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本編

-97- ダンス アレックス視点

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「普段履いたことはないけれど、舞台で履いたのはこれより高いヒールだったよ。3時間の舞台で2時間でずっばだったし、ダンスも勿論あった。
こっちのダンスとは違うかもしれないけれど、それが1日3公演、20日間やったんだ。半年以上前だけれど、今回はブーツだし、途中休憩も入るでしょう?ならせば大丈夫だと思う」
「え……これより高さのあるのを履かれたので?」
「うん、多分、女性用のと同じだと思うけれど」
「女性もこれ以上はこの国では履かれませんよ。女性でもヒールの高さはこの4つです」
「そうなの?アレックスは背が高いから、僕がこの一番高いのを履いたくらいが並んでもダンスをしても綺麗に見えると思うんだけれど」
「それは間違いないでしょう」
「なら、この一番高いのでお願い」

これより高い?一体どんな靴なのか。
舞台公演も随分ハードだ、聞いているだけで疲れてくる。

「心配しなくても、ちゃんと履きこなすから大丈夫だよ。アレックスの隣に立つんだから恥じない…ううん、一番良く見せたい」
「けどな…」

気持ちは嬉しいが、その気持ちだけで十分だと思った時だった。

「でしたら、貸出用のものがありますから、試しに履かれてみますか?ぴったりは難しいかも知れませんが、近いものでしたら今ご用意出来ます」

店主が良い提案をしてくる。
少しでも無理をしているようなら、下から二番目の物にしてもらえばいい。

「うん。なら、お願いしてもいい?新しいブーツが出来るまで、慣らしでダンスの練習につかいたいから、借りれると嬉しいな」
「もちろんです。いくつかお持ちします」
「アレックス、履いてみて歩けないくらいだったら、諦めて低くするから。それなら良い?」
「わかった」



「これが一番安定するし、大きさに合ってるかな。ここで歩いたり、ステップを踏んでみてもいい?」
「ええ、どうぞ」

すっと、一歩を踏み出したレンは最初の一歩こそ迷いがあったように思えたが、二歩三歩と歩み出るうち、それもなくなり、綺麗な所作で歩く。
あの高さの靴を、危なげなく、だ。
軽くステップを踏んだかと思うと、見事なリズムと高度な動きを見せる。
や、見せるというより、魅せるといった方が正しいか。
回転も軽々、軸のブレも一切ない。
すげー綺麗だ。
美しい上に妖艶で、しかし、どこか可憐さがある。

普段のレンとはまったく違う雰囲気だ。
や、普段も普段でもの凄く可愛い上に可憐だとは思う。
が、なんだ、上手く言えないが、そう、何故か別人に見える。

俳優だった、というが……本当に、本当に努力を重ねていたんだろうな。

「うん、大丈夫そう。やっぱりヒールは1番高いものにするね。それと、これを今日から借りてもいい?」

レンが嬉しそうに伝えてくれるが、俺はすぐに返事が出来なかった。
だが、店主も、セオやレオンですらも、驚きの顔でレンを見ている。

「レン……それを履いてそんな複雑なステップと回転ができるのか?」
「こっちのダンスはわからないけれど、うん…だから、練習すれば大丈夫だと思う」

そりゃそうだ。
そんな動きが出来るなら、こちらのダンスくらいすぐに覚えて完璧に踊ることが出来るだろう。
覚えてもらうのはゆったりとした曲調の全3曲だ。
俺と一曲、師匠が出るか出ないかわからないが、何となく今年は出そうだと一曲、そして万が一の皇族相手に備えて一曲。
それで十分事足りる。

「これは…最初から上級ステップで問題なくいけそうですね」
「レン様に合わせたら、アレックス様の方が稽古を必要なのでは?」

セオとレナードが唸るように口にする。
確かにそうだ、俺の方がヤバいだろう。
なんせ、祝賀会でダンスをしたことはない。
相手がいなかったからだ。
学生の授業時に踊ったきりである、それも相手に触れることなく、だ。
いいのか?レンの相手が、ドヘタな俺で。
これは……どうしたらいいものか。
祖母さんに、なんとか指導してもらえるだろうか。


「何か駄目だった?」

レンが心配そうに見上げてくる。
不安にさせてしまったらしい。

「いや、…俺は、ダンスが苦手なんだ。レンの足を引っ張るだろうな、と」
「じゃあ一緒に練習しよう?アレックスは忙しいから、ご飯の前にちょこちょこ毎日少しずつ。アレックスと練習できるなら嬉しいよ」
「わかった…ありがとうな、レン」
「うん」

嬉しそうに一緒に練習しようと誘ってくれるレンは、閉じ込めたくなるくらいに可愛い。
ドヘタな俺がいきなりうまくなれるわけはない。
三曲覚えるレンと違って、俺は一曲覚えればいいだけだ。
最初の曲は決まっているし、伝統である曲だ、変わらない。

本番でも、レンが楽しそうに踊ってくれるよう、まずはそこを目指そうか。
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