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6話 村人

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 大勢の村人たちが歓声上げていた。
 オーク達のスタンピートにより3つの村が崩壊しそうになっていた所を、謎の少年と2人の老人が助けてくれた事。
 それは即座に吟遊詩人が物語りとして歌い出した。
 もちろん厚化粧をしたオカマ老人と小言ばかりの老人の物語が広まってしまうのは防ぎようが無かった。

 3つの村を代表して1人の村長がやってきた。
 村長は何度も頭を下げてきた。

「この度は3つの村を救っていただきありがとうございます。謝礼ですが・・・」
「気にするな、謝礼はいらない、ただ好きで倒しただけだ。それより情報が欲しい、わしは異世界と呼ばれる場所から来たのだ。この世界でどう生きたらいいのかが分からない」

「なんですてえええええええ」

 村長が答える前に意識を取り戻した聖女騎士団のディアヌがいた。
 彼女はこちらを指差して叫ぶ。


「異世界人なら早く言いなさいよ、その2人の老人も?」

「いえ、2人は神です」

「嘘をこきなさい、どこに厚化粧した神がいるのよ、そっちの老人は長大な槍を持っているし」

「ソレガシの長大な槍は関係なくないかのう?」

「しょうがないわね、これから色々と教えてあげるわ、ありがたく思いなさい」

「それは助かるな」


 村長が突如乱入してきた聖女騎士団のディアヌを見て頭を下げつつも。


「まずはベルルナ街に行きましょう、異世界人なら冒険者ギルドに登録する事をお勧めするわ、この世界には時折異世界人が来ますもの」
「それは助かる。それでこの村は本当に安全なのかのう?」

「オークグランドキングを倒したのだから、数100年は無事よ」
「それを聞けてよかった。村長よわし達の事は気にせず、いつも通り過ごしてくれ、わし達はすぐに出発する」


 しわくちゃの老人である村長はキラキラした微笑みをこちらに向けてくれた。
 マルグロはニヤリとほくそ笑み、ゼウスはウフフと笑い、オーディンはけっと笑った。


 3人の老人パーティーに1人の美少女が加わったのであった。


 沢山の村人達から熱い声援を受けながら、マルグロ達はベルルナ街に向かう為に出発した。
 もちろん少量の食材をリュックに詰め込もうとしたら、オーディンの空間魔法により異空間へ保管された。


 それをギョッとした顔で見ているのが、ディアヌであった。


 <ベルルナ街で冒険者ギルドに登録する事は大事です。冒険者ギルドの事は天の声より当事者に聞いた方が良いでしょう、まずはあなたが気づいていない事からです。モンスターを倒せば倒す程あなたは強くなります。この世界の全ての真理です。レベルという概念はありませんが、経験という概念はあります。あなたが色々な経験を得る事で、強くなる。まぁサッカー選手が何度も練習するような概念です>

 マルグロは納得したとばかりに頷いていた。
 現在マルグロ達は太陽が沈んでいったので、野営する事になった。
 石で火をつけようと知ったら、自分は魔法が使えるという事を忘れていた。
 魔術スキル初級があるのだから。


 焚き火を作ると、ゼウスとオーディンはやはり老人なのか素早く眠りについた。
 四方をオーディンの魔法バリアが覆ってくれており、侵入者が着たら、警報がなる仕組みになっているし、敵対意識があれば弾かれる。


 現在起きているのは、マルグロと聖女騎士団のディアヌ・リーブスだけとなっている。
 ディアヌは焚き火をじっと見ていた。
 

「わしは転生前は爺さんでな」
「だから爺みたいな話し方なんですね」
「まぁ、そんなところだ。おぬしみたいな孫もいたような気がする。ちょっとずつ記憶がおぼろげになっている」
「異世界人は転生するとその前の記憶が少しずつ薄れていくとされているのよ」

「なるほどのう」
「でも経験は消えないから」

「それはすでに知っておるのう」
「それも鑑定したのよね、全く、わたしの故郷はレインボースタンピートにより壊滅したの」

「そのレインボースタンピートとは?」
「数億を超えるモンスターの侵攻よ、それを止めてくれたのが勇者様だった。それは遅かったけどね」


 ディアヌの瞳は涙で少しだけ潤んでいた。
 マルグロとディアヌは焚き火を囲ってただただ静かに沈黙していた。

「約束しよう次にレインボースタンピートが発生したら。わし達と使役した神様達で討伐してくれようじゃ」

 ディアヌはキョトンとしながらもこちらを見て、次に毛布にくるまってグースカしている神様を見た。

「本当にあの2人の老人が神様なのか分からないけど、それでもその神様使役する事がとてつもなく凄いことなのだとわかるわ、いいわ、あなたを信用してあげるわね、それにあれだけの力を見せつけられたら。信じるしかないわよ」

「そう言ってくれると助かるのう、明日は老人の特権として早起きしようじゃないか、見張りはわしとディアヌで交代しながらしよう、あの老人達は久しぶりの外で羽目を外しすぎたようじゃしな」

「やっぱり2人とも神々の神殿にいたのかしら、それは伝説上にあるダンジョンとされるのよ」
「おそらくそれじゃのう、わしは今後そういう所で神々を沢山使役していこうと思う、そして神の軍団を作るのじゃ、冗談です」

「うふふ」


 ディアヌ・リーブスは可愛らしい微笑みを向けてくれた。


「その軍勢は海からやってくる津波のようだった。ゆっくりと押し寄せる津波は、一度の波の軍勢で数千人の人間が殺された。それだけレインボースタンピートは恐ろしいのよ、さて、見た目は少年だけど老人のマルグロさんおやすみなさいですわよ」

「ふわぁああ、ゆっくり眠るとしよう」

 
 そう呟くと、ディアヌは悲しい瞳でこちらを見ていた。
 マルグロはレインボースタンピートが沢山の悲劇を生み出したのだと悟った。
 もし次のレインボースタンピートが起きたら、確実に討伐してくれようと思ったのだ。
 
 そうしてその日はディアヌと交代しながら眠る事となった。
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