異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-78- 世に出すべき薔薇

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「鉢植えもって階段上れる?」
「うん。おじいちゃん右肘痛めているから、僕が持つ」
「そっか、偉いな。ゆっくりでいいからな」
「うん」

鉢植えを持ってやることも出来るが大事そうに抱えてるから、それを取り上げたくない。
後ろからいざという時には鉢植えと子供両方支えられるよう気を配る。
うんしょ、うんしょと上る子供に、目を向けながら、エマさんにも一応声をかける。
見た目だけで判断するのは、商会としてよくないと思ったからだ。

「エマさん、人を見た目で判断するのは良くねえと思う。現にすげー損してるよ」
「はい。どなたにも丁寧に対応するという商会員としての心得がありますが、厳しい指導が必要なようです。ありがとうございます」


エマさんが部屋をノックすると、どうぞーというコナーの声と同時に扉が開く。
エマさんが開けたんじゃない、オリバーが内側から開いてきた。
ドアノブに手をかけようとしていたエマさんがびっくりし、やりそうだと思っていたので俺がエマさんを背にかばったから良かったものの、じゃなかったらオリバーとエマさんがニアミスしてたぞ。

「おかえりなさい。待ちくたびれてしまいました」

当然のように俺を抱きしめてくるが、本当に俺じゃなかったらどうするつもりだ。
エマさんが目を丸くして俺とオリバーを見ているし、じーさんも子供もぽかんとした目で俺らを見ている。
本当に勘弁してくれよ。

「ちょ、オリバー、ここ家じゃねえんだけど!」
「ああ、そうでしたね」
「やりそうだと思ったけど、お前もう少しでエマさん抱きしめてたぞ?ちゃんと相手確かめてからにしてくれよ。
それに、もし万が一強盗とかだったらどうすんだ」
「すみません…」

さっきまで笑顔だったのに、しゅんとして悲しそうな表情を俺に向ける。
言い過ぎたか?けど、少し外だってのを自覚して欲しい。
奥で盛大な笑い声がするのはアレックス様だ。
本当に顔に似合わず笑い上戸だよなあ。

「あー…待たせてごめん、言いすぎたよ。えーと、オリバーにこの子の薔薇見てもらいたくて」
「え……、これは?っ凄いですね、君が育てたのですか!素晴らしい良い手をしてますね!」
「中に入って、アレックス様も一緒に見てもらわねえ?この商会で取引できなかったんだ」

「え?噓でしょう!?こんな素晴らしいものを?」
「だから俺が引き留めたんだって」
「ですが、この薔薇が量産出来たらぼろ儲けですよ?本当に?」
「マジだって言ってんじゃん。俺も肉厚ですげーいい香りがするってことくらいしかわかんねえけど、お前ならもっと詳しくわかるかもって思って」
「ならば、見てもらいましょう。こんなに良いものを取引しないなんて、阿呆ですね、この商会は。
アレックスに直接取引してもらいましょうね。…ああ、エリソン侯爵領出身ならばその方が良いかもしれません」

商会長とその秘書目の前になんて遠慮ない言い方だ。
そうは思うも、確かにエリソン侯爵領出身ならば、その方がいいかもしれないしな。
オリバーも、セーターのエンブレムで、すぐにエリソン侯爵領出身とすぐにわかったらしい。


「エマ、新しいお茶とお菓子をお願いね。商会長のコナーです。うちの商会で嫌な思いをさせてしまってごめんなさい」
「いやあ、これが初めてじゃない。どこも一緒だあ」
「それでも、よ。…でも、そうね、アレックスがいるんだから、直接取引してもらうのが良いと思うわ。オリバーもいるんだし」

「アレックス、この薔薇は本当に素晴らしいですよ!目測ですがこの花びら1枚で取れる精油が、現在の薔薇約3000本に匹敵します」
「3000本?1枚で?」
「ええ、花びらの大きさによりますが、一番大きい花びら一枚で、ティースプーン一杯程度の精油が取れます」
「マジか…そりゃすげえな」
「量産出来れば本当に凄いことになります。…特許は?育成の過程はまとめていますか?」

「特許ったあ、必要ですか?」
「エリソン侯爵領で特許をとることも出来るが、お孫さんのためにも自分たちで取ったほうが良い」
「しかしですなあ、研究結果といっても、子供が描いた落書きみたいなもんしかないです。それに、私はあ、お恥ずかしながら字が読めん」
「今お持ちですか?見せてもらっても?」
「うん、いいよ」

背中にしょっていたカバンから、子供がノートを取り出す。
紙はこの世界では貴重だ。
だが、どうやらいらない裏紙を重ねて紐で穴を空けた手作りのノートらしい。
オリバーがノートを受け取って、目を通す。
俺も横から覗き込んだ。
たしかに一見落書きみてえに見えるが、しっかり絵が描いてあるし、過程が細かく書かれている。

「凄いですね、しっかりまとめられていますよ。薔薇そのものがありますからこのままでもいけそうですが、念のため私が補足いたしましょう」
「未成年だから君の名前で特許を取ると、代理人の他に保証人が必要になるけど…」

ちらりと爺さんを見ると、困ったような顔で口を開いてくる。

「私は先長くない。けんど、この子の母親は、病気の弟にかかりきりだあ。
父親は帝都の薬師をしとりましたが、労働環境が良くねえで、倒れてから解雇されたばかりです。
特許の申請には金がかかります」
「ならば、保証人は私がなりましょうか。申請金もお出しします。
これだけ素晴らしいのですから、すぐに元は取れますよ。
利益が出たら、そこから申請金を返していただければ。勿論無利子無担保で結構ですよ。いかがですか?」

特許の申請金は借りてでも申請すべきだ、と思ったところにオリバーがさらりと提案をする。
売り上げの何割か貰う、とかならわかるが、自分自身には全く金にならないようなことを何でもないように口にする。
これがコナーなら保証人になる代わりに確実に何割か要求していただろう。
オリバーが金にならないことも平気でするってことはわかっていたが、俺でもぎょっとした、驚いた。
コナーがあり得ないわ…と呟いてるのが証拠だ。

「しかしなあ……」
「代理人にはひとまずエリソン侯爵領になってもらうといいでしょう。
下手に色々と詐欺まがいの話を持ち込まれても困るでしょうし、問題が起こりそうなら『エリソン侯爵領と取引をしている』で断ると良いですよ。
これは早く世に出して広めるべき植物です」
「なら、取引する代わりに申請金はうちで出すぞ?
保証人はオリバーの方が植物に詳しいだろうし、補足を加えるならそっちの方がいいのかもしれんが」

「君はどうしたい?」

俺は子供と目を合わせるようにしゃがみこみ訊ねてみる。
さっきから、ちょっとないがしろにしている気がしたからだ。

「ん……。特許を取ったら、父ちゃん元気になる?」
「特許を取って、エリソン侯爵領と取引をしたら、お金が入るよ。
多分、君のお父さんが稼ぐよりずっとたくさんのお金が入る」

「なら、お願いします。父ちゃん熱出して寝ながらずっと泣いてるの」
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