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本編

-135- 毛生え薬

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コポコポと液体の沸騰する音がやけに耳に響く。
こうしたらどうか、との口出しは出来ても、実際の調合に関しちゃ横で見守るだけが殆どだ。
偶に、取ってほしいものがあれば言ってくるくらいで。
だが、俺がいること自体に意味がある。
俺がいるだけで、オリバーの魔力が2割ほど増すからだ。


シリルん家に行って、その帰りにデートをした日から、一日が経った。
昨日は、帰宅後早速作りたいと思ったが、『明日にしましょう』と言われてしまった。
まあ、あれだ。
昨日から作り始めたら、二人して夜中まで没頭していただろう。
俺もオリバーもやり始めると何かしらの結果を求めちまう傾向がある。
そりゃあ、俺は、日が回る前には明日にするか、という選択が出来る。

だが、そんな時間になれば、大人しく寝るという一択で。
大人しく寝るってことは、睡眠ってことだ。
あまり怠惰なことはしたくない。
朝のルーティンのなにかしらを削らなくちゃならない事態はできる限り遠慮したい。

そんなわけで『明日にしましょう』と笑顔で言われちまったが、『明日にしましょう』ってことは、『今夜はしましょう』
と言っているようなもんで。
1日おきにしてるっつったって、昨日したら今日はしないっていう決まりがあるわけじゃないし、続けてやったって別にいいわけだ。

溜めてやるより小出しにされた方がいい。
セックスの体力と持久力っつーのは、普段の運動とどっか違う。
オリバー相手じゃ、全力出されたら大変なことになる。
そうそうそんなことにはならないけど、それはそれで喜んでる俺は、すっかり恋愛馬鹿になっちまってる。

あ。
そういや、神器の生態について、結局聞けてない。
俺もすっかり忘れてたし、オリバーも忘れてるだろうな。
タイラーより先にオリバーに聞かないと、タイラーの小言が飛ぶに違いない。
今日こそ聞いておこうと思いながら、薬瓶に移し替えるオリバーの横顔を見つめる。
ほんと、マジで作りがいいよなーずっと見てられる。

「……そんなに見つめられると手元が狂いそうです」
「頑張れー」
「………」

頑張れと言えたのは、オリバーが手元から視線を逸らさなかったからだ。
そのまま流し目で見られでもしたら、俺にはそんな余裕はなかったに違いない。

何か言いかけて、オリバーの口が閉じる。
と、同時目を見開いて薬瓶をしげしげと見つめている。
俺もそちらへと視線を移し……おう、出来ちまった。

「本当に出来ましたね」
「もっと時間かかると思った」
「最初の2つも全く効果がないというわけではありませんしね、寧ろ、あれはあれで抜け毛に特化してますから、別の商品になりそうです」
「だな。ってなると……あとは使用感か。実際に試してみてからだな」

くん、と匂いを嗅いでも、ハーブ系の香りだけに思えるがよく分からん。
すぐ隣から良い匂いがしてくるからだ。
熱い薬瓶を素手で持つわけにもいかない。

「ちょい離れて」
「なぜ?」
「お前の良い香りでよくわかんねーからだよ」
「ああ、なるほど」

納得したオリバーは、笑いながら手袋をつけた手で使い終わった機材を片付け始めた。

もう一度嗅ぐ。
うん、ハーブ系のすっきりする香りだけだ。
磯臭さは一切ない。
ハーブの香りもキツくないから使いやすいはずだ。

「3つ目に至っては、昆布の臭いはほぼ消えたと思いますが」
「ああ、良いと思う。えーすげーじゃん、オリバー!これきっと商品化したらめちゃくちゃ売れるぞ」

褒め言葉と共に深い口付けを送る。
これだけ試せば結構疲れただろうし、魔力も消費しただろうし。
浄化するのも辛い……かどうかはわからねえけど、まあ、やっといて良くなることはあっても、悪くなることはねえだろうしな。

俺は魔力譲渡中がよくわからん。
魔力が体感的に抜けたと分かったのは、あのおはぎが憑依した時だけだ。
オリバーとの口付けは、ただ、気持ちがいいだけだ。
心も、身体も、両方。

「ありがとな」
「……お礼を言うのは私の方では?」
「お義父さんへのプレゼントにしたいがためだったし、まんま私欲だし」
「ああ、それで。てっきり―――」
「っキスのお礼じゃねーっての」

楽しそうに笑うオリバーを目に、気分も機嫌も良さそうでほっとする。
魔力も満たされただろう。

「タイラーはふさふさですし、別邸の方で試して貰いましょうか。
薬剤鑑定から、効き目があることは確かですし、副作用があることも無いと思いますが、どの程度の期間で目に見える変化がでるかは分かりかねますから」
「わかった」





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