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本編

-167- あくまでも可能性のお話です オリバー視点

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「もしおはぎのやることが、アサヒが妊娠しているためだとしても、おはぎのいないときにもアサヒは紅茶を飲んでいるし、酒も飲んでいるよ」

お酒やお茶は、妊娠がわかってからは控える話で、妊娠前にも控える者はあまりいません。
そのどちらもアサヒはほどほどにしか飲むことをしませんが、もし、おはぎの“美味しくなる魔法”とやらが別の何か、妊娠しているアサヒのためだとしましょう。
だとすると、それはそれでいない時もある状態が、逆に不自然でしょう。

「おはぎさんは妖精ですよ、アサヒの眷属の。アサヒの中にいれば魔法をかけることは容易です」
「それに、妊娠が理由だとしたら、先に私に自重しろと言ってくるだろう?おはぎは私に遠慮なんてしたことないよ、全く、これっぽっちも、ほんの少しもだ」
「それは………」
「それに、妊娠していたら毎日土人形相手に特訓とやらをするかい?それこそ注意が必要だろう?」
「………」

ああ、タイラーが黙ってしまいましたね。

「おはぎに直接確認したわけではないんだろう?」
「ソフィアは兎も角、私とおはぎさんとが二人きりになるタイミングはそうそうございません」
「まあ、そうか」

アサヒのいるところでは、聞きにくい話ではありますね。

「わかった。そんなにタイラーが心配するなら、次にシリル君の家へ往診する際、医者にこっそりと聞いてみることにするよ。
おはぎの眷属が見えているほど人の鑑定が見抜ける者なら、妊娠しているか否かもわかるはずだ。
それで、もしアサヒが妊娠していると言うなら、私も対応を変えるよ。それでいいかい?」
「……畏まりました」

妊娠、妊娠ですか。
これだけたくさん愛し合っているのでその可能性がないわけじゃないんですよね。
寧ろあっても良いはずなのはわかっています。
アサヒは神器様です。
女性と違って妊娠しにくい日などがあるわけでもなく、いつでも妊娠しやすい身体をしているのです。
そういう身体に作り変えられているのですから。

ただ、もう少しだけ私だけのアサヒでいて欲しいだけです。
それに、この私が父親ですよ?
あまりにも頼りない気がしませんか?
もう少し、自覚が芽生えるまで待っていただきたい。
ですが、もし妊娠していたら?
アサヒとの子供ですよ?
嬉しくないわけがありません。

男の子でしょうか?それとも、女の子でしょうか?
男が生まれる可能性が大きいとはいえ、女の子が生まれることも少なからず可能性はあります。

女の子……え、女の子?
それはマズいですね、非常に。
アサヒに似ても私に似ても、どちらにしても見目美しく魔力の高い女性になってしまいます。
もし女の子であったら、生まれる前から良い嫁ぎ先を探しておかなくては可哀そうなことになってしまいます。

ああ、でも万が一にでもそうであったら、それこそ母上に相談すればよいことですね。
なにせ、母上がその前例です。
これほど心強いことはありません。

私が自由にやりたいことをさせて貰えているように、私の子供にも自由を与えてあげたいと思います。
それが難しい状況だとしても、自分で選択させてあげたい、とも。
私と同じように植物に興味があるのでしたら、教えてあげられることは多いでしょう。
それはとても嬉しいことですが、でも、興味がないのに引き継がせるようなことはしたくありません。

私たちの子供が私の仕事に興味がなくとも……そうですね、もっと私がタイラー程の年になったら弟子でもとりましょうか。
そのころには、アサヒとふたりでエリソン侯爵領に戻るのもいいかもしれませんね。
子供たちも立派に成人し、家族を持っているでしょうし。
エリソン侯爵領はここから馬車で一日ほどしかかからないとはいえ、自然も多く、豊かな土地です。
ゆったりとした時間が流れ、治安もいいですから暮らしやすいはず。

先はずっとずっと長いです。
まだ人生の折り返しにも至っていません。
寧ろ、これからです。


窓の外をぼんやりと眺めながら、遠い先の未来に思いを馳せては、しばらく幸せに浸るのでした。
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