

 私たちは、母様の部屋に向って小さい声でつぶやいた。



 貴族学園には、いつもよりもたくさんの警備騎士がいた。近衛騎士の姿も多い。今日はもしかして、来賓で王族が来るのかな?

 私の予想は当たった。「光の聖女」の合唱をするため舞台に上がったら、真ん前の観客席に王太后と王妃の姿が見えた。二人で何か話している。

「光の聖女~勇者を助けて~魔王の闇を~♪」

 歌いながらも、気になって仕方なかった。みんなも同じだよね。指揮者じゃなくて、そっちを見てしまう。威厳のある厳しい顔立ちの王太后、そして、その隣に座っているピンクブロンドの髪の美女。初めて見る王妃は、年齢を感じさせないかわいらしい容姿をしていた。この人が、真実の愛の劇で有名なフローラ妃……。賢くて優しい、国王の幼馴染み。
 強い視線を感じた。王妃じゃなくて王太后の方からだ。目を大きく見開いて私を見ている。タンポポ組のステージが終わるまで、ずっと王太后は、私から視線を外さなかった。


 合唱が終われば、急いで劇の準備をしなければいけない。教室に戻ってきた私たちは、マーガレット先生にせかされながら男女に別れて急いで着替える。私の城下町人の役の衣装は、普段着のワンピースだから簡単だ。衣装っていうよりも、ただの私服に着替えた私達は急いで講堂にむかう。

「そこのもの! そこの紫の目の娘!」

 集団で移動する私たちは、突然、近衛騎士に行く手を遮られた。紫の目の娘。私のこと?

「主人がお呼びだ。着いて来い」

 居丈高に命令する怖そうな近衛騎士。

「姉さま!」

 リョウ君が走って来て、隣に立った。

「ぼくたち、今から劇があるんです。一生懸命練習したんです」

 リョウ君が私をかばって、近衛騎士に立ち向かってくれる。

 怖い顔の騎士の隣で、優しそうな顔の騎士が、私とリョウ君にしゃがんで顔を向けた。

「紫の目の女の子を呼んでくるようにっていう王族の命令なんだ。それが一番優先されるんだ。ごめんね。でも、他の子は行ってもいいよ」

 理不尽だ。王族が私に何の用事があるの? 私が下級貴族だからって、遊戯会をめちゃくちゃにしていいの? マーガレット先生に抗議してほしくて、顔を見ると、笑顔でうなずかれた。

「早く行きなさい。レティシアさん。あなたの役はいなくても全く困りません。王族をお待たせしてはなりません」

 ……ひどい。
 心配しているリョウ君に「すぐ戻る」とささやいて、二人の騎士の後を付いて行く。私に合わせてゆっくり歩いてくれた騎士の行き先は、貴賓室だった。

 重厚な扉が開けられ、衝立で仕切られた応接セットに案内される。豪華なテーブルとソファー、高そうな絵が飾られてる。でも、そこには、誰もいなかった。

 どういうこと? 

 騎士を見上げると、困ったように微笑まれた。

「お二方は王太子様の演劇を御覧になられます。それが終わりましたら来られますので、ここで待っていてください」

 ……ひどすぎる。その演劇って、私も出るやつ。どうせ、それを見てから来るんだったら、私を今、連れてこなくてもいいんじゃない? 何の嫌がらせ? だいたい何の用事があるっていうの? 園児に!!

 二人の騎士のうち、背の低い方は、優しそうな顔をしていた。私は、その騎士に向けて泣きまねをした。

「うっ、ひっく。私、何か怒られるの? うっ、演劇、ひっく、いっしょうけんめい、練習したのに、しくしく」

 ちょっと、嘘っぽいかも。私、演技下手だなぁ。
 でも、優しそうな方の騎士さんは騙されてくれて、メイドにジュースとお菓子を持ってくるように頼んだ。もう一人の怖い顔をした騎士は、

「なぜ泣く。王族から声をかけてもらえるのは光栄なことだ。聖女様の子孫である高貴な血筋のお方に呼ばれるなど、お前たち下級貴族にとっては、またとない名誉だ」

 なんでそんなに王族リスペクトしてるんだろう? でも、それを言うならば、王太后は公爵家の出身、王妃に至っては男爵家の出身だから、二人とも、聖女の血筋じゃないよ。
 その高貴な血筋って、どっちかっていうと私なんだけど、それがトラブルの原因なのかな。やっぱり目の色のことでいろいろ言われるのかな。王太子にもさんざん言われたし。でも、私だけ呼ばれて、リョウ君にまで及ばなくて良かった。
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