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本編

-136- 一緒に

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ハンドクリームと違って実際に効果が分かるのに時間がかかる毛生え薬は、すぐにアレックス様に話を持っていくわけにはいかない。
が、その準備くらいは出来る。

特許関連の申請書類は複数に及ぶ。

昆布を使うってのが、まず今までにない、と聞いたからだ。
昆布は海藻、南東の海で取れるもので、こっちの世界じゃ、海の植物に分類されるらしい。
勿論薬草でもなんでもない。
俺には見えないが、もとの世界の知識があっただけだ。

オリバーは海草でも見えるというから、抵抗なく扱えたんだろうな。

俺にも調合のスキルがあるから、たまにおはぎと一緒に調合している。
眠り薬だとか、解毒薬だとか、腹下しの薬に、催涙薬……護身用で作るそれらは物騒なものが多く、特許なんて以ての外だし、大っぴらに使えない代物で、もしもの時に内々でこっそり使うためにこしらえた品々だ。

おはぎはいつも指示だけじゃなくて、棒切れ片手に手を加えてくれる。
だが、通常は、全ての過程を1人で行った方が上手く行きやすいという。
その方が魔力の馴染みがいいそうだ。

複数でやる時は、相性のいいもの同士が最初から最後まで一緒に行うのが成功しやすく高い効能になるらしい。
が、かなり高度な技術が必要だという。


オリバーは、植物研究家であり、薬師だ。
それで生きているし、一点突き抜けている。
調合スキルがある神器を望んだのは、自分の代わりをしてもらいたいってわけじゃねえはずだ。
大体、植物も調合も楽しそうにしてる。
サポートはしても、そこを邪魔したくはない。

だから普段は、オリバーが手が欲しい時だけ手伝っている。
そこのなんちゃら取ってください、だとかそういうやつな。
俺は、オリバーの手柄を横取りしたくない。

調合には魔力制御が絶対だ。
俺はスキルを持っていても、こんな性格だからか魔力制御も雑だ。
料理みたいなもんだと思う。
同じ材料を使って、おんなじ分量を使っても、作り手が違えば味は変わる。
俺の料理は、見た目も味も大雑把だと言われたことがあるし、自分でもそう思った。

こっそり行う“調合のお時間”だって、おはぎの指示がないと、きっと失敗するかへんてこなもんが出来上がってたはずだ。

調合中、魔力を注ぐときもイメージ重視だから、水道の蛇口を想像してる。
俺は無意識に蛇口を一気に捻りがちだ。
未だにおはぎから『アサヒ、もっと細ーく!』なんて言われるしな。
草木に魔法で水をやるより、攻撃魔法を使うより、薬を合わせながら魔力を注いでいくのはずっと難しい。

目に見えないからだ。

目に見えないにも関わらず、素材や調合の仕方によって微妙な調節が必要だから、それがまた難しい。
薬師っつーのは、魔力が高ければ高いほどいいわけでもないんだろう。
現に、魔力を注げるだけ注ぐ行為がいいわけでもない。
魔力が高いと制御するのもそれだけの力が必要らしいからだ。


けど、お義父さんに渡す分だけは、一緒に調合してみたいと思っちまった。
オリバーが作ったのをあげるんじゃなくて、一緒に作ったのをあげたいっつーのは、それこそただの俺の自己満足だ。
それに、言うのに勇気がいる。

「なあオリバー……お義父さんの分だけ、俺も一緒に調合してみたい」
「………」

びっくりするような顔でオリバーは俺を見てきた。
あー……やっぱ、一緒には、駄目……か?
オリバーの助言を受けつつ俺が作るって方がまだマシなのか?

「や、最初は失敗するかもしれねーし、オリバーが作ったほうが品が良いんだろうけどさ。
けど、一緒に作ったのを渡したいんだ。
俺はスキルを持っていてもお前ほど制御上手くないし、お前が無理だと思うなら───」
「いえ、そんなことはありませんよ」

オリバーはすぐに穏やかな表情で否定をしてくれた。
そのことに、酷く安堵する。

「私は誰かと一緒に調合したことがありませんが、アサヒとならやってみたい。
アサヒはいつもそばにいて手伝ってくれてはいても、やってみたいと言われたことがなかったので驚いてしまいました。
不安にさせてしまってごめんなさい」
「や、俺も無理言ってるのは自分で分かってるから」

ごめんなさいって言葉で謝っていても、伝わってくるのは愛情だ。
あなたが好きですって言われたような感覚と変わらない。
スゲー照れる。

「そんなことはないと思いますよ?私とアサヒは魔力の馴染みがいいですし、それに昆布は植物ですが海の植物です。陸の植物とは違うので、水属性の魔力を持つアサヒの方が扱いやすいと思います。
効果自体も、もしかしたら高くなるかもしれませんね」
「え?そうなのか?」
「ええ。全体量はそれ程多くないので、木属性と掛け合わせるのは理想的なはずです。
今出来たのは少量ですから、試作品で練習しましょうか」
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