異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-96- ぱっとうまくやる

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「てか、美人限定ってところが私欲に走ってるよな。
魔力の高い子供は国のためとか言うなら、別に容姿なんて関係ねー……あ」
「?」
「つーか、どっかの貴族が十中八九関わってるぞ?」

「……考えたくありませんが何処かの貴族が斡旋しているかもしれませんね」
「ああ。もしくは、教会が資金調達のために裏で間取り持つ事業でもしてんじゃねえか?お相手はどこかの貴族で、ぎり20いくかいかないかまでの魔力量ならいけるだろ?たしか、神器様ってのは、5年に一度しか召喚できない上に、馬鹿高い申請金が必要なんだよな?」


魔力の関係性は、蓮君と会った後に、タイラーから少し深堀してもらった。
闇属性のことももう少し知りたかった。
それに、おはぎが俺の魔力はおはぎよりずっと少ないだとか、オリバーの魔力をすんごく少ないだとか言うから、一般的にどうなのかってのも知りたかったんだよな。
オリバーが22、俺が67。
属性に関してはオリバーが望んだくらいだ、文句のないほど相性がいいらしい。
魔力量に関しても、かなりいいとのことだ。
母体となる側は、高い方が望ましい。
倍あれば、安全性が高い、とのこと。
倍?と思ったが、腹の中の子供の魔力が自分の魔力より高いと悪阻が辛い上に難産になることが多いらしい。
万が一双子なら、その魔力量は倍になる。
だから、単純に倍あると望ましいんだとか。

けど、望ましいだけで低くても子供は産める。
その差は5以下であれば問題ない、とタイラーは言っていた。

じゃあ、高けりゃ高いほどいいってのもそうではないらしい。
高すぎるってのも、魔力譲渡の際には注意が必要なこともある。
魔力の大きさが、あまりにかけ離れていると、一気に貰うことがあれば…つまり、立て続けに精液飲んだり、潮吹きのあの水を飲んだりしたらってことだろうが、魔力酔いっつー、強い酒に酔うような症状を引き起こす場合があるみたいだ。

光と闇に関しては、母体が光と闇なら、相反するその属性を避ければ、妊娠は可能だってことも聞いた。
だが、父親となる側、つまりタチだな、そっちが光なら光、闇なら闇に限るらしい。

ってことは、だ。
ただでさえ少ない光魔法で10以上なんて、早々滅多にいないはずだ。
聖職者に女性がいなかったんだから、まず間違いない。
教会が自分たちの子供が欲しいと狙うなら、どう考えても聖女だろう。


「ええ、まあ…はい、そうですね」

先の質問の答えの歯切れが悪いが、俺が神器だからだろうな。
金で買われたのは確かだが、俺はオリバーで運が良かった。

「で、申請しても漏れるし、受理されないこともある」
「ええ」
「教会は申請者の把握もしてるのか?」
「横流しされなければしていないはずです」
「けど、選定式でどの貴族がどのくらいの魔力量か、属性は何かは把握してるんだよな?
貴族の子供も把握されてる。なら、子供がまだいない貴族だとかはある程度は把握してるはずだ。オリバーが言うようにどっかの貴族が斡旋してるってんなら、もっと前に、正確に把握してる」
「ええ」
「例えば、神器の申請は漏れたが、すぐに子供も授かることが出来る女性が見つかったならどうする?おまけに美人だ」
「…欲しがる貴族はいるでしょうね。神殿に探りを入れるよりは貴族側に探りを入れたほうがまだなにか出てきそうですね」
「ま、ぜんぶ憶測の域だけどな」

男を欲しがる病がどういう状態なのかもわからない。
何かが理由で、それが解けたという話もないなら、推測でしかない。


「妊娠後に病が直った女性がいるようです」
「は?」

パカパカとした蹄の音がやむ。
どうやら、目的地に着いたようだ。

「とある女性の両親は、神殿に行かずに婚約者に縋りました。
婚約者は少女が若かったために最初は渋りましたが、このままでは辛いままだと求められるだけ肌を重ね、子を授かりました。
すると、どうでしょう。少女の病はすっかり完治し、今まではなんだったのかと不思議なほどに元に戻ったそうです」
「なんだそりゃ、んじゃ真っ黒じゃねえか」
「ですが、証拠がないんですよ。せめて対処できればいいのですが」

馬車の扉が開き、医者と男性に続いて家に足を踏み入れる。
扉の外からでも、少女の叫び声が時折響いてたが、家に入ると異常なことがわかる。

「これは……」

オリバーが言葉を失うのも無理ない。
部屋は荒らされてめちゃくちゃだし、美人だろう少女の服は半分はだけてる上、周囲に独特な甘酸っぱいにおいが立ち込めている。
母親らしき女性が、少女を全身で抑え込んでるが、ギリギリだったのだろう。

「あんた!もう無理よ、私も限界よ!」
「医者と薬師を連れてきた!」
「医者?うちにそんなお金は……っ」
「ああ、だが、見るだけなら無償で良いと。先生、オリバー様、どうしたら?」

どっちもすぐに動けないか…確かに、この状態じゃ、悪魔憑きだとか言われたらそれで納得しちまうのかもしれない。
それほど、異様な状態だ。
とりあえず、あの少女も限界だろう、眠らせたほうが良い。

「先生、鎮静剤は?」
俺が聞くと、はっと我に返った医者が口を開いた。

「いや、鎮痛剤と睡眠薬はあるが、どっちも飲み薬だ。
そんな強いもんは持って来とらん」

やっぱりか……、そもそも、ネストレさんの往診だけだったからなあ。
オリバーも、気を取り直したのだろう。

「この状態は酷ですから、とりあえず一度眠らせたほうが良いですね…ただ、鎮静剤が……」
「あー、俺が、持ってる」
「え、アサヒが持ってるんですか?」

医者とオリバーがびっくりしたような顔で見てくる。
医者は俺のことを、オリバーの嫁さんとしか思っていないだろうから、驚いてるんだろう。

俺が持ってるのは、即効の鎮静作用がある匂い玉だ。
タイラーに助言をもらい、蔓の種以外にも、もしもの時のためにと、色々と制作中だ。
書斎にある製薬本を見本に、オリバーに内緒でこっそり作った。

「ただ、護身用だから、1時間もしたら目覚めちまう」
「それでも今の状態よりはマシです。…ああ、これなら後遺症の心配もないですね」

オリバーに見せると、オリバーはそれをそっと手に取り頷き、少女に向かおうとする。
俺はそれを、腕を引いて止めた。
なんでかって?
そんなのぜってー失敗するからに決まってる。

「俺がやる」
「私がやります」
「お前、ぱっと近づいてぱっと嗅がせること出来るのか?」
「出来ないかもしれませんが、私がやります」
「俺がぱっと近づいてぱっと嗅がせる。ぜってー捕まらねえように出来る。お前出来る?」
「…出来ないと思いますが、嗅がせることは出来ます」

あー、なんでこう頑固なんだ。
てか、なんでやる気んなってんの?

「俺、お前があの子に触れられたら今日口きかないし、帰っても続きしねーから」
「そんなっ!……困ります」
「俺も困るの。な?わかった?俺がぱっとうまくやる、おっけー?」
「…はい、おっけーです」

やけくそ気味に聞き返し、匂い玉をオリバーから奪い取るように手の中に納める。
……あー、くっそ、そうしょぼーんとされると、お前の方が気になっちまうだろうが!
駄目だ、集中力が乱れる。
先にこっちオリバーをなんとかしねーと。

「お前は、ここであの子の気をそらしてくれよ、な?」

ずるいと分かっていても、こういう時こそ媚びた目と表情を使う。
あからさまでも、こういう視線と表情に弱いのはもう知ってる。

「っ…わかりました」

陥落するオリバーの胸元に手の甲で軽く叩いて、了承に応える。

少女がオリバーに気を取られてる間に、死角から距離を詰めて近づき、少女の顔の前で匂い玉を潰す。
びっくりしたような親御さんたちと目が合い、慌てて息を止めるように言うと、二人してお互いの口元に掌を当てる。
大変息の合った夫婦だ。

香りを吸い込んだ少女が、ふっと意識が遠のくように倒れるのを、両親がしっかりと支えた。
よし、うまくいった。

「アサヒ、魔法をなにか使いましたか?」
「え、今か?使ってないけど?」
「それなのにそんなに早く動けるのですか?」
「だから言っただろ、ぱっと近づいてぱっと嗅がせるって」
「あー…はい、そこまでとは思わず」

なにやら唸るように眉を寄せるオリバーだが、俺の俊敏さなんて今はどうだっていい。
それよりも。

「俺の動きは今はいいだろ?それより、どうする?」
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