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十一話 大きな前進

東郷の事情

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 仲林アナから漂っていた、警戒からの棘々しい空気が消える。どうやら様子をうかがうために、わざとそんな態度を取ったのかもしれない。こういうところは才明らしいと思う。

 おもむろに仲林アナは東郷さんに手を差し出す。

「正代選手が貴方を私に会わせたということは、信用に足ると見極められたのでしょう。我らが領主様の判断に従います。現実で会えて光栄です、華侯焔殿」

「こちらこそ軍師殿に会えて光栄だ。現実は猛将よりも、知識と機転に富んだ者が力を持つ。頼りにしたい」

 快く東郷さんが手を出し、仲林アナと握手を交わす。好意的な態度に変わって俺が安堵を覚えていると、手を離しながら仲林アナがわずかに唸る。

「ふむ。何やら事情があるようですね」

 東郷さんから小さく息をつく音が聞こえる。彼が抱えている重荷が覗いたように思えた。

「……正代君は澗宇から俺との関係を既に聞いていると思うが、俺と澗宇は兄弟で、『至高英雄』がリリースされてすぐにゲームを始めたんだ。まさか弱者を奴隷化し、現実でも搾取するためのものだとは思わなかった。知っていたら弟を参加させはしなかったのに……」

「澗宇殿は領主であり続けている身。あの世界では年若そうに見えましたが、現実でもあの年頃ですか?」

 インタビュー慣れした様子で、仲林アナが質問する。素直に東郷さんは頷き、もったいぶらずに答えてくれる。

「今年で十八になる。俺とは違って病弱で、現実の強さが反映されるあの世界で最弱の存在だ。弟が虐げられないために俺は戦い続けてきたが……どうにかゲームを終わらせないかと機を狙い続けていたんだ」

「実力を考えると、東郷選手が領主となって覇者を目指したほうが手っ取り早かったのでは?」

「領主のままでいられたなら、早急に覇者を目指していた。だがゲームの真実を知る前に、俺は澗宇のために領主をやめて配下になったんだ。同じ陣営で支えてやりたかったが、それが裏目に出てしまった。形式上の負けでも、敗者は覇者になれない。ゲームを終わらせる権利を手にできないと知って、迂闊な自分をいつも呪っていた。だが――」

 不意に東郷さんは俺に顔を向ける。未だに俺の肩を抱いたままで、顔が近い状態で見つめられてしまう。

 乏しい表情だが、東郷さんの細まった目に温かな熱が宿り、彼の感情が――喜びが伝わってきた。

「正代君が本名のまま現実と同じ姿で『至高英雄』に参加していて、初めて目にした時は本当に驚いた。そして期待もした……彼の性格も、伸び代も、何度も真剣に手合わせした俺が一番よく知っている。だから最短の覇道を教えてきたんだ」

 てっきり常敗の俺を情けなく見ていると思っていたのに。ここまで認められていたのだと、改めて嬉しくなってしまう。
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