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第一章 碧玉

十七話

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 ワタシの歩幅に合わせると時間が掛かるからと、今日も、先生に抱っこされての移動になった。

 小さな漁村、そんなに距離があるわけではないのに…と、ちょっと拗ねてると、回りの人達が皆こちらを見て驚いた顔をしている。
 あっ、そうか、見慣れない先生の姿だからね。

 そんな、皆の視線を受けながら、港に近づくと、香ばしい匂いが漂ってきた。漁師さん達が、今朝採ってきた魚や貝を焼いていたり、煮たりしている。自分達の朝食として作っていたものだけど、匂いに釣られて冒険者や、買い付けに来ていた商人達が、掛け合って買えるようにしたもので、少人数の集落にしては、そこそこ規模がある朝市だ。

 フー達親子も何回か来て、食べ歩きを楽しんだ事がある。

「なんか、いつもより人が大勢いますね」

「そうだろうね。代わりの神父を見に来たんじゃないかな?」

「先生も、すごい目で見られてますよ」

「うん、マーヤさんとも話したけど、十年前もこんな感じだったよ。久しぶりだよ、こんな遠巻きに見られるのは…」

 先生が、複雑な表情で、ハハハ…と笑う。

「船が来たぞぉー」

 突然、大きな声が聞こえ、そちらを向けば入り江に帆船が入って来るのが見えた。

「うわっ、大きい…」

 遠目でもわかる大きさで、その帆や船の側面に丸に放射状の線が描かれたマークが見えた。

「もしかして、あれって、教会の船ですか?」

「そうだよ。教会所有の船だよ。先端を見てごらん、アーレィ様の娘で、海風の女神トリス様を奉ってあるだろ。この船が完成し安全祈願をした時に、神託を受けてね『トリス様の像を造り先端に奉れば、海風に愛されるであろう』と、そして、あの像を奉った時から、スムーズに航海出来るようになったそうだよ」

「へぇー」

 船の説明を受けてると、入り江に入って西に少し寄った所で止まった。船の上では、船員さんらしき人達が、叫びながら走り回っている。

「大きな船だからね。ここまでは入ってこれないんだよ。あそこに銛を下ろして、小さい舟に乗り換えてこちらにくるからね」

 先生が言った通り、大きな船から、三艘の小さな舟が下ろされるのがみえた。そして、その舟が近づいてくる。先頭の舟に、船を漕いでいない、黒っぽい茶髪の人と黒髪の人が乗っているのが見えた。と、思ったら、集まった人達の先頭から「わぁっ」という歓声が聞こえた来た。その後に「女性?男性?」「どちらが神父様?」「教会ってのは、綺麗な人しかいないのかい?」なんて言葉が聞こえてきた。
 桟橋に着いた舟から船員さんが素早く降りてきて、ロープを繋ぎ、船を引き寄せなるべく揺れないように足をかけながら、黒っぽい茶髪の人に手を貸し舟からおろした。
 白っぽい肌で、顔も少し丸みを帯びていてる。眼は二重でハッキリしている。堀が深くないせいか、まだ、少年ぽい。

「今、降りたのが代わりの神父のイアスだよ」

「いくつなんですか?」

「確か、今年、三十になるんじゃなかったかな」

「え?本当?」

「童顔で、若く見られる事が悩みらしい」

 そう言いながら、先生が意地悪っぽく笑ってる。
 
 あ、教会で神父様の年齢を言わなかったのって、皆に勘違いさせるため?

 そんな風に考えてると、黒髪の人も舟から降りてきた。そして、顔をあげ皆を見回すと、集まっていた人達が皆静かになった。
 神父様も肌が白いけど、その人は、本当に白くてしかも艶もあって、海で採れる真珠を思わせる様な肌で、髪も凄く艶があり癖なんてどこにもないような真っ直ぐな髪を腰の辺りまで伸ばしていて、動く度にサラサラと音が聞こえて来そうな感じがしてる。そして、顔立ちも、堀が深く、鼻筋も通っていて、教会で見る神様達の石像の様に整った顔をしている。そして、こちらに視線を向け動きを止めた。その眼は、綺麗な緑色で…

 あれ?あの目の色…

「あの方が、クク様だよ」

「え?だ、だって、昨日は…」

「しぃー、皆には内緒だから、話さないように」

「あっ、ごめんなさい」

 そ、そうだよね。昨日会った時は獣の姿をしていたなんて事、大勢の前で話さない方がいいよね。

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